お前は俺のこと嫌いだったよな?なぜ、いつも傍にいる!?

 中間考査が終わって、学校の廊下に50位までの成績上位者の成績が張り出された。莉奈は今回は4位の成績だった。心寧は34位と健闘している。

 刀祢は自分の成績を思い出してため息をつく。とうとう国語で欠点を取ってしまった。

 中学生の頃は授業中に寝ていても、それなりの成績を維持できた。

 しかし、高校生になってからは、道場での稽古が終わった後に、勉強をしないと授業の勉強に追いつけなくなっていた。刀祢は夜にこっそりと勉強していた。

 このままだとマズイという感覚は持っていたが、とうとう現実となった。

 心寧には刀祢は自分の成績を言っていない。心寧からも聞いて来ない。昔の心寧なら、執拗に成績を聞かれ、勉強しなさいと言ってきたことだろう。

 これからの勉強はコツコツと積み重ねが必要になってくる。公輝兄貴も剣斗兄貴も大学へ進学している。両親は当然、刀祢も大学へ進学すると思っている。

 刀祢だけ大学に進学しないのは色々と対面が悪い。

 刀祢は自分の机に座って、両腕を組んで考える。心寧も成績の悪い彼氏よりも、成績の良い彼氏のほうが良いはずだ。なんとか成績を良くしなければならない。刀祢は目を伏せて考え込む。


「どうしたの刀祢、すごく難しい顔をして考え事なんてして」


 心寧が心配そうに刀祢の顔を覗き込む。

 成績が悪くなったからといって、急に刀祢が真面目に授業を受けだしたらクラスの皆が驚く。そのことで刀祢が目立つのは確実だ。

 刀祢としてはなるべくクラスでは目立ちたくない。しかし、これからは授業を聞いていないと勉強についていけなくなる。


「自分が思っていたより、成績が落ちた。なんとかしたいけど、良い案が見当たらない」

「道場で稽古がない日は、全て勉強に当てたらどうかしら」


 なるほど、道場で稽古をしない日に集中して勉強すれば良いのか。なかなか良い提案だと思う。

 しかし、果たして毎日、授業中に居眠りしている刀祢が、1人で勉強して、今の授業に追いつけるだろうか。今までも夜の時間は勉強に当ててきた。それでも、この成績だ。


「自分1人では勉強が追いつかない」

「私が教えてもいいよ?」


 心寧に勉強を教えてもらうのは、自分の欠点を見せるようで恥ずかしい。しかし、頼りになるのは心寧しかいない。直哉ではあてにならない。

 そういえば、直哉はなぜ成績が平均なのだろう。以前は刀祢と同じくらいの成績だったのに、高校2年生になってから成績が安定した。


「申し訳ないけど、心寧、俺に勉強を教えてくれるかな?」

「もちろん、喜んで大丈夫だよ。勉強する場所は刀祢の家でいいの?」


 刀祢の家は道場と隣接している。心寧も小さい頃、刀祢の家に遊びに来たことがあり、道場にも通いやすい。自分の部屋へ心寧を入れるのは恥ずかしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「ああ、俺の部屋で勉強を教えてくれ」

「任されました」


 公輝兄貴も剣斗兄貴も進学塾に通っていた。刀祢も高校3年生になったら、進学塾に通う予定をしていた。

 進学塾は高校の授業よりも高度な勉強を教えてくれる。進学塾へ通う前に下準備をしておく必要がある。今の刀祢の成績では進学塾から断られる可能性が高い。


「心寧、俺、3年生になったら進学塾に通いたいんだ」

「いいことだね。私も刀祢と一緒の進学塾に通いたいな」


 大学に進学するなら、できることなら心寧と同じ大学を受験したい。しかし、今の成績では無理だ。相当の努力が必要だ。刀祢は今から勉強に打ち込むことにした。時期を延ばしたら、それだけ不利になる。


「今日は丁度、道場の稽古は休みだ。今日からでも頼めるかな?」

「うん、大丈夫」


 心寧はとても嬉しそうに微笑んでいる。なぜ、心寧が浮かれているのか、理由がわからない。学校が終わってから、刀祢の部屋で勉強を教えてもらうことになった。1つだけ心寧に重要なお願いをする。


「心寧、勉強している時は髪型をポニーテールにしてほしい」

「刀祢がそういうなら、ポニーテールにするね。でも変なお願い」


 勉強している間、ロングストレートの心寧を見ていると、美少女すぎて緊張して勉強が手につかない。

 今日は学校帰りに一緒に刀祢の家へ一緒に行くことになった。初めて心寧と一緒に下校することになる。照れる。

 田園地帯を抜けて旧市街地へと2人で自転車を押しながら歩いていく。心寧は何も言わずに刀祢の隣を歩いているだけだが、とても嬉しそうだ。刀祢の家は旧市街地にあり、心寧の家は市街地にある。

 家に戻った刀祢は何も言わずに部屋へ向かおうとする。すると母親の由香里(ユカリ)に見つかってしまった。


「今日は心寧に勉強を教えてもらう」

「心寧ちゃんなの。すごくきれいなお嬢さんになったわね。刀祢がお世話をかけてゴメンなさいね」

「お久しぶりです。由香里小母様。今日はお邪魔させていただきます」


 母の由香里に知られたということは、父の大輝の耳にも入る。父の大輝は何も言わないと思うが、両親に心寧のことを知られたことが恥ずかしい。


「心寧、早く行こうぜ」


 刀祢は急いで心寧を部屋へと案内した。
 階段を上って2階の刀祢への部屋へ向かう。扉を開けて刀祢の部屋へ入る。

 刀祢の部屋は純和風で、机、洋服ダンス本棚ぐらいしか置いていない素っ気ないシンプルな部屋だ。洋服ダンスの上には道着が置かれ、部屋の隅には木刀が3本置かれている。

 刀祢はどこかの部屋から座卓を持ってきて、部屋の中央に座卓を置く。刀祢の左隣りに心寧が座る。刀祢は鞄の中から国語、古典の教科書を座卓の上に置いて、ノートを用意する。


