広い板張りのきれいな道場の中で、道着を着て木刀を振る刀祢の姿があった。
まるで、ゆくりと舞を踊るように、ゆっくりと体を動かして、体の動きを確かめる。そして木刀をゆっくりと動かしていく。
木刀をゆくっりと確実な軌道で動かすことは、素人から見れば簡単なことだが、実は相当な筋力と精神力が必要な訓練だ。
刀祢は体から大量の汗を流しつつ、段々とゆっくりと木刀を振っては、止めて、木刀の軌道を確かめる。
少しでも木刀が震えたり、先がブレてはいけない。木刀をビシッときれいに操作する必要がある。
風月流剣術の基本の型を何回も繰り返して、1人で訓練に励む。
風月流剣術は3代目服部半蔵正就が開祖と言われているが、確かな文献はない。風月流剣術は木刀を使った実戦剣術で、脛斬りまでも剣術に取り入れている。
しかし、京本家の両親や兄の公輝、剣斗は本気で信じている。刀祢にはそんな歴史のことはどうでも良かった。体さえ動かせればよい。
刀祢が初めに持たされた玩具は幼児用の木刀である。まだ3歳になったばかりの頃だ。木刀が何かもわからず、兄貴達の真似をして木刀を振っていた思い出がある。
6歳になってから、道場で本格的な訓練が始まった。
道場での勝負は寸止めであり、決して相手を木刀を当ててはならない。瞬発的に振っている木刀を一瞬で止める技術も必要とされる。これができなければ組手での練習をすることは禁じられている。
6歳の時から組手の練習をしていた刀祢は実に早熟な剣士だった。心寧は小学校3年生、9歳の時に風月流剣士となった。
心寧が組手の相手をできるようになったのは11歳の時である。それまで2年間は木刀での素振りと見切りの訓練が中心だった。
道場に誰かが入ってきた。振り返ると更衣室で道着に着替えてきた直哉と心寧だ。
直哉は中学1年生の時から道場に通っているが、真剣に取り組むほうではなく、最近では、サボることも多い。
心寧は今でも熱心に道場に通ってきている。刀祢にとっては小学校からの一番身近な付き合いの相手だ。
「直哉が来るなんて、最近では珍しいな」
「ああ、心寧に誘われてね。女の子に誘われたら嫌とはいえないさ。相変わらず刀祢は熱心だな」
「そうでもない。体が鈍っている感じが抜けない。久しぶりに直哉、組手でもするか」
「体が温まったら相手をしよう」
そういって直哉は木刀を持って素振りを始める。そして段々と木刀をゆっくりと振っていく。そして体を徐々に慣らしていく。直哉の体から汗が噴き出す。
心寧も直哉と一緒に、木刀の素振りから体を慣らしていく。道着を着て木刀を振る心寧の姿は、まさに美少女剣士である。体は凛としていて、真剣な横顔はとても凛々しい。
「刀祢、直哉との組手が終わったら、私と組手の相手をしてよ。いつものように逃げないでね」
「別に心寧から逃げてない。俺は女性に剣を向けないだけだ。勘違いすんな!」
「学校では私のことを全く女子扱いしないのに、こんな時だけ女子扱いしないでよ」
刀祢は心寧と組手の練習をするのが苦手だ。刀祢は女性との組手を避けている。
小学生の時、心寧と組手の練習をしている時に、心寧を動きを予想しきれずに、木刀の寸止めができず、心寧の額に傷を負わせたことがある。
心寧も女の子だ。女子にとって顔は命のはず。その顔に傷を負わせたことで、刀祢は女子との組手をするのを避けるようになった。女子に本気で木刀を向けられない。
正確にいうと、女子だと面への攻撃ができなくなった。無意識に避けてしまう。そのおかげで心寧との組手では、負け続きになっている。そのことを心寧は知っている。
「そろそろ、直哉も体が温まっただろう。組手をやろぜ。今日も俺が勝たせてもらうがな」
「確かに俺は道場をサボっていることも多いが、簡単には勝たせない。今日こそは刀祢に参ったと言わせて見せる」
