最近、道場が終わると、刀祢が心寧の家まで送っていくことになっている。2人で自転車を押してゆっくりと歩く。
旧市街と市街地の間には田園地帯が広がっていて、田園地帯は外灯も少なく、人通りも少ないというか、人が全く通っていない。
車もほとんど通らない静かな道を2人並んで歩いていく。
いつも心寧は、この人通りのない、暗い道を帰っていたのかと思うと不安が募る。直哉が心寧の送り迎えをしてくれていた意味がわかる。
「心寧、怖くないか?」
「刀祢が一緒にいるから安心だよ」
刀祢は左側で自転車を押し、心寧は右側で自転車を押し、お互いに並んでゆっくりと田園地帯の道を歩く。
秋風が気持ちよく吹いている。道場の稽古が終わったので心寧は髪を解いてロングストレートに戻している。艶々した黒髪が風になびいて美しい。
心寧が刀祢に身体を寄せて、刀祢の右手の先を握る。心寧の手の温かさが刀祢に伝わってくる。心寧と手を繋いでいると気持ちが安心する。
心寧が指を動かして、ゆっくりと指を絡めて、恋人繋ぎにする。そして、手をギュッと握る。刀祢も心寧の手をギュッと握る。
心寧は嬉しそうに微笑んで刀祢の顔を見る。刀祢も笑って心寧の顔を見つめる。
田園地帯の寂しい道も、心寧と2人なら温かくて楽しい道へ変化する。とても心が落ち着く。
心寧が唐突に告白の時のことを思い出したかのように聞いて来る。
「あのね、刀祢に告白した時、刀祢から返事をもらえるとは思ってなかった。なぜ返事をしてくれたの?」
「心寧を大事と思ったからだよ! 心寧なしの学生生活なんて考えられなかった!」
「私もそう。刀祢なしの生活なんて考えられなかった」
心寧とは中学の頃から口喧嘩をしてきたけど、心寧がいない時は寂しかった。心寧と口喧嘩していない時はどこか楽しくなかった。
心寧でないと刀祢は心が楽しくなれなかった。誰でも変れるものではない。心寧がいないとダメだと刀祢は思った。
「心寧の代わりはいないからだ」
「そう言ってもらえると嬉しい」
「心寧はなぜ俺に告白なんてしたんだ?中学の頃、俺のことをあれだけ嫌ってたのに?」
「実は小学校4年生の時、刀祢が剣道の試合で優勝した時、刀祢がとても恰好よく見えて、刀祢が私の初恋の人なの」
刀祢は心寧の、いきなりの初恋の男子宣言に驚いた。
そんな小さな頃から、心寧が刀祢のことを想ってくれていたなんて、思ってもみないことだった。
心寧は昔を懐かしんでいるように、少し遠くを見て微笑んでいる。
「中学の時は剣斗兄さんの考えを信じてた。でも本当に仲良くしたかったのは刀祢だった。そのことに自分で気づいていなかったの。ずいぶん、自分勝手なことを押し付けてゴメンね」
「俺のほうこそ、口喧嘩を吹っかけてばかりで、迷惑をかけてゴメン。あの頃は俺も荒れていた」
2人でゴメンと謝り合って、顔を見合わせて互いに顔を赤くして微笑む。
秋風が田園地帯の稲穂の上を撫でていく。風が通る道ができるみたいに稲穂が風に揺れて頭を下げる。
中学、高校と本当に心寧と刀祢は色々とあって、その度にすれ違ったり、時にはぶつかったこともあった。
そして今、本当に仲直りできたように刀祢も心寧も感じた。
「心寧と付き合うことを選んで良かった」
「私も刀祢と付き合うことができて良かった」
心寧が優しい眼差しで刀祢を見つめる。刀祢は照れくさくなって顔を背ける。すると繋いでいた手を心寧がギュッと握りしめる。刀祢は顔を合せずに手をギュッと握った。
とても暖かくて落ち着いた幸せな時間が流れていく。刀祢と心寧は互いに、その時間を楽しむように黙って歩く。
田園地帯を抜けて市街地へ入る。住宅街が立ち並び、車の交通量が多くなってきた。
歩道の中へ入って、刀祢が先頭に立って自転車を押して歩く。その後ろに心寧が自転車を押して歩いてくる。
「これからは刀祢と何でも相談して、刀祢の意見を聞いてから行動したい」
「俺も、心寧の意見を聞いてから2人で一緒に考えて行動したい」
刀祢が後ろを振り返ると、心寧は嬉しそうに微笑んでいた。
心寧の家は7階建てのマンションの5階だ。家の前で2人とも自転車を止めて、2人寄り添う。
「家まで送ってくれてありがとう。今度、お母さんが刀祢を呼んできてって言ってた。挨拶をしたいんだって」
「わかった!」
思い出したように心寧が刀祢に告げる。心寧のお母さんと会うと思うと、少しだけ刀祢は緊張する。
久しぶりに心寧のご両親に会おう。心寧と付き合っているのだから、ご両親にご挨拶する必要があるだろう。
「近々、ご挨拶させてもらうと、お母さんに伝えてくれるかな」
「うん、わかったわ。ありがとう」
心寧が嬉しそうに微笑む。
「今日は送ってくれて、ありがとう」
「これから、ずっと送ってやる」
「うん」
刀祢は心寧に向けて両手を広げる。心寧は刀祢の胸の中へ飛び込んで、刀祢の体をギュッと抱きしめる。刀祢はそんな心寧を優しく両腕で包み込む。
「刀祢、大好きだよ。幸せ」
「ああ、俺も幸せだ」
