刀祢と心寧は隣町まで進学塾の見学へ来ていた。進学塾はビル丸ごとが塾となっており、多くの生徒達が進学塾に通っていた。
普段はふざけたり、気を抜いている生徒達も進学塾の玄関を入ると、真剣そのものの顔付きに変わる。既に気分は大学受験生なのだろう。
まだ、この進学塾に決めたわけではないが、案内してくれた講師が心寧と刀祢の学力を知るために学力診断テストが必要と説明する。
2人は個室に入って学力診断テストを受ける。
「このテスト、難しいな。学校で習っていないことまでテストになってるぞ」
「本当だね。私も少し難しい。さすがは進学塾ね」
学力診断テストが終わり、2人の答案用紙を受け取った講師がその場で、合否の点数をつけていく。結果は心寧はA、刀祢はCだった。
「この塾に通うなら、刀祢くんはCクラス、心寧さんはAクラスということになるね」
「それは困ります。両親は刀祢が一緒で進学塾に通うのであれば、許してくれますが、そうでなければ隣町まで来る進学塾に通うことができません」
「そんなことを言われても困ったな、当進学塾では学力差でクラス別に生徒を分けて教えている。その個人個人に合わせた、授業を行っているんだ。心寧さんはCクラスの学力を超えている。だからAクラスなんだ。理解してほしい」
「私も両親も、それでは納得できません。刀祢と一緒でなければ両親も私を隣町まで通わせることは反対します。今回の話しはなかったことにしてください」
それを聞いた講師は残念そうに刀祢と心寧を見る。進学塾としては生徒はほしいが、1度決められているルールを曲げることはできない。
「わかりました。誠に残念ですが、心寧さんと刀祢くんには別の進学塾を探してもらったほうが良いでしょう。また気持ちが変わったら、当進学塾をよろしくお願いします」
講師に深く頭を下げて、刀祢と心寧は進学塾の見学を終えて、外へ出る。
心寧の考えと進学塾の考えが合わないのだから仕方がない。しかし、刀祢は自分の学力の低さが、心寧の足を引っ張ったと思い、情けなくなる。
「ごめんな心寧。俺がAクラスになれるだけの学力があったら良かったんだけどな」
「ううん、いいの。刀祢のせいではないわ。私にとって大学は通過点でしかないんだもの。私の目標は刀祢の奥さんになることだもん」
「え!」
いきなりの心寧の爆弾発言に、刀祢は一瞬、頭が真っ白になり、思考が上手く働かない。
「私の両親も共働きだから、私も共働きして刀祢を支えるよ。でも仕事ばかりで刀祢との時間がない仕事場なんてイヤ。そんな職場だったら、自分から辞めるから」
心寧に言っていないが、刀祢には夢があった。自宅の風月流剣術道場の跡を継ぐのは長男である公輝だ。刀祢は家を出なければならない。
しかし、刀祢は剣技しか取り柄がないし、剣技を愛している。だから、隣町に風月流剣術道場を開設して、そこで門下生の指導を行うことが夢だった。
今まで誰にも話していないが、両親に話してみようと思っている。両親も刀祢が無事に大学を卒業した後ならば、少しは刀祢の話しに耳を傾けてくれるのではないかと思っている。だから、あまり深く就職については考えていない。
両親に話をするまでの間に長男の公輝と同じぐらいの剣術を身に着け、試合で引き分けにもっていくぐらいまで持っていかなければ、許してはくれないだろう。
受験も大事だが、その後はもっと剣術に力をいれなければならいと刀祢は拳をギュッと握りしめる。
「実は俺は道場を開きたいという夢があるんだ」
「そうだったんだ。そうなったら私は道場の女将さんだね。剣術も頑張らないと」
反対されると思ったが、逆に心寧は嬉しそうに微笑んで、剣を持つ格好をして見せる。