「今回、欠点を取ってしまったのは国語なんだ。5教科の中でも国語は苦手な教科の1つなんだ。特に古典が苦手でさ」

「うん、わかった。古典からやっていこうか」


 心寧は深く頷くと上品に微笑む。

 心寧の説明では、国語は積み重ねの勉強が重要な教科だという。確かに刀祢は中学生の頃は国語は悪い点数ではなかった。 

 段々と下降線を辿り、高校2年生になって欠点を取ってしまった。積み重ねを疎かにした結果だという。


「国語は積み重ねの教科なの。その点では他の教科と違うのよ。中学の時から、授業中に居眠りしているから、こうなるのよ」

「俺も失敗したと思ってる。そこを心寧の力で、なんとかしてほしいんだ! 頼むよ。協力してくれ!

「仕方ないわね。いいわよ。任せて! 何とかしてみせるから!」


 心寧は頬をピンク色に染めて、恥ずかしそうに刀祢を見つめる。

 刀祢なりに国語の勉強を夜にしていたが、心寧の指摘では基礎ができていないから、きちんと理解していないらしい。

 特に古典は苦手で、同じ日本語だとは思えなかった。どこか違う国の言葉のように受け捉えてしまう。


「古典は現代語の延長線上にあると思ってね。別に考えると余計にわからなくなるから。古典も日本語の一部よ」

「国語の一部と言われてもピンとこないんだ。どうしても別の言語に見える」

「そうよね。刀祢から見れば別の言語にみえるよね。その気持ちは理解できるわ」


 古典は、一旦、現代語訳に変換して、物語全体を把握した後に、それを基にして、1行1行の文章を理解していくことが大事と心寧は優しく教えてくれる。

 心寧は刀祢のノートに古典の現代語訳をきれいな文字でサラサラと書いていく。その真剣な横顔はとても美しく、刀祢の目を惹きつける。時々見せる悩んでいる表情も可愛らしい。


「刀祢、あまり見つめないで。恥ずかしくなっちゃう」

「―――ゴメン。つい見惚れた」

「そんなこと言わないで、勉強ができなくなっちゃう」


 慌てて刀祢が自分のノートへ目を移すと、古典の現代語訳が完成していた。これなら刀祢も読めるし、理解することも覚えることもできる。

 ノートと教科書を照らし合わせて、古典文を理解していく。

 心寧が身を乗り出して、指でノートの現代語訳と古典分の同じ箇所をきれいな指でなぞって教えてくれる。

 心寧の手は肌が絹のようにツルツルしていて、指は長く、手が細長くて形が良い。そしてとても柔らかそうだ。剣術をしている手とは思えない。刀祢は心寧の美しい手に見入ってしまう。


「そんなに手を見ないで。私、手は自信がないの。恥ずかしいよ」

「そんなことないよ。心寧の手はとてもきれいだ」


 心寧は手を隠して、恥ずかしそうに頬をピンク色に染めて口を少し尖らせる。その表情がとても可愛い。今まで心寧を見ても、こんな気持ちは湧いてこなかった。刀祢は自分自身の変化に驚く。

 刀祢は心寧を真似て、古典文を現代文に訳してノートへ書いていく。段々と古典文の難しい言葉も理解でき、語訳できるようになってきた。

 現代語訳と古典文を照らし合わせて、自分で同じ箇所を確かめていく。

 刀祢が少し悩んでいると、心寧が身を乗り出して、指でなぞって教えてくれる。きめ細かい肌がきれいだ。思わず吸い寄せられるように心寧の手を取って両手で握る。

心寧の手は柔らかくてツルツルしている。剣術している手とは思えなかった。


「剣術をしていると、何度も手のマメが潰れたの。その時は手全体が硬くなっていたんだけど、今まで稽古しているうちに段々とマメができなくなって手が元通りに戻ったの」

「そうなのか? 心寧の手も指も剣を握ったことがあるように見えない。とてもきれいだ」

「へんな所を褒めないでよ。恥ずかしいでしょ」


 心寧はそう言って、ゆっくりと刀祢の両手から自分の手を抜いて、隠してしまった。恥ずかしそうに刀祢から視線を逸らす。

 心寧をあまり困らせてもいけない。刀祢は気分を切り替えて、国語へと教科を移す。

 心寧の説明では、国語は全ての回答が教科書の中に載っているという。その答えを見つけ出す感覚を磨くことが大事だという。刀祢は初めて、そんな説明を聞いた。

 心寧は刀祢のノートに地の文1つ1つの要点を書いてくれる。真剣に取り組んでいる横顔はスマートでとても美しい。

 心寧の顔のきれいな造形がよく見える。刀祢は心寧の顔に見惚れて、視線を外せない。

 心寧が刀祢のほうへ顔を向ける。その顔は目が潤んでいて、頬が上気している。さっきよりも顔と顔の距離が近い。

 心寧の甘い吐息が刀祢の顔にかかる。刀祢の胸がドキドキと高鳴る。刀祢も吸い込まれるように顔を近づけていく。


「刀祢、どうしたの? 顔が近いよ! 恥ずかしいよ!」

「あ―――心寧の顔を見ている間に、段々と顔を近づけてしまった。すまない」

「キスするのかと、ドキドキした」

(キス――――! 俺はもう少しで、心寧にキスしようとしていたのいか!)


