「いえ、こちらこそ」

私は一言言って、男は私を見てきた。

「何ですか」

「なんで私のこと知ってるんですかって顔してる。まだ、俺のこと、あまり信用してないでしょ」

「そうですよ。いや、まだ会ったばかりなのにそんな信用とかないですよ」

「武野おばあちゃんから聞いてたんだよ。色々。和歌ちゃんは、どこに住んでいるの?」

「都立空学校の近くです」

私はそう言うと、男は興味津々に聞いてきた。

「へぇ、あそこの近くに住んでいるんだ。じゃあ、結構芸能人と会ったりする?」

「いえ、あまり会わないですよ。芸能人は、たまにしか来ないですし」

私は真顔で男に言う。

男はへぇと言って、テーブルに頬杖をついていた。

「あのさ、さっきから俺のこと呼んでないでしょ。何でもいいから。呼んでいいよ」

「会って、二回目なのに。なんて、呼んだらいいか分からないですよ」

私は男に素っ気なく返事をした。男はニコリと笑い、私に言った。

「天沢さんで、どう? 呼びやすいでしょ」

男は目を細めて、ニコニコと私に提案してきた。
その顔は、誰が見ても整ったシャープな顔に少し細めな目を捉えられたら、誰もが惚れてしまいそうであった。

「……っ、分かりました。天沢さん」

この笑顔は、私をからかおうとして笑った顔なのか、本心で言っているかは分からない。

私は笑わずに、天沢さんに言った。

すると、おばあちゃんは、おまたせー、なんか探すのに時間かかちゃったと言って、テーブルに置いた。

私達は、すぐおばあちゃんの所を見て、お互い目があった。

天沢さんと私は、思ったことは一緒だろう。