「じゃあ、ごゆっくり」
「ありがとうございました」
唯斗の病室まで来た後、舞子は帰っていった。
病室には、久美子の他に誰もいなかった。伊都たちは帰ったのだろうか。
久美子は唯斗に近付いた。彼は、静かに眠っていた。そういえば、寝顔を初めて見た気がする。久美子のことを匿ってくれた時、いつも唯斗は久美子より先に起きて、遅く寝ていたからだ。
初めて見る彼の寝顔はとても綺麗だった。
「ユイト……お久しぶりです。立花久美子です」
久美子は、唯斗に話しかけた。
「私……あなたのおかげで、命を救われました。本当に、ありがとうございました」
「…………」
もちろん、彼からの返事などない。
「……なんで、なんで私なんかを助けてくれたんですか。あなたが撃たれる必要なんて、どこにもないのに」
気がつけば、久美子は跪いて、唯斗の手を握っていた。
思えば、三年前、一年間ほど一緒にいたのに、久美子は彼の手を握ったこともなかった。そんなことをする必要はどこにもなかった。あの時は彼が生きて、動いていることなど当たり前だったから。
だが、今目の前で生死の境をさ迷っている唯斗を見ると、触れたくてしょうがなかった。
「お願いです。どうか帰ってきてください。皆、あなたを待っています。だから……」
彼にはまだまだ伝えたいことも、聞きたいこともたくさんある。
久美子は、ただひたすらに祈っていた。どうか唯斗が目覚めますように。