心寧は顔を赤らめて照れている。そんな心寧を見て、刀祢も顔を赤くして、照れる。


「ごめん。今度から気を付ける」

「私も、刀祢とは――― でもまだ、恥ずかしい」

「俺も照れる。恥ずかしい。」

お互いに見つめ合ったまま、顔を赤らめた。

「勉強の続きを始めるよ」

「ああ、頼む。俺も冷静に勉強に集中する」


 そして国語の勉強の続きを始める。


「では、この会話文の「これ」とはどれを指しているでしょうか?」


 心寧が即興で問題を出してくる。心寧が書いてくれたノートに地の文の要点が書かれている。心寧の問題の答えを探す。要点の中に書かれていた。刀祢は心寧に答えをいう。


「正解」


 心寧が次々と質問を出してくる。刀祢はノートに書かれている地の文の要点を探して、次々と正解を言い当てていく。

 確かに心寧の言った通り、国語の答えは全て教科書に書いてあった。そのことがわかっただけでも刀祢にとって進歩だ。思わず、刀祢は心寧の手を両手で優しく握りしめる。

 心寧が傍にいてくれると安心した気持ちになる。刀祢が心寧の手を握り続けていると、心寧は頬を赤らめて顔を上気させる。その顔がとても愛おしかった。
 直哉に誘われて久しぶりに剣道部へ行く。直哉は武道場へ着くと、更衣室で剣道着に着替えて、すっかり剣道部の仲間入りをしている。

 刀祢は剣道よりも風月流剣術のほうが好きである。

 剣道は竹刀の先端から約4分の1の部分までを刃部とする。弦は背の部分なので常に竹刀の上になければならない。

 有効打突にするには、相手より声をあげて、気迫、気力でも優っており、竹刀で相手を打った時、自分の体制が崩れてはいけない。

 有効打突を打ち終わった後も常に警戒して、防御姿勢を取り続ける必要がある。そうしなければ有効打突は取り消しとなってしまうルールである。

 風月流の剣術は木刀を使用し、鍔の部分より上部は全て刃とみなす。よって鍔の近くであっても刃なので、木刀全体が刃といってもいい。木刀の刃の部分であれば、どこで相手を打っても有効なのだ。

 もちろん、寸止めがルールで決められているので、木刀で相手を打てば危険反則とみなして、負けとなる。

 木刀で打つの時に気合の入った声などわざわざ発する必要はない。審判に対して、気迫や気合を見せる必要はない。

 剣道と風月流剣術ではこのような違いがあり、刀祢は風月流剣術を選んだ。小学校の頃から剣道も嗜んではいたが、ずいぶんと剣道からは足が遠のいていた。

 直哉は風月流剣術よりも、相手に体当たりもでき、相手を叩くことができる剣道のほうが今はお気に入りのようだ。直哉は五十嵐達に混じって、竹刀で入念に素振りをしている。

 刀祢は入念に剣の軌道を確認するように竹刀をゆっくり振って、体の微調整を行う。竹刀を振る時、少しでもブレると気持ちが悪い。

 段々と竹刀の振る早さを早くしていき、身体と竹刀を一体化させていく。入念に準備運動ができた所で、直哉が刀祢の元へやって来た。


「刀祢、剣道で俺と正式に試合をしようぜ。道場では刀祢に勝てないからな」


 直哉は風月流剣術に入門してから1度も刀祢に勝てたことがないが、刀祢よりも長身で体格の良い直哉なら、剣道では分があるかもしれない。


「直哉との勝負を受けてもいいぞ」

「本当か。それなら賭けをしようぜ」


 直哉は試合を本気で楽しむつもりらしい。爽やかな顔で笑っている。


「刀祢が勝負に負けたら、もっと剣道部へ参加すること。五十嵐達とも、もっと仲良くなること。俺が負けたら、俺の奢りで焼肉食べ放題だ」


 正式な試合形式ということで主審は五十嵐が行い、副審は新浜と南が行うことになった。直哉と刀祢と開始線にしゃがんで竹刀を構える。五十嵐の合図で試合は開始される。


「キィィェエ―――!」


「セリャァア―――!」


 お互いに気合の入った気勢を発する。刀祢は中段に構える。お互いに気合の入った気勢を発する。刀祢は中段に構える。直哉は上段に竹刀を構える。

 刀祢はすり足で直哉の左側へ回り込むように円を描いていく。直哉は中央に立って、刀祢と真正面を向き合うようにすり足で刀祢を追う。

 剣道では打ち込んだ時の姿勢が万全でないと有効打突にならない。よって、刀祢は円を描くように動きながら直哉に万全な体制を取らせないようにしているのである。


「キィィェエ―――!」


 直哉は強引に刀祢の真正面に立つと、身体ごとぶつかるように飛びこみ面を決めにくる。

 刀祢は直哉が飛び込み面で先手を取ろうとしていることを予測していた。だから円を描くように動いて、直哉の心を焦らす作戦にでた。

 やはり直哉は焦って、強引に体制を立て直して、飛び込んできた。今の直哉の胴はがら空きだ。


「セリャァア―――!」


 刀祢は飛び込んでくる直哉の左側へ抜けるように足を捌きながら、上半身と腕を回転させて、直哉の胴へ一閃する。

 そしてお互いが交差した後に、2人共、身体を回転させて、体制を整えて体ごとぶつかり合う。

 その時、主審、副審2人の赤旗が上がる。「胴あり」と宣言が告げられる。そして赤旗を下げて「勝負あり」と五十嵐が大きな声を出す。お互いに開始線まで戻って竹刀を収めて試合を終了。

