どれくらい時間が経っただろう。気が付けば日が暮れて、月が出ていた。だが、結局、フーカは見つけられていなかった。伊都はとぼとぼと歩いていた。奇跡的に家の近所へと戻って来ていた。
その時、花火のあがった音が、あたりに響きわたった。そうだ。今日は夏休み最終日。フーカと、一緒に行こうと約束していた花火大会の日であった。
上を見上げる。夜空には、色鮮やかな花火が、いくつもあがった。
もし、隣にフーカがいたら、あの無邪気な笑顔ではしゃいでいたのだろうか。それとも黙って空を見上げて、目を輝かせていたのだろうか。
分からない。
分からない。
どんなに考えても、分からない。
「…………っ」
伊都はたまらず、家へと駆け出した。
家へ着き、ドアを開けると、母が「おかえりなさい」と、弱々しい笑顔で迎え入れてくれた。
「……フーカちゃん、無事保護されたそうよ。さっき、ニュースでやっていたわ」
「…………」
「………お腹空いたでしょう? 朝、何も食べないで出ていったから」
「…………」
「今、夕飯の準備するわね」
「…………」
「伊都?」
「………母さん。俺、守れなかった」
伊都は、やっとの思いで言葉を紡いだ。
「そんなこと……」
「何も、出来なかった………」
「!」
不意に、頬を一筋の涙が伝った。自分の無力さと不甲斐なさを嘆いた涙だった。
「伊都………」
「っ……」
一度堰を切った涙は、なかなか止まってはくれない。後から後から溢れてくる。
「……そんなことないわ、伊都」
伊都は母に抱きしめられた。
「手紙を見たでしょう? あの子はあなたにあんなにも感謝しているのよ。……あなたは、頑張ったわ」
優しい声で、母はそう言った。その言葉も、母の温もりも、あまりに暖かくて、伊都の涙は止まるどころか、ますます溢れるばかりだった。