唯斗のお見舞いに行き、家に帰ってきた伊都は、部屋でボーッとしていた。この夏休みで、色々なことがあり過ぎて、上手く頭が整理しきれていない。
「はぁ……」
先程から、出るのはため息ばかりである。
兄は……唯斗は、あのまま目覚めることはないのだろうか。せっかく和解したというのに、もう一生、会話することは出来ないのだろうか。嫌な考えばかりが頭をよぎる。
「兄貴……俺、やっぱり何も守れなかった」
フーカに続き、兄でさえも守ることができないだなんて。
「ごめん……」
ふと、先程病室で出くわした、フーカの顔が目に浮かぶ。彼女は、ひどく絶望した顔をしていた。せっかくの再会であったが、そのままどこかへ行ってしまったのだ。
多分、兄がこうなったのは自分のせいだと思っているのだろう。
本当はあそこで追いかけるべきだった。だが、伊都の足は動かなかった。
追いかけて、どうする?
追いかけて追いついたところで、彼女にかける言葉なんて、考えつかなかった。だから、そんな状態で追いかけることなどできなかった。
「伊都伊都伊都伊都伊都!!」
下の階から、母の声が聞こえた。あまりにもしつこく呼ぶので、「何だよ、もう……」と部屋の扉を開けた。
すると、階段の下で、母は、信じられない言葉を放った。
「唯斗! 目覚めたって!」
「………え、マジ!?」
「マジに決まってるでしょ! 早く行くわよ、病院!」
「お、おう!」
伊都はあわてて階段を降り、外へ飛び出した。鍵が開くなり、車に飛乗る。母は、制限速度ギリギリで病院まで車を走らせた。