 道場の隅まで歩いて、刀祢も直哉も面を外す。数分の戦いなのに息があがる。


「刀祢はやっぱり強いな。剣道でもやられたか」

「直哉、風月流剣術の基本を忘れてるぞ」


 直哉は少し悩むとハッとした顔になり、恥ずかしそうに髪を掻く。

 風月流剣術は実戦剣術道場である。そのため木刀でどこを狙ってもいい。剣道のように面を狙う必要はない。一番大きな体の中心を狙うか、足を封鎖するため下段を狙うことが基本となっている。

 刀祢にとって2番目に得意なのは胴薙ぎなのだ。そのことを直哉はすっかりと忘れていた。


「俺も、もう少し道場で基本を覚え直したほうがいいな」


 直哉は刀祢に向かって爽やかに笑った。


「俺達も焼き肉食べ放題へ一緒に連れて行ってくれよ」


 五十嵐達が駆け寄ってきて、直哉に自分達も誘えと言ってくる。


「わかった! 皆で割り勘な!」


 焼肉は大勢で食べたほうが楽しいだろうと刀祢は思う。

 剣道部が終わった時、男子部員達は集まって、焼肉食べ放題へ行き、楽しく親睦を深めた。
 最近、道場が終わると、刀祢が心寧の家まで送っていくことになっている。2人で自転車を押してゆっくりと歩く。

 旧市街と市街地の間には田園地帯が広がっていて、田園地帯は外灯も少なく、人通りも少ないというか、人が全く通っていない。

 車もほとんど通らない静かな道を2人並んで歩いていく。

 いつも心寧は、この人通りのない、暗い道を帰っていたのかと思うと不安が募る。直哉が心寧の送り迎えをしてくれていた意味がわかる。


「心寧、怖くないか?」

「刀祢が一緒にいるから安心だよ」


 刀祢は左側で自転車を押し、心寧は右側で自転車を押し、お互いに並んでゆっくりと田園地帯の道を歩く。

 秋風が気持ちよく吹いている。道場の稽古が終わったので心寧は髪を解いてロングストレートに戻している。艶々した黒髪が風になびいて美しい。

 心寧が刀祢に身体を寄せて、刀祢の右手の先を握る。心寧の手の温かさが刀祢に伝わってくる。心寧と手を繋いでいると気持ちが安心する。

 心寧が指を動かして、ゆっくりと指を絡めて、恋人繋ぎにする。そして、手をギュッと握る。刀祢も心寧の手をギュッと握る。

 心寧は嬉しそうに微笑んで刀祢の顔を見る。刀祢も笑って心寧の顔を見つめる。

 田園地帯の寂しい道も、心寧と2人なら温かくて楽しい道へ変化する。とても心が落ち着く。

 心寧が唐突に告白の時のことを思い出したかのように聞いて来る。


「あのね、刀祢に告白した時、刀祢から返事をもらえるとは思ってなかった。なぜ返事をしてくれたの?」

「心寧を大事と思ったからだよ! 心寧なしの学生生活なんて考えられなかった!」

「私もそう。刀祢なしの生活なんて考えられなかった」


 心寧とは中学の頃から口喧嘩をしてきたけど、心寧がいない時は寂しかった。心寧と口喧嘩していない時はどこか楽しくなかった。

 心寧でないと刀祢は心が楽しくなれなかった。誰でも変れるものではない。心寧がいないとダメだと刀祢は思った。


「心寧の代わりはいないからだ」

「そう言ってもらえると嬉しい」

「心寧はなぜ俺に告白なんてしたんだ?中学の頃、俺のことをあれだけ嫌ってたのに?」

「実は小学校4年生の時、刀祢が剣道の試合で優勝した時、刀祢がとても恰好よく見えて、刀祢が私の初恋の人なの」


 刀祢は心寧の、いきなりの初恋の男子宣言に驚いた。

 そんな小さな頃から、心寧が刀祢のことを想ってくれていたなんて、思ってもみないことだった。

 心寧は昔を懐かしんでいるように、少し遠くを見て微笑んでいる。


「中学の時は剣斗兄さんの考えを信じてた。でも本当に仲良くしたかったのは刀祢だった。そのことに自分で気づいていなかったの。ずいぶん、自分勝手なことを押し付けてゴメンね」

