もうすぐ六時だ。伊都は、公園のベンチに座って、フーカを待っていた。
「なんか緊張するな……」
彼女に会うのは、本当に久しぶりである。だから、緊張しているのかもしれない。
「早く来ねーかなー」
待っているこの時間が、一番嫌である。どう頑張っても、胸の高鳴りが抑えられないのだ。
伊都は、心をなんとか落ち着けようと、携帯のゲーム画面を開いた。その時、兄からメッセージが届いた。
「お?」
メッセージ画面に移動すると、『ファイトだ』とクマが言っているスタンプが送られてきた。
「ファイト……?」
一瞬、意味がわからなかったが、すぐに悟った。

『誰にも取られないうちに、早く思いを伝えることだな』

一年前に、昏睡状態から目覚めた兄から病院で言われたことである。まさか、今日言えということなのか?
「……無理!」
心の準備をしていない。第一、こんな状態で思いを伝えるなど、無理に等しい。
「言わねぇからな、俺」
なにも今日伝えなくても、いいではないか。一年ぶりの再会だ。そんなこと、言えるような雰囲気にもなりそうにはないし。
「うん、無理だな」
幸いライバルもまだ現れていない。慌てることはないだろう。伊都は、そう自分に言い聞かせた。
「イト」
懐かしい声が聞こえた。伊都は顔を上げる。
「………え?」
そこにいたのは、長いツヤのある黒髪をなびかせたワンピース姿の少女だった。
「……………」
伊都が呆然と見上げていると、彼女は吹き出した。
「なんて顔してるのよ」
「……お前、フーカか?」
「あなた今日他に、私以外の人と待ち合わせしてるの?」
「だって、お前、そんな……え?」
目の前にいるのは、伊都が知っているフーカではなかった。髪が伸び、身長も伸び、顔つきも、体つきも以前に比べだいぶ大人びている。
前と変わっていない所といえば、抜けるような白い肌と、吸い込まれるような大きな瞳くらいだった。
「まさかそんなに驚くなんて」
「お前……この一年で何があったんだよ」
一年でこの成長ぶりは、どう考えても普通ではないと思った。フーカは微笑み、
「隣、座ってもいい?」
と言った。「ああ」と伊都が言うと、フーカは隣に座る。
何だか前までと感じも違う。今までは、時々感じていた大人の雰囲気が、今は全体的に感じる。
「この一年、本当に色んなことがあったの」