「伊都ー! ごめん、遅くなって! 」
公園の入口に誠がいた。伊都は立ち上がって、そばによる。
「誠〜。ありがとな、迎えきてくれて。助かった」
「全然平気だよ。慣れてるから」
「慣れ……ははは」
「……えーと、そちらの方は?」
誠は、伊都の後ろにいるフーカを見て尋ねた。
「あれ? お前この前会ったよな? フーカだよ」
「……ああ! フーカちゃんか! この前と随分雰囲気が違うから気が付かなかった」
その言葉を聞いて、フーカは無邪気に笑ってみせる。
「今日はオシャレしてみたの〜」
「そうなんだー。似合ってるよ」
「えへへ」
得意(?)のロリ声で、誠を思い切り騙している。今日一日、その声で行くのだろうか……。まあ本性など見せようものなら、「この間とキャラも違うね」と言われそうではあるが。それでも、キャラを作るというのは体力を使うものであろう。果たして、今日一日持つのだろうか。伊都は、少し心配になった。
「それじゃあ、行こうか」
「お、おう!」
「わ〜い」
誠に連れられて、伊都とフーカは家に向かった。

「いやー助かったわ。ありがとな、誠!」
 誠の力で、課題はほとんど終わった。
「ううん、気にしないで」
 誠は塾に通っているだけあって、やはりどの教科も抜かりがない。おまけに、教えるのもとても上手だ。
「お前、教師になれるんじゃねぇか?」
「いやいや、とんでもない! 僕には無理だよ」
「えー、勿体ねぇな。俺、誠の授業だったら絶対寝ない自信あるわ」
「いやほら、僕には研究者っていう夢があるから」
誠はサラッと将来の夢を言う。
「そう言えば、そんなこと言ってたな」
「うん。前からずっと憧れてるんだ。伊都のお兄さんは研究者なんだよね? しかもあの「不老者研究グループ」! すごいなー」
「そうなのか?」
誠だけではなく、近所の人たちからよく言われるのだが、伊都は未だにピンと来ない。どうやら「不老者研究グループ」はエリートが集まるところらしい。
「すごいよ。いいなー、一度でいいから会ってみたい」
誠は目を輝かせた。
「そんな、芸能人じゃないんだから、いつでも会えるって」
「本当に!?」
「まあ、どこにいるか知らないけど、携帯では繋がってるから。今日、連絡入れてみるわ」
「ありがとうー!」
とても嬉しそうである。伊都の記憶では、誠の喜びようは、テストで良い点を取った時よりも遥かに上だった。
「あ、ねぇ伊都」
「なんだ?」
「研究者の話で思い出したんだけど、実はね」
誠は、一旦立ち上がって、離れたところにある勉強机から、一枚のチラシを取り出した。そして、それを伊都に見せる。
「これ、知ってる? 駅前で配ってたんだけど」
チラシには「研究者講演会」と書かれている。見たこともないチラシだったので、伊都は首を振った。
「僕さ、これに行こうと思ってて。あの、良かったら、伊都も一緒に行かない?」
「え、俺?」
「うん。ちょっと、ひとりじゃ不安で……」
誠は不安げな表情で、伊都を見る。正直、伊都はあまり研究者には興味はない。だが、誠にはいつも世話にはなっているし、何しろ今日の勉強会がなければ、伊都の課題は終わっていなかった。
少し考え、伊都は首を縦に振った。
「おう、いいぜ。俺とでいいなら」
「本当? ありがとう! じゃあ、これあげるよ」
誠は伊都にチラシを渡した。チラシには、場所と日時、そしてその他の詳細が書かれていた。
「えー、場所は公民館で、時間は十四時で、日付は……え、明日!?」
「明日だよ」
「早くね!? こ、心の準備が……」
「そんな、身構えなくても大丈夫だよ」
誠は笑いながら言う。お前は不安なんじゃなかったのかよ。と伊都は軽く心でツッコミを入れる。
「じゃあ、十三時半に公園で待ち合わせね!」
「おう」
伊都は立ち上がって、伸びをする。
「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。今日はありがとな」
「いやいや、とんでもない」
「ほら、帰るぞ」
伊都は読書をしていたフーカを揺すった。
「えー、まだ途中なのに」
「だめだ、帰るぞ」
「もうちょっとだけ」
「お前が読み終わるの待ってたら明日になるわ」
フーカはむくれながら、とんでもなく遅いスピードで、立ち上がる。それを見かねたのか、
「良かったら、持っていきなよ」
と誠は言った。その瞬間、ぱっとフーカの顔が明るくなる。
「いいの!?」
「うん。どうせ、いっぱいあるし、いいよ」
「ありがとう!」
超絶可愛い笑顔でフーカはお礼を言う。伊都は、なんだか悔しかった。
「じゃあ、帰るぞ」
「うん!」
「またおいでよ」
「おう、ありがとな」
伊都はフーカを連れて、誠の家を出た。