「俺のほうこそ、口喧嘩を吹っかけてばかりで、迷惑をかけてゴメン。あの頃は俺も荒れていた」


 2人でゴメンと謝り合って、顔を見合わせて互いに顔を赤くして微笑む。

 秋風が田園地帯の稲穂の上を撫でていく。風が通る道ができるみたいに稲穂が風に揺れて頭を下げる。

 中学、高校と本当に心寧と刀祢は色々とあって、その度にすれ違ったり、時にはぶつかったこともあった。

 そして今、本当に仲直りできたように刀祢も心寧も感じた。


「心寧と付き合うことを選んで良かった」

「私も刀祢と付き合うことができて良かった」


 心寧が優しい眼差しで刀祢を見つめる。刀祢は照れくさくなって顔を背ける。すると繋いでいた手を心寧がギュッと握りしめる。刀祢は顔を合せずに手をギュッと握った。

 とても暖かくて落ち着いた幸せな時間が流れていく。刀祢と心寧は互いに、その時間を楽しむように黙って歩く。

 田園地帯を抜けて市街地へ入る。住宅街が立ち並び、車の交通量が多くなってきた。

 歩道の中へ入って、刀祢が先頭に立って自転車を押して歩く。その後ろに心寧が自転車を押して歩いてくる。


「これからは刀祢と何でも相談して、刀祢の意見を聞いてから行動したい」

「俺も、心寧の意見を聞いてから2人で一緒に考えて行動したい」


 刀祢が後ろを振り返ると、心寧は嬉しそうに微笑んでいた。

 心寧の家は7階建てのマンションの5階だ。家の前で2人とも自転車を止めて、2人寄り添う。


「家まで送ってくれてありがとう。今度、お母さんが刀祢を呼んできてって言ってた。挨拶をしたいんだって」

「わかった!」


 思い出したように心寧が刀祢に告げる。心寧のお母さんと会うと思うと、少しだけ刀祢は緊張する。

 久しぶりに心寧のご両親に会おう。心寧と付き合っているのだから、ご両親にご挨拶する必要があるだろう。


「近々、ご挨拶させてもらうと、お母さんに伝えてくれるかな」

「うん、わかったわ。ありがとう」


 心寧が嬉しそうに微笑む。


「今日は送ってくれて、ありがとう」

「これから、ずっと送ってやる」

「うん」


 刀祢は心寧に向けて両手を広げる。心寧は刀祢の胸の中へ飛び込んで、刀祢の体をギュッと抱きしめる。刀祢はそんな心寧を優しく両腕で包み込む。


「刀祢、大好きだよ。幸せ」

「ああ、俺も幸せだ」


 2人はしばらくの間、抱き合ったまま幸せな時間を過ごした。
 刀祢達が暮らしている街よりも隣街のほうが倍ほど大きく公共機関も充実している。隣街の医療総合病院に剣斗が入院している。

 長男の公輝の話しでは、剣斗は脚もよくなり、今はリハビリできるまでに回復しているという。

 刀祢は剣斗のことが嫌いだ。だから今まで入院していても1度と見舞いに行かなかった。長男の公輝が珍しく、刀祢に声をかけ、剣斗の見舞いにいくようにいう。父の大輝からの言伝だそうだ。

 今更、剣斗に会っても、仲違いするだけで、剣斗も刀祢の顔を見て気分を悪くするだけだと思うが、父の大輝からの言伝なので無視できない。

 刀祢にとって父の大輝は、反発はできても、逆らえない存在だ。その言葉を無視することはできない。


「今度、剣斗兄貴の入院先へ見舞いに行くことになった」

「私も剣斗兄さんの病院へ見舞いにいきたい。一緒に連れて行って」


 刀祢が心寧に見舞いに行く話をすると、心寧も一緒に行きたいという。そして、休日の今日、隣町へ向かうために心寧と一緒に電車に揺られている。


「剣斗兄貴と俺が会っても、互いに機嫌を悪くするだけだぞ。本当に心寧は一緒に来てよかったのか?」

「うん。私も剣斗兄さんには今までのお礼を言いたいし、刀祢とお付き合いを始めたことを自分から報告したいの」

「そうか」


 普通電車に揺られること30分。ようやく隣街の駅に着いた。刀祢と心寧は改札口を出て、バスターミナルまで向かう。


「入院している剣斗兄さんを見舞うんだから、手土産ぐらいは買って行きたい」


 心寧はバスターミナルの近くの店で、剣斗に渡す見舞いの品を選び、ゼリーのギフトを選択する。


「これなら、日持ちするし、冷やして食べると美味しいわ」


 刀祢はそんな心寧の言葉を聞いて、さすがは女の子だと感心する。

 ゼリーのギフト詰め合わせが入った紙袋を刀祢が持ち、総合医療病院行きのバスを、バスターミナルで探す。

 総合医療病院行きのバスを見つけた刀祢と心寧がバスに乗り込むと、直ぐにバスの扉が閉まり、バスが発車した。

 吊革に刀祢が捕まり、心寧が刀祢の腕に捕まっている。

 バスに乗って20分ほど走ると、白くて大きな病院が現れた。総合医療病院だ。刀祢達はバスを降りて、病院の玄関を潜り、案内カウンターへ進む。

 案内カウンターで入院病棟へのエレベータの場所を聞いて、入院病棟の7階へ向かう。7階でエレベータを降りるとすぐ前に、ナースステーションがある。

 ナースステーションで面接書類にサインをする。剣斗は7階の個室で入院していた。病室の前まで行き、表札を確かめて、ノックをする。


「どうぞ」


 病室の中から、剣斗の声が聞こえる。刀祢は病室のドアを開けて中にと入る。刀祢の後ろから心寧が病室へ入り、ドアを閉める。


「刀祢と心寧か。俺の見舞いか?」

「ああ、父さんに言われてきた。これ持ってきた」


 剣斗はベッドを操作して上半身をもたれさせてベッドに座っている。そのベッドの上に刀祢は紙袋を置く。


「剣斗兄さん、お身体の具合はどうですか?」


 心寧が剣斗を心配そうに見つめる。


「ああ、膝の皿が見事に割れたり欠けたりしていたそうだが、簡単な手術で終わった。この後はリハビリをするが、これから先は激しい運動をすることはできない」


 その言葉を聞いて心寧は口元を押えて青ざめる。

 あの試合は剣斗と刀祢の真剣試合だった。刀祢が謝ることは剣斗の矜持を傷つけることになる。口元まで出かかっていた謝罪の言葉を刀祢は呑み込む。


「この間、父さんと公輝兄貴が見舞いに来て、破門は取り消された。しかし、この足ではまともな剣術もできない。もう剣術をすることもない」


 剣斗はそう言って、吹っ切れたような笑顔をする。


「この病院で入院している間に色々なことを考えた。俺は弱者を許すという気持ちを持っていなかった」


 剣斗は少し刀祢達から目を逸らせて話始める。

 今までの剣斗は、自分の規律を基準として成り立たせようとばかりしてきた。その他大勢が、その規律についてこられるかどうかを考えたことはなかった。自分で作った自分の規律ばかりを見ていて、周りを見ていなかったという。


「木を見れば森は見えず。俺は1本の木しか見ていなかった。森の多くの木々を見ようとしなかった。それだけ自分の度量がせまかった。刀祢に負けて、館長である父に破門されて、自分の中の規律が崩れ去った時、初めて森が見えてきた」


