学会から三日後。久美子は、唯斗の入院している病室の前にいた。
「………」
あの日、伊都を庇って唯斗が撃たれた後、救急隊員がやって来て、彼は病院に運ばれた。
彼は一命を取り留めたものの未だ意識が戻らず、昏睡状態であると看護師から聞いていた。と言うのも、久美子は唯斗の面会を要求したのだが、唯斗の親族ではない彼女の面会は拒否されていた。それでも彼の様子が心配だった久美子が、しつこく彼の容態を受付の看護師に聞いたところ、教えてくれたのだ。
そして、今日、やっと許可がおりた。久美子は、意を決して病院の扉を開けた。
「!」
そこには、たくさんの管に繋がれた唯斗がベッドに横たわっていた。覚悟はしていたものの、やはり実際に目の当たりにすると、心にくるものがあった。
「ユイト……」
久美子がその場に立ち尽くしていると、すぐ後ろの扉が開いた。あわてて振り返ると、そこに立っていたのは、伊都と伊都の母だった。
「フーカちゃん……」
伊都の母は、驚いた顔をしていた。隣の伊都も、声を出さずとも驚いている。
驚いたのは久美子も同じだった。何故彼らがここに居るのだろう、と思った。
だが、直ぐに気がついた。唯斗が撃たれたあの時、伊都は必死に彼のことを「兄貴」と呼んでいた。つまり、久美子のことを匿ってくれた唯斗は、伊都の兄だったのである。このことは伊都たちには伝えていない。伝えなければ。でも。
「っ……!」
彼をこんな風にしたのは、自分だ。その事実を久美子は伝えられなかった。
久美子は、部屋から出て行った。「待って!」と伊都の母の声がしたが、久美子は止まらず、そのまま廊下を走った。
なんで、自分ではなく、唯斗が撃たれなければいけなかったのだろう。それ以前に、どうして自分はいつも、周りの人を不幸にしてしまうのだろう。
なんで。どうして。自問自答が止まらない。


――私なんか、いなくなればいいのに――