夕飯を食べ終え、寝る前の準備を済ませた伊都は、ベッドに寝転がった。
「ったく、なんなんだよあいつは……」
先程のフーカの言った言葉と、彼女の微笑みが、伊都の頭から離れない。
普段は、完全に大人びた子ども。だが、ある時突然、大人になる。そのあまりにも急激な変化に、伊都は思わず、ドキリとしてしまったのだ。いや、男なら誰だって、あんなことを、あんな表情で言われたら、ドキリとするだろう。と、正当化しなければ、とても気持ちを抑えられそうになかった。
「あれ……無意識なのか? それとも……」
ガチャっ。扉が開いて、フーカが入ってくる。伊都は、驚きのあまりベッドから落ちそうになる。
「うっわ、びっくりしたー!」
「なによ、うるさいわね」
「お、お前ノックぐらいしろよ!」
「なんで自分の部屋にノックしなきゃいけないのよ」
「いや、ここ俺の部屋……」
「私の部屋でもあるの」
やはり、先程のフーカの面影はない。あれは、伊都の見間違いとか聞き間違いだったのだろうか、と疑うレベルである。
「なに、ずっと見てるのよ」
「い、いや! 何でもない」
「? 変なの」
変にフーカを意識してしまい、思わず不自然な振る舞い方になる。そんな伊都にお構いなく、フーカは床の布団に入った。近くにあるリモコンで電気を消し、「おやすみなさーい」と、就寝モードに入った。すぐさま寝息が聞こえてくる。フーカは寝るスピードが異常に早い。
「はぁ……」
伊都はやりきれない気持ちを残したまま、目を瞑った。カーテンの隙間からは、月明かりが微かに差し込んでいた。