2人はしばらくの間、抱き合ったまま幸せな時間を過ごした。
旧市街と市街地の間には田園地帯が広がっていて、田園地帯は外灯も少なく、人通りも少ないというか、人が全く通っていない。
車もほとんど通らない静かな道を2人並んで歩いていく。
いつも心寧は、この人通りのない、暗い道を帰っていたのかと思うと不安が募る。直哉が心寧の送り迎えをしてくれていた意味がわかる。
「心寧、怖くないか?」
「刀祢が一緒にいるから安心だよ」
刀祢は左側で自転車を押し、心寧は右側で自転車を押し、お互いに並んでゆっくりと田園地帯の道を歩く。
秋風が気持ちよく吹いている。道場の稽古が終わったので心寧は髪を解いてロングストレートに戻している。艶々した黒髪が風になびいて美しい。
心寧が刀祢に身体を寄せて、刀祢の右手の先を握る。心寧の手の温かさが刀祢に伝わってくる。心寧と手を繋いでいると気持ちが安心する。
心寧が指を動かして、ゆっくりと指を絡めて、恋人繋ぎにする。そして、手をギュッと握る。刀祢も心寧の手をギュッと握る。
心寧は嬉しそうに微笑んで刀祢の顔を見る。刀祢も笑って心寧の顔を見つめる。
田園地帯の寂しい道も、心寧と2人なら温かくて楽しい道へ変化する。とても心が落ち着く。
心寧が唐突に告白の時のことを思い出したかのように聞いて来る。
「あのね、刀祢に告白した時、刀祢から返事をもらえるとは思ってなかった。なぜ返事をしてくれたの?」
「心寧を大事と思ったからだよ! 心寧なしの学生生活なんて考えられなかった!」
「私もそう。刀祢なしの生活なんて考えられなかった」
心寧とは中学の頃から口喧嘩をしてきたけど、心寧がいない時は寂しかった。心寧と口喧嘩していない時はどこか楽しくなかった。
心寧でないと刀祢は心が楽しくなれなかった。誰でも変れるものではない。心寧がいないとダメだと刀祢は思った。
「心寧の代わりはいないからだ」
「そう言ってもらえると嬉しい」
「心寧はなぜ俺に告白なんてしたんだ?中学の頃、俺のことをあれだけ嫌ってたのに?」
「実は小学校4年生の時、刀祢が剣道の試合で優勝した時、刀祢がとても恰好よく見えて、刀祢が私の初恋の人なの」
刀祢は心寧の、いきなりの初恋の男子宣言に驚いた。
そんな小さな頃から、心寧が刀祢のことを想ってくれていたなんて、思ってもみないことだった。
心寧は昔を懐かしんでいるように、少し遠くを見て微笑んでいる。
「中学の時は剣斗兄さんの考えを信じてた。でも本当に仲良くしたかったのは刀祢だった。そのことに自分で気づいていなかったの。ずいぶん、自分勝手なことを押し付けてゴメンね」
「俺のほうこそ、口喧嘩を吹っかけてばかりで、迷惑をかけてゴメン。あの頃は俺も荒れていた」
2人でゴメンと謝り合って、顔を見合わせて互いに顔を赤くして微笑む。
秋風が田園地帯の稲穂の上を撫でていく。風が通る道ができるみたいに稲穂が風に揺れて頭を下げる。
中学、高校と本当に心寧と刀祢は色々とあって、その度にすれ違ったり、時にはぶつかったこともあった。
そして今、本当に仲直りできたように刀祢も心寧も感じた。
「心寧と付き合うことを選んで良かった」
「私も刀祢と付き合うことができて良かった」
心寧が優しい眼差しで刀祢を見つめる。刀祢は照れくさくなって顔を背ける。すると繋いでいた手を心寧がギュッと握りしめる。刀祢は顔を合せずに手をギュッと握った。
とても暖かくて落ち着いた幸せな時間が流れていく。刀祢と心寧は互いに、その時間を楽しむように黙って歩く。
田園地帯を抜けて市街地へ入る。住宅街が立ち並び、車の交通量が多くなってきた。
歩道の中へ入って、刀祢が先頭に立って自転車を押して歩く。その後ろに心寧が自転車を押して歩いてくる。
「これからは刀祢と何でも相談して、刀祢の意見を聞いてから行動したい」
「俺も、心寧の意見を聞いてから2人で一緒に考えて行動したい」
刀祢が後ろを振り返ると、心寧は嬉しそうに微笑んでいた。
心寧の家は7階建てのマンションの5階だ。家の前で2人とも自転車を止めて、2人寄り添う。
「家まで送ってくれてありがとう。今度、お母さんが刀祢を呼んできてって言ってた。挨拶をしたいんだって」
「わかった!」
思い出したように心寧が刀祢に告げる。心寧のお母さんと会うと思うと、少しだけ刀祢は緊張する。
久しぶりに心寧のご両親に会おう。心寧と付き合っているのだから、ご両親にご挨拶する必要があるだろう。
「近々、ご挨拶させてもらうと、お母さんに伝えてくれるかな」
「うん、わかったわ。ありがとう」
心寧が嬉しそうに微笑む。
「今日は送ってくれて、ありがとう」
「これから、ずっと送ってやる」
「うん」
刀祢は心寧に向けて両手を広げる。心寧は刀祢の胸の中へ飛び込んで、刀祢の体をギュッと抱きしめる。刀祢はそんな心寧を優しく両腕で包み込む。
「刀祢、大好きだよ。幸せ」
「ああ、俺も幸せだ」
2人はしばらくの間、抱き合ったまま幸せな時間を過ごした。