ペダルを漕げば漕ぐほど横の景色は変わっていき、流れてくる風も強くなる。
消えていく景色、後ろへ飛んでいく風。
 僕は自転車に乗っている。
真っ暗な闇の中、小さなライトの光を頼りに進んでいる。
ここら一帯は都会でもなければ田舎でもない。田んぼや畑が広がる隣には、県有数のショッピングモールや映画館、娯楽施設が並んでいる。
だからわざわざこんな田んぼ道を通らなくたって右に少し行けば道も整備されライトが照らす明るい通りに出る。田んぼ道じゃ地面はデコボコだし泥で自転車は汚れるし、ライト一つ無いからこんな夜中では道が見えない。でも今はあえてこの道を選んで走っている。
それは僕が耳にイヤホンをつけて走っていて、それを警察に見られて注意されるのがいやだからでは無い。
理由を述べるとしたら

あの明るさには耐えられない。

から。イヤホンからは何も流れていない。
ジャックは音楽のリストが入ったスマホにちゃんとささっている。ただ流していない。音楽が雑音と感じるから。いつもそういう訳じゃない。どちらかと言えば音楽は好きな方だ。今この瞬間が特別僕にとって音楽が雑音とかしていた。
なぜなら脳内ではこの黙示録が流れているから。僕のあらゆる気持ちがぐちゃぐちゃとなりながら僕がパーソナリティを務めるラジオが流れているから。
つまり貴方達はこのラジオのリスナーな訳だ。どうやって僕の脳内に君達が入ってきたのかは分からないけど、意味が分かる?
まぁ意味が分かんなくたって良い。ここはさほど重要じゃないから。重要なのはなんで僕が夜中に一人で自転車を漕いでいるのかと言う事。

前の方に工業地帯の明かりが見える。あそこで闇と光の境界を作っている。
昔はあそこがいつも光っているから理想郷の様に見えたけど、いつからかそんな馬鹿みたいな事を考えなくなっていた。でも、今日はなんだか理想郷に見える。目的地も決めずに漕いでいたがようやく目指す所が出来た。
とりあえずあそこまで向かってみよう。
その途中で僕がなぜ自転車を漕いでいるのか教えようと思う。