しばらくして、フーカはようやく伊都から離れた。
「暑っつ」
「離れて第一声がそれかよ」
「だって、暑いんだもの」
「お前から抱きつきに来たんだろ……」
すっかり、いつものフーカに戻っていた。
「で、どこへ行ってたの?」
「ああ、ちょっと買い物に」
「買い物?」
「まあ、その……渡した方が早いな」
そう言うと、伊都は、持っていた袋をフーカに渡した。袋の中には、洋服が入っている。よく分からないまま、中を取り出して見てみると、青い格子柄のワンピースが出てきた。
「それ、やるよ」
「……え、私に?」
「おう」
「……なんで?」
「お前、あの古いパーカーの下に、いつも俺のお下がり着てるだろ」
「ええ、そうね」
「でも、母さんが、やっぱり女子用の服もあった方がいいって」
「……なるほどね。それで、お母さんに言われて、私に内緒で買ってきたと」
「そういうことだ」
何とも伊都らしい理由であった。それでも、フーカは嬉しかった。自分の為に、彼がこれを選んで、わざわざ買ってきてくれたということが。
「ありがとう。大切にするわ」
「おう」
フーカは、丁寧にワンピースを畳むと、ようやくカーテンを開けた。夏の日差しが、窓から差し込み、眩しさに思わず目を細める。
空は、青く青く澄み渡っていた。これは、夢ではない。確かに現実だ。
なぜそう思えたのかは分からない。だが、今いるこの世界は、本物だ。