 剣斗の言葉は難しく、刀祢は全てを理解することはできないが、剣斗の中で大きく心が変化したことはわかった。


「人は自分の感情や人格を持っている。それを無暗に否定して、良いことでも押し付けてはならない。人がその良さを感じれば、自ずと欲するものだということがわかった」


 あのプライドの高い剣斗が自分を省みるなどと刀祢は思ってもみなかった。


「刀祢は刀祢で生きろ。俺は俺で生きる」


 剣斗は刀祢へ顔を振り向いて、落ち着いた表情でいう。この時、初めて刀祢と剣斗との間で、壁がなくなったことを感じた。


「お互いに今までのことを言うのはやめよう。これから始めればいい」

「ああ、そうだな。剣斗兄貴」


 剣斗は薄く笑うとナースコールのボタンを押して、1人の看護婦を指名して呼び出す。しばらくすると、部屋に1人の若い看護婦が現れた。


「春日琴音(カスガコトネ)さんだ。俺が病室で落ち込んでいた時、熱心に相談に乗ってくれ、心身共に支えてくれた。そのおかげで立ち直ることができた」


 今は琴音さんと付き合っているという。そして刀祢に、あの試合と怪我がなければ、琴音と出会えていなかったと剣斗はいう。


「入院した時はどん底のような気持ちでいたが、琴音と出会うことができて、俺は幸せだ」


 春日琴音さんは小柄で童顔の可愛い人だ。この人が剣斗を変えてくれた。


「剣斗兄貴をありがとうございます」

「刀祢くんね。これから剣斗と私と仲良くしてね」


 剣斗と琴音さんは幸せそうに見つめ合って微笑んでいる。

 刀祢は心寧と付き合い始めたことを剣斗に伝えた。


「心寧は小さい頃から刀祢のことが好きだったからな。よかったな、心寧」

「今までありがとうございます」

「ああ、これからもよろしくな」


 剣斗は優しい眼差しで心寧と刀祢のことを祝った。
 剣斗との面会が終わった後に、今、刀祢と心寧はバスに乗って、駅前のバスターミナルへと向かっている。

 バスの中は病院に通っているお客様で混雑していて、刀祢と心寧は身を寄せ合ってバスの中に乗っている。刀祢がバスのつり革をしっかりと掴み、心寧が刀祢の腰に捕まっている状態だ。

 20分、バスに揺られてバスターミナルへ着く。刀祢と心寧はバスから降りて2人で目を合わせて見つめ合う。


「バスで少し疲れたな。少し駅前で休んでいこうか?」

「うん、ありがとう」


 刀祢と心寧の2人はバスターミナルの近くにあるファーストフード店へ入る。ファーストフード店は混雑していて、受付カウンターには人の列ができている。

 2人で列に並んで受付カウンターへ向かう。そしてハンバーガー、コーラ、ポテトのセットを2つ頼むと。すぐにトレイに載せられて商品がでてきた。

 支払いを済ませて、それぞれにトレーを持って、2階の客室へ向かう。2階の客室は混雑していて、窓際のカウンター席しか空いていなかった。


「カウンターでいいよな」

「うん。刀祢の隣に座れるから、カウンターも好き」


 カウンター席にトレーを置いて、椅子に座って窓の外を眺める。窓の外は、行きかう人々が足早に歩いていく姿が見える。

 そしてバスターミナルへ入ってくるバス。発車していくバスの往来が、刀祢達の目を惹く。

 駅前だけあって、人の往来が多い。刀祢達の地元では見られない風景だ。


「隣街なのに、なんだか不思議」


 心寧が小さい声で呟きをもらす。

 この街から比べれば、刀祢達の街は小さくて、田園風景もあり田舎だ。利便性を考えれば、この街のほうが便利だとおもう。しかし、その静けさというか、のんびり感を刀祢は良いと思った。

 窓の外では、色々な人達が、色々な方向へと去って行き、色々な方向から駅とバスターミナルを利用するために集まってくる。

 その光景を刀祢達は珍しそうに眺めていた。

 刀祢達が医療総合病院で幸せそうに入院していた剣斗のことを思い出す。まさか入院している病院で看護婦さんと付き合っているとは思っても見なった。

 あんな幸せそうな剣斗を見たことはない。性格も丸くなり、まるで別人のようだった。琴音さんの影響を大きく受けて、性格も丸くなったのだろう。

 琴音さんは剣斗よりも3歳年上だという。剣斗が20歳なので、琴音さんは23歳ということになる。付き合うには丁度良い年齢といえる。しかし、仕切り屋の剣斗が年上の女性と付き合うとは刀祢も予想していなかった。


「琴音さんと剣斗兄さん、本当にお似合だったね」

「ああ」


 病院の個室で刀祢と剣斗は久しぶり、色々と自分達の近況を話した。琴音さんと心寧が同じ病室に居てくれたことが大きい。2人だけなら、またギコチナイ雰囲気になっていたかもしれない。

 心寧と琴音さんは常に刀祢と剣斗の話しが上手く流れるように、上手く話を流してくれた。女性2人の気遣いが刀祢にはありがたかった。


「今日は一緒にきてくれて、ありがとう」

「うん、私も剣斗兄さんのことが心配だったから」


 琴音さんと心寧も言葉数は少なかったが、すぐに仲良くなり、笑顔で女性同士の話しもしていた。琴音さんと心寧であれば、次に会った時には、もっと仲良くなっていることだろう。