「刀祢と一緒に剣術道場を開くって、夢があっていいわね。それに2人がずっと一緒にいられるのがいい。私は大賛成よ」
「そうか。色々と反対も多いと思ってるんだけどな。大学に入学できたら、両親に話してみるつもりだ」
「館長も刀祢のお母さんも喜ぶよ。道場を開設するって、どうするんだろうね。幾らぐらい資金がかかるんだろう」
刀祢の両親が道場開設の資金を提供してくれるとは思えなかった。自分で働いて、資金を貯めろと言われそうだ。その時は、大学卒業後に一時は就職しなければならないと刀祢も思っている。
「2人でお金を貯めていけば、大丈夫。すぐに貯まるわよ。刀祢は一生懸命に前を向いて進めばいいよ。刀祢のその姿勢が伝われば、館長も刀祢のお母さんも、私の両親も相談に乗ってくれるわよ。結婚は先にしておいたほうが良さそうね」
「―――――!」
なぜ、いきなり結婚話になっているのか、刀祢はビックリした。しかし、心寧は顔をピンク色に染めて、体をモジモジとさせている。
心寧と早く結婚できるのは刀祢も嬉しいが、まだ遠い先だと思っていた。心寧がそんなに早く結婚を希望しているとは知らなかった。
「刀祢、私ね考えたんだけど、大学結婚がいいかな」
「わかった。その時はプロポーズは俺からするから、心寧は待ってろ」
「うん、真剣に考えてくれて、ありがとう」
お互いに手を握って、隣町の駅へと向かって歩く。心寧は幸せそうに刀祢の指に自分の指を絡めて、手をギュッと握ってくる。刀祢も微笑んで、心寧の手をしっかりと握る。
「刀祢、帰りに莉奈の家に寄りましょう。もう莉奈とは約束してあるんだ」
「直哉がいないと気まずいだろう」
「直哉なら、もう莉奈と一緒に、莉奈の家にいるって言ってたわ。だから大丈夫」
心寧は満面に微笑んで、刀祢に寄り添って駅までの道を歩く。進学塾は断ってしまったが、刀祢にとって有意義な時間だった。
普段はふざけたり、気を抜いている生徒達も進学塾の玄関を入ると、真剣そのものの顔付きに変わる。既に気分は大学受験生なのだろう。
まだ、この進学塾に決めたわけではないが、案内してくれた講師が心寧と刀祢の学力を知るために学力診断テストが必要と説明する。
2人は個室に入って学力診断テストを受ける。
「このテスト、難しいな。学校で習っていないことまでテストになってるぞ」
「本当だね。私も少し難しい。さすがは進学塾ね」
学力診断テストが終わり、2人の答案用紙を受け取った講師がその場で、合否の点数をつけていく。結果は心寧はA、刀祢はCだった。
「この塾に通うなら、刀祢くんはCクラス、心寧さんはAクラスということになるね」
「それは困ります。両親は刀祢が一緒で進学塾に通うのであれば、許してくれますが、そうでなければ隣町まで来る進学塾に通うことができません」
「そんなことを言われても困ったな、当進学塾では学力差でクラス別に生徒を分けて教えている。その個人個人に合わせた、授業を行っているんだ。心寧さんはCクラスの学力を超えている。だからAクラスなんだ。理解してほしい」
「私も両親も、それでは納得できません。刀祢と一緒でなければ両親も私を隣町まで通わせることは反対します。今回の話しはなかったことにしてください」
それを聞いた講師は残念そうに刀祢と心寧を見る。進学塾としては生徒はほしいが、1度決められているルールを曲げることはできない。
「わかりました。誠に残念ですが、心寧さんと刀祢くんには別の進学塾を探してもらったほうが良いでしょう。また気持ちが変わったら、当進学塾をよろしくお願いします」
講師に深く頭を下げて、刀祢と心寧は進学塾の見学を終えて、外へ出る。
