結果、遊園地には一度も迷うことなく着いた。伊都は、フーカの後を付いて行っただけであるが。
「なんだ、簡単じゃない。やっぱり地図って偉大ね」
フーカは、地図に感心していた。
「全然共感出来ねぇ」
「でしょうね。むしろ、敵視してるでしょ、地図」
「その通りだ」
「それがいけないのよ、きっと。友達になれるよう努力したら?」
「無理だ。あいつとは一生友達になれない」
「あら、そう。じゃあ、仕方ないわね」
「っていうかお前、暑くねーのか?」
フーカは、普段伊都のお下がりを着ているのだが、その上に必ずあの青いパーカーを羽織っているのだ。いくら田舎とはいえ、夏は暑い。伊都は不思議でならなかった。
「暑いけど、なんだか落ち着くのよね。これを着ていると」
「ふーん……」
他愛もない話をしながら、券売機の前までくる。「大人:千円」「小人(中学生以下):五百円」と書かれていた。伊都は、じっとフーカのことを見る。
「……なによ」
「うん、中学生に見えるな」
そう言って、伊都は「小人」のボタンを押そうと手を伸ばす。咄嗟にフーカがその腕を掴む。
「ちょっと待って、どういう意味?」
「だから、中学生に見えるなーって」
「誰が?」
「お前」
次の瞬間、伊都はフーカに左足のすねを蹴られた。
「いっ……!!」
「あなた、私が一週間前に言ったこと忘れたの?」
「一週間前?」
「二十歳として接してって言ったでしょ」
「あーちょっと覚えてなかったわ。ほら俺、方向音痴だし」
「関係ないわよ!」
「えーだって、大人と子供で全然値段違うんだし。いいだろ、中学生で」
「良くない!」
「何でだよ……」
彼女がそこまで、「二十歳」にこだわる理由は、一体何なのか。謎である。
「とにかく、私は大人なの! いいわね!」
そう言って、フーカは「大人」のボタンを押す。
「はいはい……」
伊都は、二千円を入れ、大人二人分のチケットを購入した。二人は受付まで向かう。
「すみません、これでお願いします」
伊都は、受付の女性にチケットを渡す。
「……えーと、小学生の方は半額となりますが」
と、女性はフーカを見ながら言った。どうやら、フーカを「小学生」であると認識したらしい。
「…………」
ふと背後からものすごい負のオーラを感じた。後ろのフーカを見ると、ものすごい形相で伊都を睨みつけてきていた。まずい。中学生よりもさらに年下に見られたことで、怒りのスイッチが入ったようだ。あわてて、
「あ、そのままで大丈夫です」
「本当に、大人二名で、よろしいですね?」
「はい、大丈夫です」
「……かしこまりました」
女性は、まだ納得していないようだったが、二人を大人として通した。ものすごく満足気な表情のフーカを見て、伊都は大きなため息をつく。
「なによ、ため息なんかついて」
「いや、別に……」
なんで自分がこんな少女に振り回されなければならないのだろう……と思っていたことは言わないでおいた。