「……これが、僕がしてきたことだよ」
「誠……」
衝撃の事実が次々と発覚し、伊都はまともな返事ができなかった。
誠が木下と接触していたなんて、夢にも思わなかったのだ。そして、あのメッセージのおかげでそんなにも葛藤をしていたとは。
「途中から、変だなとは思っていたんだ。フーカちゃんを探しているっていう話だったのに、段々……捕まえる……みたいな流れになってきて。でも、木下さんの指示は、断れなかったし、何より自分のわがままを叶えようとしたから……。それで……とんでもないことをしたんだって、さっき、やっと気がついた」
誠は、頭を下げた。
「本当にごめん。全部僕のせいだ」
誠は何度も何度も、「ごめん」と繰り返していた。謝ってもどうにもならないことは、彼だって分かっているのだろうが、そうしていないと気が済まないのだろう。
「……俺の方こそ、ごめんな」
「な、なんで伊都が謝るの? 伊都は何も悪くなんか……」
「いや、俺がフーカのこと秘密にしておいたから、こんなことになったんだ」
家でフーカを匿うことなった時、伊都は誰にも相談できなかった。一番信用していた誠にさえ、言うことが出来なかったのだ。
もしあの時、相談することが出来ていたら、誠はきっとフーカを守ることに協力してくれただろう。
「ごめんな、誠」
「伊都……」
誠の瞳から一筋の涙が頬に伝った。
「僕も……僕も相談すればよかった。こんなことになるまで、黙っていてごめんね。本当にごめんね……」
誠は子どものように泣きじゃくった。
伊都は、腹の底から怒りが湧いてきた。誠にではない。木下に対してだ。
木下は、誠を利用したのだ。こんなにも純粋な誠を……。伊都はそれが許せなかった。
「……誠、お前、フーカに会ったんだよな」
「え? う、うん……」
「どこだ、それ?」
「控え室の前の廊下だった」
「控え室……」
ということは、そこに行けばフーカに会えるという事だ。
「控え室なら、僕、道わかるけど……」
「マジか」
「でも、多分フーカちゃんは、そこにはいないよ。時間的に学会も終盤だから、ステージに出てるんじゃないかな……」
「ステージに? なんのために……」
「分かんないけど、でも今日ここに来たってことは、何もしないで終わることはないと思う……」
「なるほどな。じゃあ行くとしたらステージだな……」
フーカを助けなければ。木下のことだ、何をするかわからない。
「ステージは、裏から行けるよな?」
「行けるけど、ものすごい警備だよ」
「そうか……」
「でも、確か非常用の抜け道があって……そこなら誰もいないんじゃないかな」
「抜け道? 本当かよ、なんで知ってるんだ?」
「さっきステージまで案内された時に、通ったんだ。正規のルートは、すごく混雑していたから、ちょっと遠回りになるけどって言われて……」
「じゃあ、そこを通ればいいんだな。サンキュー」
伊都は、元きた道を戻ろうと、回れ右をした。
「……僕も行くよ」
誠の声が背後から聞こえた。振り返ると、誠は、先程まで流れていた涙を拭きながら、しっかりと前を見すえていた。
「抜け道は、迷路みたいな所だから、一人で行くのは危険だよ。僕が案内する」
「……いいのかよ? そんなことしたら、木下を裏切ることになるだろ?」
「もう裏切ってるようなもんだよ。それに、こんなことになったのは僕のせいだから、責任取らなきゃ。……この程度のことで責任が取れるわけないかもしれないけど、でも、僕に出来ることはやりたい」
「誠……」
伊都は、ふっと口元を緩めた。誠は不思議そうな顔をする。
「お前、強くなったな」
「え? そ、そうかな」
「やっぱり嘘」
「え!? ど、どっち?」
声を上げて伊都は笑った。誠もつられて笑っていた。こんなふうに、二人で笑い合うなど、久しぶりだ。
「じゃあ、頼んだぞ、誠!」
「任せて、伊都!」