心寧の考えと進学塾の考えが合わないのだから仕方がない。しかし、刀祢は自分の学力の低さが、心寧の足を引っ張ったと思い、情けなくなる。
「ごめんな心寧。俺がAクラスになれるだけの学力があったら良かったんだけどな」
「ううん、いいの。刀祢のせいではないわ。私にとって大学は通過点でしかないんだもの。私の目標は刀祢の奥さんになることだもん」
「え!」
いきなりの心寧の爆弾発言に、刀祢は一瞬、頭が真っ白になり、思考が上手く働かない。
「私の両親も共働きだから、私も共働きして刀祢を支えるよ。でも仕事ばかりで刀祢との時間がない仕事場なんてイヤ。そんな職場だったら、自分から辞めるから」
心寧に言っていないが、刀祢には夢があった。自宅の風月流剣術道場の跡を継ぐのは長男である公輝だ。刀祢は家を出なければならない。
しかし、刀祢は剣技しか取り柄がないし、剣技を愛している。だから、隣町に風月流剣術道場を開設して、そこで門下生の指導を行うことが夢だった。
今まで誰にも話していないが、両親に話してみようと思っている。両親も刀祢が無事に大学を卒業した後ならば、少しは刀祢の話しに耳を傾けてくれるのではないかと思っている。だから、あまり深く就職については考えていない。
両親に話をするまでの間に長男の公輝と同じぐらいの剣術を身に着け、試合で引き分けにもっていくぐらいまで持っていかなければ、許してはくれないだろう。
受験も大事だが、その後はもっと剣術に力をいれなければならいと刀祢は拳をギュッと握りしめる。
「実は俺は道場を開きたいという夢があるんだ」
「そうだったんだ。そうなったら私は道場の女将さんだね。剣術も頑張らないと」
反対されると思ったが、逆に心寧は嬉しそうに微笑んで、剣を持つ格好をして見せる。
「刀祢と一緒に剣術道場を開くって、夢があっていいわね。それに2人がずっと一緒にいられるのがいい。私は大賛成よ」
「そうか。色々と反対も多いと思ってるんだけどな。大学に入学できたら、両親に話してみるつもりだ」
「館長も刀祢のお母さんも喜ぶよ。道場を開設するって、どうするんだろうね。幾らぐらい資金がかかるんだろう」
刀祢の両親が道場開設の資金を提供してくれるとは思えなかった。自分で働いて、資金を貯めろと言われそうだ。その時は、大学卒業後に一時は就職しなければならないと刀祢も思っている。
「2人でお金を貯めていけば、大丈夫。すぐに貯まるわよ。刀祢は一生懸命に前を向いて進めばいいよ。刀祢のその姿勢が伝われば、館長も刀祢のお母さんも、私の両親も相談に乗ってくれるわよ。結婚は先にしておいたほうが良さそうね」
「―――――!」
なぜ、いきなり結婚話になっているのか、刀祢はビックリした。しかし、心寧は顔をピンク色に染めて、体をモジモジとさせている。
心寧と早く結婚できるのは刀祢も嬉しいが、まだ遠い先だと思っていた。心寧がそんなに早く結婚を希望しているとは知らなかった。
「刀祢、私ね考えたんだけど、大学結婚がいいかな」
「わかった。その時はプロポーズは俺からするから、心寧は待ってろ」
「うん、真剣に考えてくれて、ありがとう」
お互いに手を握って、隣町の駅へと向かって歩く。心寧は幸せそうに刀祢の指に自分の指を絡めて、手をギュッと握ってくる。刀祢も微笑んで、心寧の手をしっかりと握る。
「刀祢、帰りに莉奈の家に寄りましょう。もう莉奈とは約束してあるんだ」
「直哉がいないと気まずいだろう」
「直哉なら、もう莉奈と一緒に、莉奈の家にいるって言ってたわ。だから大丈夫」
心寧は満面に微笑んで、刀祢に寄り添って駅までの道を歩く。進学塾は断ってしまったが、刀祢にとって有意義な時間だった。