病院に到着後、伊都と母は、唯斗の病室に直行した。田舎にしては広い病院であるが、もう何度も行ったので、方向音痴の伊都でもさすがに分かる。病室に着くなり、扉を荒々しく開け、二人で同時に叫んだ。
「兄貴!」
「唯斗!」
唯斗のベッドの前にいた、医師や看護師が一斉に振り向く。すぐさま道を開けてくれた。
伊都も母も、ベッドに飛びつかんばかりの勢いで、突進した。
「もう、唯斗! 心配したのよ! もう……もう……!」
母は、息を切らしながら、へなへなと座り込んだ。
「母さん……」
兄が驚いた顔をしている。
「俺だって、心配したんだからな……! もう一生、兄貴と喋れないかと思ったじゃねーかよ」
両手をぐっと握りしめながら、伊都は言った。
「伊都……」
兄は、口元を綻ばせ、柔らかい表情を見せた。
「ありがとう。俺を待っていてくれて」
「当たり前でしょう? ずっと、ずっと待っていたのよ……!」
母は、涙混じりの声で返した。
兄の笑顔の、何と優しいことか。少し前までは考えられなかった。伊都は、嬉しくて頬を緩めた。