刀祢と心寧は電車に揺られて地元の駅まで戻った。

 莉奈の両親は海外赴任していて、莉奈は1人暮らしをしている。刀祢は今まで莉奈の家に行ったことはない。

 直哉は既に莉奈の家で、刀祢達のことを待っているというが、見知らぬ女性の家に行くような気分になり、刀祢は妙に自分の体に緊張が走るのを感じる。


「変な刀祢ね。莉奈の家に行くだけでしょ。なぜ、そんなに緊張しているのよ」

「頭では理解してるんだけどな。心寧の家だとご両親がいると思って安心するんだが、莉奈の家は女性の一人暮らしと考えるから、行くのに気が引けるんだ」

「直哉もいるから大丈夫よ。私もいるし。何も怖くないからね」


 心寧は妙に緊張している刀祢のことが面白いようにクスクスと笑う。

 心寧の案内で莉奈の家があるマンションまで歩いていく。もう既に夜の帳が降りてから1時間は経つ。空の雲の隙間から、きれいな星空が見える。

 2人で手を繋いでゆっくりと歩く。夜風が気持ちよく体を通っていく。このまま、夜の散歩を心寧と2人だけで続けるのもいいと刀祢は思う。

 心寧は時々、刀祢の顔を見ては軽く微笑んで、手を握りなおす。手を繋いでいる感覚が刀祢にも伝わり、心寧の存在を感じて、安堵感に包まれる。

 駅前から市街地の住宅地に入ってから15分ほど歩いた場所に莉奈の家があるマンションが見えてきた。

 マンションに到着してエレベーターに乗って莉奈の家へと向かう。家のインターホンを鳴らすと「はーい」という声が聞えてきて、なぜか直哉が顔を出した。


「おう、刀祢、待っていたぞ。遅かったな」

「ああ、直哉か。進学塾の見学に行ってたんだが、学力診断テストまで受けることになって、困ったことになったよ。結局、その進学塾へ通学することは諦めて帰ってきた」

「そうか。話は中で聞くから、早く家の中へ入れよ」


 直哉はまるで自分の家のように、玄関を開けて、刀祢達をリビングに通す。

 ダイニングテーブルには、2段になった果物のホールケーキが中央に置かれている。テーブルの上にはお寿司屋やローストビーフなども置かれている。


(今日は何かの祝いごとか?)


 直哉の案内で、心寧と刀祢はリビングのソファに座る。キッチンを見ると、莉奈はまだ何か、料理を作っている。本当に莉奈は料理上手だ。

 直哉は勝手にキッチンで紅茶を作って、リビングのソファで座っている刀祢達の前のテーブルに紅茶を置く。


「もう少しで莉奈の準備も終わる。それまでゆっくりと紅茶でも飲んで待っていてくれ」

「ダイニングテーブルの上に豪華な料理が並んでいるが、今日は何かのお祝いなのか?」

「まあな。そのうちにわかるから、気にするな。まずは俺が淹れた紅茶を飲んでくれ。最近、紅茶の淹れ方に凝ってるんだ」


 学校では直哉にそんな趣味ができたなんて聞いたことがない。料理好きの莉奈の影響だろうか。

 一口紅茶を飲むと、紅茶の味が口の中に広がり、香りが鼻の奥へ通っていく。紅茶の味を濃く感じる。


「直哉が淹れた紅茶は濃いな。味がしっかりしている」

「直哉が淹れると、紅茶の葉を使い過ぎるの。だから濃い味になるのよ。もう少し控えてくれたほうが、美味しいと私は思ってるんだけど」


 キッチンで料理をしながら莉奈が刀祢に声をかける。


「俺は味の濃い紅茶のほうが美味しいと思っている。味が薄いと、ガツンとした紅茶の味が楽しめない」


(直哉よ。紅茶にガツンとした味を求めてはいけないと思うぞ)


「別に私は良いのだけど、紅茶の葉が可哀そうに思うのよね」


 直哉と莉奈が面白そうに軽い言い合いをして楽しんでいる。こんな光景は学校では見ることができない。こんなに2人は仲が良かったのだと、改めて刀祢は感心した。


「さーできたわ」


 料理を終えた莉奈はクリームシチューとグラタンをダイニングテーブルの上に置く、さらにシーザーサラダや各種サラダもテーブルの上に置く。


「今日は豪華な料理だな。一体、誰が来て食べるんだ?」

「何を言ってるのよ刀祢くん。皆で食べるために用意したのよ」

「こんな豪華な料理を?」

「まだ、直哉からも心寧からも、刀祢くんは何も聞いてないみたいね」


 莉奈はおっとりとした口調で、刀祢に微笑みかける。心寧は莉奈と一緒に、キッチンの後片付けを手伝っている。

 直哉は刀祢の肩を持って、ソファから立ち上がらせると、ダイニングテーブル
まで歩いていき、椅子に座る。直哉の対面に刀祢も座る。

 すると刀祢の隣に心寧が座り、直哉の隣に莉奈が座って微笑む。


「さー全部の準備が終わったな。それでは発表します。刀祢、誕生日おめでとう!」


「「おめでとう!」」


 刀祢は目を丸くして心寧を見ると、心寧は嬉しそうに深く頷く。直哉を見ると、直哉も深く頷いて、爽やかに笑っている。莉奈も楽しそうに微笑んでいる。

 小学校高学年まで誕生日を祝ってもらった記憶はあるが、それ以降、誰にも誕生日を祝ってもらったことがない。誕生日に祝ってもらうことなど忘れていた。


(今日は俺の誕生日だったのか!)


 莉奈はテーブルの下から大きな花束を取り出すと直哉に花束を渡す。


「莉奈からの誕生日プレゼントは料理だ。俺からの誕生日プレゼントは花束にした」


 ピンク色の薔薇の大きな花束を刀祢に渡す。


「直哉、莉奈、ありがとう。誕生日プレゼントをもらえるなんて嬉しいよ」


 心寧はダイニングテーブルの横に置いてあった、大きな白い紙袋を刀祢に渡す。刀祢が中を確かめると、黒のダウンジャケットと牛革の財布が入っていた。

 刀祢の財布は中学の時に買ったもので、既に年季が入っている。買い替え時だと思っていたので、すごく嬉しい。


「心寧、ありがとう。これから冬になったダウンジャケットを着させてもらう。丁度、財布も買い換えようと思っていた所だったんだ。助かる」

「良かった。気に入ってくれて」

「「「刀祢、誕生日おめでとう!」」」

「ありがとう」


 直哉と莉奈が料理を取り分けて、心寧と刀祢の皿へと盛ってくれる。今日は直哉が莉奈のサポート役らしい。何をしてもイケメンは様になる。

 刀祢はローストビーフの口の中に入れて、肉が蕩けるのを楽しむ。実に美味しい。直哉が取り分けてくれた寿司にも手をだす。とても美味い。


「莉奈の料理は絶品だからな。どんどんと食べてくれ」

「ああ、本当に莉奈は料理が上手いな。とても美味しいよ」

「私も莉奈にお料理を教えてもらって、もっと腕を磨くね」

「おう、頼んだぞ。心寧」


 3人の誕生日を覚えておこう。3人は最高の誕生日を刀祢にプレゼントしてくれた。刀祢も3人の誕生日を祝いたいと思った。

 刀祢の誕生日は夜が更ける深夜まで楽しく続いた。談笑はいつまで経っても絶えることがない。楽しいひと時が過ぎていく。


(ありがとう、直哉、莉奈、心寧)