「そういえば、唯斗。あなた一人の時に目覚めたのに、よくナースコール押せたわね」
母は思い出したように口にした。確かに、と伊都は思った。
「いや、押してない……」
「え? じゃあ誰が……」
すると、後ろにいた看護師の一人が、
「ああ。それは、別の方がナースコールを押したみたいです。ご家族ではないのですが、よくお見舞いにこられていた方で……」
「それって……フーカ?」
伊都は思わず言った。看護師は不思議そうな顔をする。
「え?」
「あ、いや、その人って……青いパーカー着た女の子じゃ……?」
「ああ、そうです。お知り合いなんですね」
「まあ……」
知り合いも何も、少し前まで同居していたのだが。
「ちなみに、その人って、ナースコール押した後はどこに……」
「それが……私が駆けつけて、少し会話をしたあと、『あとはお願いします』と仰って、病室から出て行ってしまわれて……」
出て行った? なんの為に……? 伊都は考え込んでしまった。
「それでは、我々はこれで。あ、お母さん、今後のことでお話したいことがあるのですが……」
「あ、はい」
母は医師たちと病室を出て行ったので、部屋は、伊都と兄の二人だけになった。
「なんだ、伊都。そんなにあいつに会いたかったのか?」
「はっ……!? な、なわけないだろ。誰があんな奴」
「俺はいいと思うけどな。なかなか似合いのカップルだ」
「カッ!? なんで好きだっていう前提なんだよ!」
「違うのか?」
「フーカなんて、好きでもなんともねぇよ」
「好きでもなんともない奴と、数週間も共同生活出来るのか」
「あれは、仕方なくだっつーの!」
「……仕方なく、か」
兄は、ふっと笑った。「何がおかしいんだよ」と伊都は口を尖らせる。
「いや、青春とは、こんなにも甘酸っぱいものだったのかと思ってな」
「バカにしてるだろ!」
「本心だ」
いや、絶対にバカにしている。伊都は、ふん、とそっぽを向いた。
別に、好きだとか、そういうことではない。フーカと一緒に過ごすのが、少しだけ楽しかっただけだ。ほんの少しだけ……。と、自分に言い聞かせる。
「……伊都」
「なんだよ」
「もしも……もしもの話だ。俺が、立花久美子を好きだと言ったら、どうする」
「……え?」
伊都は、ゆっくりと唯斗の方を向いた。心臓が高鳴る。
「兄貴、あいつのこと……」
「もしも、だと言っているだろう。もしも、好きだと言ったら、お前はどうする」
「どうするも何も……あ、そうなんだって思うだけなんだけど……」
平然と答えたが、それと反比例して心臓の鼓動はどんどんと早くなっていく。
兄が……フーカを……。
「本当か?」
「え?」
「お前の、立花久美子への思いは、本当にそんなものか?」
「それは、その……」
「簡単に他人に渡せるような、そんなに軽い存在か?」
「俺は……………」
頭の奥で、違う、という声がした。
フーカは、そんな存在じゃない。
フーカは、フーカは……。
「誰にも、渡したくなんかねぇよ……」
小さな声で、だがしっかりと伊都は言った。
「うん。そうだろうな」
兄はさらっと口にした。
「なっ……! そうだろうなって、初めからわかってたみたいに言いやがって」
「いや、もう嫉妬が見え見えだったぞ。本心を読み取られたくなかったら、もう少し隠す努力をしたらどうだ」
「う……」
「まあ、そういう事だ。誰にも取られないうちに、早く思いを伝えることだな」
「思いを、伝える……」
「応援しているぞ」
そう笑いながら言った兄の顔を見て、伊都は心がギュッと締め付けられた。
こんな風に、兄が背中を押してくれるなんて、久しぶりだったからだろう。
本当に、変わってくれた。フーカのおかげだ。
「……おう」
伊都は、照れながらも、そう呟いた。
母は思い出したように口にした。確かに、と伊都は思った。
「いや、押してない……」
「え? じゃあ誰が……」
すると、後ろにいた看護師の一人が、
「ああ。それは、別の方がナースコールを押したみたいです。ご家族ではないのですが、よくお見舞いにこられていた方で……」
「それって……フーカ?」
伊都は思わず言った。看護師は不思議そうな顔をする。
「え?」
「あ、いや、その人って……青いパーカー着た女の子じゃ……?」
「ああ、そうです。お知り合いなんですね」
「まあ……」
知り合いも何も、少し前まで同居していたのだが。
「ちなみに、その人って、ナースコール押した後はどこに……」
「それが……私が駆けつけて、少し会話をしたあと、『あとはお願いします』と仰って、病室から出て行ってしまわれて……」
出て行った? なんの為に……? 伊都は考え込んでしまった。
「それでは、我々はこれで。あ、お母さん、今後のことでお話したいことがあるのですが……」
「あ、はい」
母は医師たちと病室を出て行ったので、部屋は、伊都と兄の二人だけになった。
「なんだ、伊都。そんなにあいつに会いたかったのか?」
「はっ……!? な、なわけないだろ。誰があんな奴」
「俺はいいと思うけどな。なかなか似合いのカップルだ」
「カッ!? なんで好きだっていう前提なんだよ!」
「違うのか?」
「フーカなんて、好きでもなんともねぇよ」
「好きでもなんともない奴と、数週間も共同生活出来るのか」
「あれは、仕方なくだっつーの!」
「……仕方なく、か」
兄は、ふっと笑った。「何がおかしいんだよ」と伊都は口を尖らせる。
「いや、青春とは、こんなにも甘酸っぱいものだったのかと思ってな」
「バカにしてるだろ!」
「本心だ」
いや、絶対にバカにしている。伊都は、ふん、とそっぽを向いた。
別に、好きだとか、そういうことではない。フーカと一緒に過ごすのが、少しだけ楽しかっただけだ。ほんの少しだけ……。と、自分に言い聞かせる。
「……伊都」
「なんだよ」
「もしも……もしもの話だ。俺が、立花久美子を好きだと言ったら、どうする」
「……え?」
伊都は、ゆっくりと唯斗の方を向いた。心臓が高鳴る。
「兄貴、あいつのこと……」
「もしも、だと言っているだろう。もしも、好きだと言ったら、お前はどうする」
「どうするも何も……あ、そうなんだって思うだけなんだけど……」
平然と答えたが、それと反比例して心臓の鼓動はどんどんと早くなっていく。
兄が……フーカを……。
「本当か?」
「え?」
「お前の、立花久美子への思いは、本当にそんなものか?」
「それは、その……」
「簡単に他人に渡せるような、そんなに軽い存在か?」
「俺は……………」
頭の奥で、違う、という声がした。
フーカは、そんな存在じゃない。
フーカは、フーカは……。
「誰にも、渡したくなんかねぇよ……」
小さな声で、だがしっかりと伊都は言った。
「うん。そうだろうな」
兄はさらっと口にした。
「なっ……! そうだろうなって、初めからわかってたみたいに言いやがって」
「いや、もう嫉妬が見え見えだったぞ。本心を読み取られたくなかったら、もう少し隠す努力をしたらどうだ」
「う……」
「まあ、そういう事だ。誰にも取られないうちに、早く思いを伝えることだな」
「思いを、伝える……」
「応援しているぞ」
そう笑いながら言った兄の顔を見て、伊都は心がギュッと締め付けられた。
こんな風に、兄が背中を押してくれるなんて、久しぶりだったからだろう。
本当に、変わってくれた。フーカのおかげだ。
「……おう」
伊都は、照れながらも、そう呟いた。