「お待たせ、伊都」
待合室で待っていた伊都に声をかけた。伊都は相変わらず、携帯ゲームをしていた。
「おう、おかえり」
誠の方を向き、返事をする。
「どうだった? 兄貴、怖くなかったか?」
「とんでもない。とっても優しかったよ」
「マジ? いいなー俺にも優しくしてくれよ……」
「え? 伊都には怖いの?」
「怖くはねぇけど、すごいパシられる。あと、バカにしてくる」
「なんか、兄弟って感じだね」
「まあ、やっとな」
伊都は白い歯を見せた。
二人で病院を出る。バス停にちょうどバスが来ていたので、乗る。
バスに揺られながら、誠はふと思った。
兄弟、か。一人っ子の誠は、親の期待を一身に受けて育った。彼らは、誠が研究者になることを望み、幼い頃から塾に通わせた。
彼らは厳しかった。結果が全てで、それまでの頑張りだけでは、なかなか認めてくれなかった。
だから誠は、認められたかった。一刻も早く結果を出したいと、高校生ながらに思っていた。
木下に出会った時にも、少なからず心の隅にそんな思いがあった。

『もし、協力してくれたら、君が不老研究者になれるように、サポート出来るかもしれない』

あの時、確かに木下はこう言った。誠はそれに食いついてしまったのだ。結局、そんなうまい話はなく、利用されただけに過ぎなかったのだが。
夢を叶えるのに、きっと近道などない。地道な努力をしていくしかないのだ。
時には遠回りをするかもしれない。道に迷って、立ち止まってしまうかもしれない。
それでも、ただひたすら進んでいくしかない。必ず叶うと信じ続けながら。
誠は、流れゆく街並みを眺めながら、決心した。