刀祢は心寧の言葉を聞かなかったことにして、直哉と組手を始める。普段は直哉は練習をサボっているが、筋は良く、剣技には光るモノがある。
直哉の身長182cmという長身から振り下ろされる木刀は早くて鋭い。刀祢は178cmの身長があるので、直哉と組手は丁度良い。
直哉の木刀を見切りで躱し、木刀で受け流す。直哉は真剣に打ち込んでくるが、刀祢は舞うように木刀を躱し、きれいに木刀を受け流す。
直哉は真剣に刀祢を倒そうと、全力で木刀を振るうが、組手が終わるまで刀祢は見事に直哉の剣を躱し続けた。
「こら! 刀祢、せっかく組手してるんだぞ! 本気を出せよ!」
「本気を出して欲しかったら、直哉も、もっと本気で倒しに来い。もっと真剣になれ」
直哉の剣には光るモノはあるが、まだまだ未開発の原石のようなものだ。刀祢が本気になれば数分で決着がついてしまう。そのほうが組手にならない。このことは直哉に黙っておく。
「次は私と組手よ。本気を出さないと木刀で叩くわよ。刀祢、本気で相手してね」
「わかってるよ。本気で相手をすればいいんだろう。毎回、本気、本気って、心寧はうるさいな」
心寧が木刀を構えて、真剣な顔で刀祢へ向かってくる。技術の高い心寧では、刀祢も木刀で心寧の剣技を受けるのがやっとだ。
そして、胴や籠手、膝を狙って木刀を振る。身の軽い心寧は舞うように刀祢の木刀を受け流して躱していく。
「どうして面を狙わないの! もっと本気を出して!」
「クッ!」
心寧が本気を出してきた。段々と追い詰められる刀祢。最後には心寧の木刀が、刀祢の面を捉える。刀祢の顔の前で木刀が止められる。
「参った。俺の負けだ」
「私、相手だと本気になれないと言うの。私が女だからなの?」
「俺は本気で心寧の相手をしてたぞ!」
「嘘! 私の顔を絶対に狙わないよね。私、知ってるんだからね!」
「―――――」
心寧は残念そうな顔をして道場の隅まで歩いていくと、座ってタオルで首や顔を拭いている。
刀祢達は道場においてある自販機でジュースを買って、休憩を取ることにした。
まるで、ゆくりと舞を踊るように、ゆっくりと体を動かして、体の動きを確かめる。そして木刀をゆっくりと動かしていく。
木刀をゆくっりと確実な軌道で動かすことは、素人から見れば簡単なことだが、実は相当な筋力と精神力が必要な訓練だ。
刀祢は体から大量の汗を流しつつ、段々とゆっくりと木刀を振っては、止めて、木刀の軌道を確かめる。
少しでも木刀が震えたり、先がブレてはいけない。木刀をビシッときれいに操作する必要がある。
風月流剣術の基本の型を何回も繰り返して、1人で訓練に励む。
風月流剣術は3代目服部半蔵正就が開祖と言われているが、確かな文献はない。風月流剣術は木刀を使った実戦剣術で、脛斬りまでも剣術に取り入れている。
しかし、京本家の両親や兄の公輝、剣斗は本気で信じている。刀祢にはそんな歴史のことはどうでも良かった。体さえ動かせればよい。
刀祢が初めに持たされた玩具は幼児用の木刀である。まだ3歳になったばかりの頃だ。木刀が何かもわからず、兄貴達の真似をして木刀を振っていた思い出がある。
6歳になってから、道場で本格的な訓練が始まった。
道場での勝負は寸止めであり、決して相手を木刀を当ててはならない。瞬発的に振っている木刀を一瞬で止める技術も必要とされる。これができなければ組手での練習をすることは禁じられている。
6歳の時から組手の練習をしていた刀祢は実に早熟な剣士だった。心寧は小学校3年生、9歳の時に風月流剣士となった。
心寧が組手の相手をできるようになったのは11歳の時である。それまで2年間は木刀での素振りと見切りの訓練が中心だった。
道場に誰かが入ってきた。振り返ると更衣室で道着に着替えてきた直哉と心寧だ。
直哉は中学1年生の時から道場に通っているが、真剣に取り組むほうではなく、最近では、サボることも多い。
心寧は今でも熱心に道場に通ってきている。刀祢にとっては小学校からの一番身近な付き合いの相手だ。
