期末考査のテストが終わり、学校の掲示板にテスト結果が張り出された。莉奈は相変わらずの5位、心寧は32位と頑張った。

 直哉と刀祢は掲示板には張り出されなかったが、平均点以上の点数を取って、少し成績が上昇した。

 終業式も終わり、今日は12月24日のクリスマスイブ。

 冬将軍が到来したような空模様は、灰色をしていて、空から本の少し、小雪が舞い落ちてくる。吐く息も白く見える。

 刀祢はあまり無駄遣いをしない。2学期の始めからもらっているバイト代は少しづつだが、銀行に貯金され、刀祢は金欠生活から脱出している。

 終業式の前の日に、刀祢は莉奈に、心寧へのクリスマスプレゼントを一緒に選んでほしいとお願いした。莉奈は快く承諾してくれた。

 12月24日のクリスマスの日に、隣街へ行って、直哉と2人でデートをするという。その時に、心寧のプレゼントを隣町で選んでくれることになった。

 そして、今、刀祢は直哉と莉奈に連れられて、デパートにある宝石店のテナントへ来ている。


「心寧に似合うモノを選ばないとね」


 莉奈は張り切って、心寧のプレゼントを探してくれている。


「俺も一緒に選んでやるよ。これでもプレゼントには自信があるんだ」


 直哉も莉奈の隣で、プレゼントを探し始めた。

 直哉は既に莉奈に渡すプレゼントを購入済という。刀祢が何をプレゼントするのか、直哉に聞いてみると、それは莉奈と2人だけの秘密と言って爽やかに微笑んだ。

 直哉と莉奈が1つのネックレスの前で視線を止める。18金のハート型のネックレスだ。


「これ、心寧に似合いそう。心寧がつけると、可愛くなると思うわ」

「やっぱり付き合い始めの頃は、記念に残る品がいい。俺も莉奈の意見に賛成だ」


 刀祢も一目見て、ハート型のネックレスを気に入った。店員お姉さんに頼んで、ジュエリーBOXに入れてもらって、包装袋に入れてもらってラッピングをしてもらう。そして紙袋を右手で持つ。


「これで俺と莉奈の頼まれごとは終わりだな」

「この後は心寧と2人で楽しんでね。私と直哉も楽しんでくるわ」


 2人はそう言って、デパートの中で、刀祢から離れて、直哉と莉奈は腕を組んで寄り添って去っていった。

 心寧と待ち合わせした時間までファーストフード店で時間を潰して、店内から街の人波を見る。今日はクリスマスイブなので、街中を歩くカップルが多いように思える。皆、嬉しそうに腕を組んで、寄り添って歩いている。

 待ち合わせの時間より15分早く、駅まで心寧を迎えに行くと、既に心寧は白のコートを着て、改札口の所で刀祢を待っていた。


「待たせたかな?」

「ううん、私が早く着き過ぎちゃったの」


 艶々の黒のロングストレートに白のコートに際立つ。


「少し化粧をしてきたんだけど似合う?」

「よく似合ってるよ」


 ほんのりとした薄化粧にピンクのグロスが良く似合っている。

 刀祢が予約している映画の上映まで、まだ2時間近く、時間がある。2人は雑踏の中を腕を組んで寄り添い歩いて、1件の小さな喫茶店の中へと入る。

 喫茶店の中は小さくジャズピアノの演奏が流れていて落ち着いた雰囲気だ。4人掛けのテーブルに2人で対面に座る。

 店員が注文を取りにくる。刀祢はブラックコーヒーを頼み、心寧はカフェラテを頼む。

 映画館の暗闇の中では心寧にプレゼントを渡せない。刀祢は右手に持っていた紙袋を心寧に渡す。心寧は嬉しそうに紙袋の中から包装袋を取り出して、中のボックスを取り出してフタを開ける。


「わあ、きれいで可愛いネックレスね」


 18金のハート型のネックレスを見て、とても嬉しいと刀祢に微笑む。心寧は自分でネックレスをつけると、心寧の胸元にハート型のネックレスが輝く。

 心寧が持っていた紙袋を刀祢に渡す。中にはカシミヤの黒のセーターが入っていた。とても触り心地が良い。刀祢は一目で、カシミヤのセーターを気に入った。


「実はそのネックレス、直哉と莉奈に選んでもらったんだ。俺だと、どんなネックレスが良いのか、わからないから」

「こっそりと莉奈に頼んでいたのね。今度、2人にもありがとうって言わないとだね」


 心寧はネックレスに手を添えて上機嫌だ。


「誰が選んだのでも良いよ。刀祢が私にプレゼントしてくれたことが一番、嬉しいんだから」


 そう言って、心寧は嬉しそうに刀祢に微笑みかける。刀祢は恥ずかしくなり、視線を逸らしてしまう。

 心寧と付き合い始めて、刀祢も心寧も変わった。良い意味で恋人になれたと思う。

 付き合う前は口喧嘩ばかりで、お互いに気まずい関係もあったけれど、付き合い始めてからは、互いに寄り添うにように、常に一緒にいる大切な恋人だ。

 あの口喧嘩していた頃が懐かしく思い出される。


「実はさ、最近、直哉に言われて気づいたんだけど、俺の初恋の相手は心寧だった。小学校4年生の剣道大会の時に心寧に初恋をした」

「え!私が刀祢に初恋をしたのも小学校4年生の剣道大会の時だよ。お互いに初恋をしてたんだね。とても嬉しい」


 心寧が刀祢の初恋の話しを聞いて、感極まって、嬉し涙を浮かべている。


「初恋の相手と、そのまま初めての恋人になるってこともあるんだな」

「学校で恋愛話は良く聞くけど、そういうカップルは聞いたことがないわ。少ないと思う。私達、とても幸せなカップルだと思う」


 刀祢も初恋の人と初めての恋人になるケースを聞いたことがない。

 刀祢と心寧は幼馴染で、同じ日に初恋をして、そして、今、恋人同士でいることに、とても幸せに感じた。心寧も同じようで、ハンカチで涙を拭きつつ、喜んでいる。


「相手が刀祢で本当に良かった。嬉しい」

「俺も心寧で良かった。心寧しか考えられなかった」


 2人はテーブルの上でお互いに手を伸ばして、手を握りしめて、互いに見つめあう。


「これからも2人で何回もクリスマスを楽しもうな」

「うん、刀祢と一緒ならどこでも楽しい。ずっと一緒に刀祢とクリスマスを祝いたい」


 そろそろ映画の上映時間が迫っている。刀祢は心寧と手を繋いだまま、喫茶店を出て、雑踏を歩いていく。

 心寧が腕を組んで寄り添って歩く。


「こんな時が、来年も再来年も、ずっと続きますように」


 心寧が小さく刀祢の耳元で呟く声が聞こえる。


「そうだな。心寧のことは離さない」

「うん、私も刀祢に絶対に付いていく」


 映画館の近くにある、路地から見えない場所で、一瞬だけ心寧と抱きしめてキスをする。

 2人の恋物語は始まったばかりだ。

                                                                 END