「お前のファン層って、どんな感じ?」
「多いのは二十代かな」
「男女比率とか、ファンの人たちが持っている他の趣味は?」
「女性の方が多い気がする。他の趣味なんて知らないけれど、まあ、音楽じゃないのか?」
「じゃあ、ファンレターはどんな便箋でくる?」
「色々」
「お前に聞いても収穫がないな」

 天田ダンススクールのレッスン場である。あの日以来、どうにも事務所のレッスン室に足が遠のいており、この場所で練習することが増えていた。時間の制限も、利用料金の掛け算も、騒音も気にせず、使うことができる。GPSでも付いているのか、もれなく一馬も現れる仕様だが、好条件の前では大した問題ではない。

「そういえば、見てほしいものがあるんだけれど」
「何?」

 僕は自分のスマートフォンを彼に見せた。この前撮ったダンス動画だ。好きな曲に振りをつけたのは、単なる遊びだった。けれども、持ち曲ではないせいか、無駄な力が入らないことが気に入って、身の入らないときに軽く流すようになった。停止ボタンを押し忘れた機械が一日中レッスン場を映して、休憩時間をも捉えたのは偶然だった。

「これを動画投稿のSNSに載せるのはどうかなって」

 僕の持ち曲ではない分、ファン以外にもキャッチーだろう。

 約五分間の沈黙を終えた瞬間、待ち構えていたクラッカーのように一馬が言う。

「撮り直そう」

 僕のスマートフォンをひったくり、動画を冒頭から再生し始める。

「遊びで踊るな、本気でやれ。お前、アクロできただろ? イントロに入れられないか? というか、オリジナル曲じゃないなら、もう少しメジャーどころを攻めろよ。そもそも、フルで踊っているけれど、データのサイズを考えろ。ちなみに、この長さじゃ、再生ボタンを押すにも勇気がいるからな。三十、いや、二十、うん、三十秒以内をピックアップしよう。あと、投稿するなら、こっちのSNSの方がいい。おい、笑え」
「は?」

 止めるより先にシャッター音が響く。

「動画の前にこれを貼って投稿しろ」
「なんで?」
「ダンスの投稿を見たあと、興味がわけば、お前のアカウントのトップページに飛ぶ。その時に、直近の投稿が数個は見られる。先に整えておくぞ。お前のそこそこの顔面はこういうときに便利だな。うんこって書いてあるのは消しておけよ」
「書いていない」
「いや、でも、消すと詮索されるか」
「書いていないから消す必要はない」

 撮られた写真を確認する。驚いたせいか、目がぱっちりと開かれ、幼い顔立ちが強調されているように思えた。あまり好きではない写りだ。セットもしていない前髪と、いつ買ったのか覚えてもいないキャラクターもののTシャツが、ますます僕を大人から遠ざけている。