進路指導室。
そこは学生なら誰もが恐れるところではないだろうか。普段から素行が悪い生徒、問題を起こした生徒などが、休み時間や昼休みに呼び出されては、先生から説教を食らう。そんな場所。無論、呼び出されるのにはそれだけではなく他にも様々な理由があるのだが、「進路指導室に呼び出される」というのはあまり喜ばしいことではない。生徒たちは進路指導室が自分たちとは無縁な場所であるように日々願っていた。
まあ進路指導室に呼び出されるのは、「ちょいワル」か「相当なワル」くらいで、ちゃんとしている自分たちは大丈夫だろう、と大抵の生徒は思っていた。しかし、いくらちゃんとしていても、少しの過ちで呼び出されることもある。
現に、今日呼び出された男子生徒だって、普段からちゃんとしていたのだ。
「だから、違うって!」
霧野 伊都。只今喧嘩の真っ最中。彼は、とある理由で三日間の自宅謹慎の危機に直面している。理解を示さない教師に、彼は本気でぶちギレていた。
一方、今年から伊都の担任であり、進路指導担当でもある穂積武は、ダルそうに、しかし、しっかりと自身の主張を述べてくる。
「だから、いくら君が違うって言ってもね、実際やっちゃってるでしょうが。今回のことは、完全に君の方に非がある」
「いや、だから俺は!」
「はいはい。もう言い訳は聞きたくないから、言わなくていいよ」
「言い訳じゃないんです!信じてくださいよ、穂積先生」
彼は、もうブチ切れを通り越して半泣きである。そんな彼を、穂積はうちわで仰ぎながら、気だるそうに見ていた。

霧野 伊都は、至って普通の男子高校生である。髪色は黒、制服もさほど着崩してはいない。もちろん、ピアスも開けていない。そんな彼が、なぜ進路指導室に呼び出されてしまったのか。話は前の日の昼に遡る。