「直哉が来るなんて、最近では珍しいな」
「ああ、心寧に誘われてね。女の子に誘われたら嫌とはいえないさ。相変わらず刀祢は熱心だな」
「そうでもない。体が鈍っている感じが抜けない。久しぶりに直哉、組手でもするか」
「体が温まったら相手をしよう」
そういって直哉は木刀を持って素振りを始める。そして段々と木刀をゆっくりと振っていく。そして体を徐々に慣らしていく。直哉の体から汗が噴き出す。
心寧も直哉と一緒に、木刀の素振りから体を慣らしていく。道着を着て木刀を振る心寧の姿は、まさに美少女剣士である。体は凛としていて、真剣な横顔はとても凛々しい。
「刀祢、直哉との組手が終わったら、私と組手の相手をしてよ。いつものように逃げないでね」
「別に心寧から逃げてない。俺は女性に剣を向けないだけだ。勘違いすんな!」
「学校では私のことを全く女子扱いしないのに、こんな時だけ女子扱いしないでよ」
刀祢は心寧と組手の練習をするのが苦手だ。刀祢は女性との組手を避けている。
小学生の時、心寧と組手の練習をしている時に、心寧を動きを予想しきれずに、木刀の寸止めができず、心寧の額に傷を負わせたことがある。
心寧も女の子だ。女子にとって顔は命のはず。その顔に傷を負わせたことで、刀祢は女子との組手をするのを避けるようになった。女子に本気で木刀を向けられない。
正確にいうと、女子だと面への攻撃ができなくなった。無意識に避けてしまう。そのおかげで心寧との組手では、負け続きになっている。そのことを心寧は知っている。
「そろそろ、直哉も体が温まっただろう。組手をやろぜ。今日も俺が勝たせてもらうがな」
「確かに俺は道場をサボっていることも多いが、簡単には勝たせない。今日こそは刀祢に参ったと言わせて見せる」
刀祢は心寧の言葉を聞かなかったことにして、直哉と組手を始める。普段は直哉は練習をサボっているが、筋は良く、剣技には光るモノがある。
直哉の身長182cmという長身から振り下ろされる木刀は早くて鋭い。刀祢は178cmの身長があるので、直哉と組手は丁度良い。
直哉の木刀を見切りで躱し、木刀で受け流す。直哉は真剣に打ち込んでくるが、刀祢は舞うように木刀を躱し、きれいに木刀を受け流す。
直哉は真剣に刀祢を倒そうと、全力で木刀を振るうが、組手が終わるまで刀祢は見事に直哉の剣を躱し続けた。
「こら! 刀祢、せっかく組手してるんだぞ! 本気を出せよ!」
「本気を出して欲しかったら、直哉も、もっと本気で倒しに来い。もっと真剣になれ」
直哉の剣には光るモノはあるが、まだまだ未開発の原石のようなものだ。刀祢が本気になれば数分で決着がついてしまう。そのほうが組手にならない。このことは直哉に黙っておく。
「次は私と組手よ。本気を出さないと木刀で叩くわよ。刀祢、本気で相手してね」
「わかってるよ。本気で相手をすればいいんだろう。毎回、本気、本気って、心寧はうるさいな」
心寧が木刀を構えて、真剣な顔で刀祢へ向かってくる。技術の高い心寧では、刀祢も木刀で心寧の剣技を受けるのがやっとだ。
そして、胴や籠手、膝を狙って木刀を振る。身の軽い心寧は舞うように刀祢の木刀を受け流して躱していく。
「どうして面を狙わないの! もっと本気を出して!」
「クッ!」
心寧が本気を出してきた。段々と追い詰められる刀祢。最後には心寧の木刀が、刀祢の面を捉える。刀祢の顔の前で木刀が止められる。
「参った。俺の負けだ」
「私、相手だと本気になれないと言うの。私が女だからなの?」
「俺は本気で心寧の相手をしてたぞ!」
「嘘! 私の顔を絶対に狙わないよね。私、知ってるんだからね!」
「―――――」
心寧は残念そうな顔をして道場の隅まで歩いていくと、座ってタオルで首や顔を拭いている。
刀祢達は道場においてある自販機でジュースを買って、休憩を取ることにした。