伊都とフーカは電車に乗って、街にあるデパートにやって来た。本当は、伊都の家の近くにある唯一のコンビニで買い物を済ませたかったのだが、フーカがどうしてもデパートに行きたいと言うので、仕方なく隣街にやってきたのだ。弁当だけのためになぜこんな所まで……。伊都は不満だった。
 それに対し、フーカの目はキラキラと輝いていた。彼女は弁当のコーナーに行くまでにも様々な店に入っては、商品を眺めている。もちろん伊都も巻き添えを食らう。おかげで、伊都が弁当を買えたのは、デパートに入ってから一時間後だった。
「やっと買えた……」
 しかし、安心したのも束の間、伊都はその後もフーカに連れられ、様々な店を周回していた。
「なぁ、もう帰ろうぜ……」
 空腹と疲労で、伊都はもう限界だった。
「えー、なんでよ。まだ全部まわっていないじゃない」
「お前、今日一日で全部まわる気かよ!? 何店舗あると思ってんだよ、無理だわ!」
「だって、初めて来たんだもの、こんな夢みたいな場所。もう二度と来られないかもしれないでしょ」
「いやいや、偏見にも程があるだろ! こんな所、電車一本でいつでも来られるぞ」
 フーカは、目をぱちくりさせた。
「本当? 本当にまた来られる?」
「だから、来られるって。また行こうぜ」
「……約束よ」
 フーカは、小指を差し出す。「指切りげんまん」というやつだ。伊都は昔、母や兄とやった時のことを思い出したながら、自分の小指を絡ませた。
「おう。約束だ」
 フーカは安堵の表情を見せた。そしてすぐに解き、出口に向かって歩き出す。家ではデパートも連れていってはもらえなかったのだろう。だから、こういう所に対する憧れが強いのだ。そう考えれば、彼女の話も信じる気にはなってくる。
「あ。あれ……」
 フーカがいきなり立ち止まり、ポツリと呟いた。彼女の目は洋服のコーナーに向けられている。
「なんだよ、また来るって言っただろ。もう帰ろうぜ」
「でも、あれセール中よ。しかも今日まで」
「だからって、見てどうすんだよ。俺、買えねぇぞ? 弁当代しか持ってきてなかったから」
「でも……」
「大体、お前はあっちだろ?」
 そう言って伊都は、反対側にある子供服のコーナーを指さした。途端にフーカが鬼の形相で睨みつけてくる。
「ちょっと、子ども扱いしないでちょうだい!」
「いや、だって、サイズ……」
「もういい。帰るわよ」
 フーカはくるりと背を向けると、スタスタと出口へ向かった。
「ちょ、置いてくなよ!」
 伊都も慌てて着いていった。