フーカは過去を話すと、項垂れた。
「騙していて、ごめんなさい」
伊都は何も答えられなかった。あまりの衝撃的な話に、頭がついていかなかったのだ。
まさか、彼女が不老者だとは。夢にも思っていなかった。木下の話を聞いても半信半疑だったと言うのに。嘘であって欲しかった。こんな真実、認めたくなかった。でも、彼女の話を信じれば、今まで不思議に思っていたこと全ての謎が解ける。

『いい? 今日から私を二十歳だと思って接して』
どう見ても十二歳だが、自分は二十歳だと何度も言ったこと。

『だから、あなたと恋人って設定も、悪くないかもって、そう思っただけよ』
時々見えた大人の瞬間。

『バカ!! どこ行ってたのよ、心配したじゃない!』
孤独を嫌がった理由。

『暑いけど、なんだか落ち着くのよね。これを着ていると』
青いパーカーへの執着。

色々なことが脳裏に蘇る。
「お前……本当に……」
フーカは家出少女ではないと、何となく分かってはいた。伊都は詮索するつもりはなかったものの気にはなっていたのだ。だが、伊都が知りたかった真実は、こんなものじゃなかった。
「今までありがとう。……さようなら、イト」
フーカは、立ち上がって、伊都の前を通り過ぎた。背後で扉が開く音がする。
彼女はきっとこの家を出ていくのだろう。だが、止めようという気にはなれなかった。
バタンと扉が閉まった。
木下たちは血眼になってフーカを探しているが、なかなか見つからず、ついに、民衆に手を出した。この間の公演で、見つけたら報告してほしい、と言われたのだ。つまり、この家にフーカのいるとバレたら、大変なことになる。そんなことになる前に、出て行ってもらったほうが、フーカにとっても、この家にとっても、好都合なのだろう。
だが、伊都は心の奥底がまだモヤモヤとしていた。ここを出て、フーカはどうするつもりなのだろうか。また、元の生活に戻る他ないのだろうか。そうだとしたら、彼女は生きていくのが難しくなる。
そうなると、どうだ。また、辛い思いをたくさんするのかもしれない。一人ぼっちで寂しい思いもするのかもしれない。そして、幸せだと感じていたここでの生活を思い出し、悲しむのかもしれない。
そう思うと、伊都は胸がぎゅっと締め付けられた。きっと、ここでフーカを止めなかったら、後悔する。これからどう匿うべきかなんて、後で考えればいい。とりあえず、止めることが先だ。
伊都は意を決して立ちあがり、扉を開けた。