「琴音さんと心寧は何を話していたんだ?」

「女性同士の内緒話」


 心寧は意味あり気な微笑みを浮かべる。女性2人で剣斗と刀祢のことを話していたに違いない。

 窓の外にシアタービルが見える。


「ゆっくりと映画でも2人で観に行かないか?」

「うん。嬉しい」


 心寧は嬉しそうに微笑む。


「これが初めてのデートになるのかな?」


 そう言えば、刀祢と心寧は付き合い始めたが、2人きりで出かけたのはこれが初めてだ。心寧をどこへも連れていっていないことに気づく。


「そうなるのかな? これからはもっと、2人だけでどこへでも出かけよう」

「刀祢と一緒なら、どこへ行っても私は楽しいよ」

「ありがとう」


 刀祢も心寧と同じ気持ちだ。こうしてファーストフード店で座っているだけでも心寧と一緒なら楽しい。

 刀祢はハンバーガーの袋を開けて、ハンバーガーにかじりつく。心寧も小さな口でハンバーガーを頬張っている。和やかな時間が2人の間に流れる。

 ハンバーガーをお互いに食べながら、目を合せる。それだけで楽しくなり、刀祢も心寧も嬉しくなって微笑む。

 刀祢がポテトにケチャップを少しつけて、心寧の口元へ運ぶ。


「少し恥ずかしいな」


 心寧は口を少し開ける。刀祢はそっと心寧の口の中へポテトを入れる。ポテトを食べ終わると、顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっている。


「これって、すごく恥ずかしいから、刀祢も試して」


 心寧はそう言って、ポテトを1本摘んで、ケチャップをつけて、刀祢の口元へ運ぶ。周囲の人達が、刀祢と心寧をチラチラと見ている。心寧の言った通り、これは、かなり目立って恥ずかしい。

 刀祢は恥ずかしさを表情に出さずに心寧の手からポテトを食べる。


「うん、美味しい」


 そう言って、照れたように窓の外を覗きこむ。その様子を見て心寧は楽しそうに微笑む。そして、コーラーのストローに口をつける。

 まだ時間は夕方前だ。まだ地元に帰るには時間がある。


「さっきも言ったけど、映画でも観て帰ろうか」

「うん。楽しそう」


 2人はハンバーガーを食べ終わると、ゴミを捨ててトレイを置いてファーストフード店を出る。

 人通りが多いため、心寧が刀祢の右手を掴む。そして指を絡めてギュッと握る。手から心寧の温もりを感じる。刀祢も心寧の手をギュッと握る。


「逸れないように手を離すなよ」

「うん、離さない」


 駅前の雑踏の中をシアタービルを目指して、刀祢と心寧は手をつないで歩きだす。目の前の信号が青色が点滅し始める。


「渡ってしまおう」


 心寧はシッカリと刀祢の手を繋いで、2人で交差点の横断歩道を渡った。
 最近、刀祢は朝からの剣術の訓練を朝6時からと遅めにして、訓練メニューを減らしている。その分、朝の6時まで睡眠時間にあってている。

 そのおかげで、昼休憩は相変わらず寝ているが、授業中に居眠りをすることがなくなった。授業中は目を覚まして、しっかりと授業に耳を傾けて、ノートへ書き写す、刀祢の姿が見られるようになった。

 成績が下降線を辿っていた刀祢は、今は自分の勉強の遅れを取り戻すことに必死だ。刀祢が勉強に取り組んでいる姿を見て、先生達は顔をほころばせている。


「刀祢も真面目に授業を受けてくれて私、とてもうれしい」

「別に心寧を喜ばせるために、授業を真剣に聞いてるわけではないからな」

「それでも私は嬉しいの」


 心寧と付き合い始めてから、徐々にクラスの皆が刀祢に対する雰囲気が変っていった。今までは刀祢のことを怖がっていたクラスの者達も、今はそれほど刀祢のことを怖がっていない。