伊都は、誠とハイタッチをした。
「誠……」
衝撃の事実が次々と発覚し、伊都はまともな返事ができなかった。
誠が木下と接触していたなんて、夢にも思わなかったのだ。そして、あのメッセージのおかげでそんなにも葛藤をしていたとは。
「途中から、変だなとは思っていたんだ。フーカちゃんを探しているっていう話だったのに、段々……捕まえる……みたいな流れになってきて。でも、木下さんの指示は、断れなかったし、何より自分のわがままを叶えようとしたから……。それで……とんでもないことをしたんだって、さっき、やっと気がついた」
誠は、頭を下げた。
「本当にごめん。全部僕のせいだ」
誠は何度も何度も、「ごめん」と繰り返していた。謝ってもどうにもならないことは、彼だって分かっているのだろうが、そうしていないと気が済まないのだろう。
「……俺の方こそ、ごめんな」
「な、なんで伊都が謝るの? 伊都は何も悪くなんか……」
「いや、俺がフーカのこと秘密にしておいたから、こんなことになったんだ」
家でフーカを匿うことなった時、伊都は誰にも相談できなかった。一番信用していた誠にさえ、言うことが出来なかったのだ。
もしあの時、相談することが出来ていたら、誠はきっとフーカを守ることに協力してくれただろう。
「ごめんな、誠」
「伊都……」
誠の瞳から一筋の涙が頬に伝った。
「僕も……僕も相談すればよかった。こんなことになるまで、黙っていてごめんね。本当にごめんね……」
誠は子どものように泣きじゃくった。
伊都は、腹の底から怒りが湧いてきた。誠にではない。木下に対してだ。
木下は、誠を利用したのだ。こんなにも純粋な誠を……。伊都はそれが許せなかった。
「……誠、お前、フーカに会ったんだよな」
「え? う、うん……」
「どこだ、それ?」
「控え室の前の廊下だった」
「控え室……」
ということは、そこに行けばフーカに会えるという事だ。
「控え室なら、僕、道わかるけど……」
「マジか」
「でも、多分フーカちゃんは、そこにはいないよ。時間的に学会も終盤だから、ステージに出てるんじゃないかな……」
「ステージに? なんのために……」
「分かんないけど、でも今日ここに来たってことは、何もしないで終わることはないと思う……」
「なるほどな。じゃあ行くとしたらステージだな……」
フーカを助けなければ。木下のことだ、何をするかわからない。
「ステージは、裏から行けるよな?」
「行けるけど、ものすごい警備だよ」
「そうか……」
「でも、確か非常用の抜け道があって……そこなら誰もいないんじゃないかな」
「抜け道? 本当かよ、なんで知ってるんだ?」
「さっきステージまで案内された時に、通ったんだ。正規のルートは、すごく混雑していたから、ちょっと遠回りになるけどって言われて……」
「じゃあ、そこを通ればいいんだな。サンキュー」
伊都は、元きた道を戻ろうと、回れ右をした。
「……僕も行くよ」
誠の声が背後から聞こえた。振り返ると、誠は、先程まで流れていた涙を拭きながら、しっかりと前を見すえていた。
「抜け道は、迷路みたいな所だから、一人で行くのは危険だよ。僕が案内する」
「……いいのかよ? そんなことしたら、木下を裏切ることになるだろ?」
「もう裏切ってるようなもんだよ。それに、こんなことになったのは僕のせいだから、責任取らなきゃ。……この程度のことで責任が取れるわけないかもしれないけど、でも、僕に出来ることはやりたい」
「誠……」
伊都は、ふっと口元を緩めた。誠は不思議そうな顔をする。
「お前、強くなったな」
「え? そ、そうかな」
「やっぱり嘘」
「え!? ど、どっち?」
声を上げて伊都は笑った。誠もつられて笑っていた。こんなふうに、二人で笑い合うなど、久しぶりだ。
「じゃあ、頼んだぞ、誠!」
「任せて、伊都!」
伊都は、誠とハイタッチをした。