にんまりと笑顔で琴葉に笑いかけて、変顔をして返す。いつもの和歌様。
これが私らしい自分。そう、私らしい自分なのだ。
そう心で思っていると、私の背中から何か気配を感じた。
後ろを振り向くと、誰もいなく、ここの生徒しかいなかった。
私はこの気配を誰が予想しただろうか。私を見ていたのは、あのクラスメイトだったなんて。
席に着き、教室の周りを確認する。
相変わらず、いつもと変わらない。でも、何かが引っ掛かる。
「和歌―。何見てんの」
「武蔵(むさし)」
こいつは同じクラスになって、何故か波長があって、良く話すようになった。
「…いや、なんでもないよ」
「そう、それならいいけど」
キーンコーン カーンコーン
鐘が鳴り始めて、私は真剣に授業を聞いていた。その時だった。
何か異変を感じたのは、彼が先生に指名されたことから始まった。
「おい、芹沢。これ答えてみろ」
数学の先生は、しつこく生徒に質問をしてくる。
私達が分からないと思って、甘く見ているから。
「はい」
彼は背筋を伸ばしていて、立ち上がって軽い足取りで黒板に向かっていく。
彼は迷わずにチョークで回答を書いていく。
それは、分かっていることが当たり前のように。
「これでいいでしょうか。先生」