 刀祢への疑いが晴れたことと、何かあれば、心寧がストッパー役になってくれると思っていることが大きい。

 直接、刀祢に話しかけてくる者は少ないが、クラスの雰囲気は常に和やかだ。刀祢と心寧が付き合うことで、こんな影響が出るとは思ってもみなかった。

 直哉、莉奈、杏里の3人も刀祢とクラスの皆との距離が縮んだことを喜んだ。

 今日は1限目から授業はなく、今年の文化祭について皆で話し合われている。

 クラスの男子達はメイド喫茶を強く推したが、女子の強力な反発に遭い、敢え無く、男子達のもくろみは崩れ去った。

 直哉が、悔しそうに大声で叫んでいる。


「なぜ、女子達は、俺達の熱い心を理解してくれないんだ!」

「そんな男子の欲望を理解するはずないじゃない!」

「直哉―! 私なら、直哉専属のメイドになってあげるー!」


 杏里が嬉しそうに直哉を慰めている。

 男装喫茶、執事喫茶、仮装喫茶など、色々な案がだされたが、男子と女子がそれぞれに反対したため、喫茶店という案自体が不採用となった。


「私、演劇が良いと思いまーす!」


 杏里が大きな声で演劇を提案する。それに対して戸惑うクラスの皆。


「だって、演劇だと、出なくて良い人も多いんだよ」

「それだったら、俺達も賛成だ。演劇、バンザーイ!」



 杏里のその言葉を聞いた、クラスの皆は、演劇に参加しないなら、手伝っても良いという感じで、演劇を推す者達が多くなり、今年の文化祭は演劇に決まった。


「私、シナリオと脚本を書きたいでーす」


 ギャルである杏里の隠れ趣味は、小説を書くことだという。意外な隠れ趣味である。クラスの皆も刀祢も、杏里の隠れ趣味を聞いて驚いた。

 杏里は刀祢と同じくらい、学校の成績はギリギリだ。しかし、杏里は国語の点数だけはずば抜けて良かった。それには、この隠れ趣味が大いに拘わっているようだ。

 どういう内容の劇にするかとクラス内で話し合っている時に、心寧、直哉、刀祢の3人が同じ道場に通っていて、剣術を習っていることに白羽の矢が立った。


「劇に出るなんて、俺はできない。俺は無理だから」

「そんなワガママは通らないのでーす!」


 刀祢は嫌な予感がして、自分の意思を皆に伝える。

 杏里は即興で刀祢達を見て、タイトルを思いついたようだ。


「タイトルは『2人の佐々木小次郎』でどうかな?」

「それはどういう内容なんだ?」


 刀祢はタイトルに不吉なものを感じ、杏里に答えを求めるが、杏里は笑顔で刀祢をスルーする。

 杏里は即興で考えたストーリーをクラスの皆に話す。クラスの皆は、自分達が役者として出ないで良いと安心して、杏里の話しを面白そうに聞いている。


「刀祢は宮本武蔵役が良いと思うんだ」


 杏里がここへきて、刀祢を名指しで指名してきた。それまで傍観していた刀祢も、名指しで指名されたことで動揺する。


「俺に役者は務まらないぞ。声を出したくない」

「剣術ができたら大丈夫だよー! 後はクラスの皆に任せれば良いからー!」


 刀祢は人見知りであり、照屋の恥ずかしがり屋だ。自分から目立つことなどしたくなかった。


「では、声は声優役の生徒にやってもらいましょうよ」

「それは良いな。声を出さなくても済む。それだけで恥ずかしくないぞ」


 直哉は気軽そうに刀祢に話しかける。刀祢はパニックになっていて、直哉の言葉が聞こえない。

 莉奈がサラリと声優という配役を提案する。声優であれば顔を出さなくても良くて、声だけで参加できる。クラスの皆は声優と聞いて興奮する。

 莉奈の提案で、刀祢はますます、逃げられなくなった。

 杏里は熱を帯びたように、自分の考えたストーリーを語っていく。文芸が好きな者達は杏里のストーリーに肉付けを行って熱く話し合っている。

 杏里は皆の意見を参考にして、良いストーリーに練り直して、明日にでも発表すると熱のこもった視線で語っている。

 普段は何でも、やる気のない杏里としては意外な一面である。


「俺は役者はできないって、言ってるじゃないか」

「刀祢、何でも最初は初心者だよー! 挑戦あるのみー!」


 杏里は刀祢の姿を見て激励する。

 興奮して熱くなっているクラスの皆には、刀祢の反対する声は聞こえない。

 直哉は諦めた顔で、軽く、刀祢の肩を叩く。心寧は刀祢の隣へやって来て、優しく刀祢の手を握って、優しく見つめる。


「心寧、皆を止めてくれ。俺に舞台なんで無理だ」

「刀祢、もう、皆を止めることは無理だと思うよ」


 心寧は優しく、刀祢を労わるように呟いた。

 段々とクラス内で、配役や担当が決められていく。クラスの担任は面白そうに生徒達を見守り、演劇に協力するという。

 佐々木小次郎(本物)ー直哉
 佐々木小次郎(偽物)ー心寧
 宮本武蔵ー刀祢
 佐々木小次郎(本物)に助けられる街娘ー杏里
 佐々木小次郎(偽物)に助けられる村娘ー莉奈
 監督・脚本・シナリオ・杏里

 などの配役が黒板に書かれていく。声優役は顔を出さなくても良いということで大人気だ。

 直哉、心寧、刀祢だけでは、剣劇をしたとしても迫力に欠ける。しかし素人に木刀や竹刀を持たせるもは危険だ。

 その結果、剣道部にも声をかけ、参加してもらうように呼び掛けることとなった。

 こうして、今まで刀祢が経験したこともない文化祭の準備が始まった。
 杏里が劇に選んだストーリの題材は宮本武蔵(ミヤモトムサシ)の年表から創作したものだ。

 宮本武蔵は史実にも登場する戦国時代最後の兵法者(ヒョウホウカ)としても有名である。

 時は慶長(ケイチョウ)、1人の兵法者が頭角を現した。その名も宮本武蔵(ミヤモトムサシ)。
 若い時に、新当流の有馬喜兵衛(アリマキヘイ)と決闘し勝利する。
 次に、但馬国(現在の兵庫県北部)の秋山某(アキヤマナニガシ)に勝利。
 関ヶ原の戦いの時、黒田官兵衛(クロダカンベイ)に従い、九州で戦った。
 その後に京都の吉岡一門(ヨシオカイチモモン)と激しい戦いを繰り広げ勝利。
 巌流島(ガンリュウジマ)で佐々木小次郎(ササキコジロウ)と戦い勝利したとされる。

 刀祢が知る宮本武蔵に関する戦いはこれぐらいだ。

 佐々木小次郎については諸説があり、史実の人物であったかどうかも疑わしいが、刀祢は佐々木小次郎が富田勢源の弟子の弟子になっていることから史実の人物だと思っている。

 杏里の書いてきた物語は、始めは佐々木小次郎を主人公として考えていたらしいが、あまりにも資料がなく、主人公を宮本武蔵に変更したという。

 杏里の考えたストーリーは宮本武蔵を主人公とした創作物語である。

 宮本武蔵が新当流の有馬喜兵衛と決闘し勝利する所から始まり、数々の戦いに勝利していく物語。

 そして巌流島で佐々木小次郎となる男女の双子の兄妹が生まれ、妹の名前は多恵(タエ)と言った。

 兄妹は富田勢源の弟子となって、兄弟子達と一緒に剣術を励み、兄弟子達を倒して、兄の佐々木小次郎は西国一の強者と言われるまでになる。

 兵法者として修業をしていた武蔵は小次郎に会うために、小倉へ行き、小次郎と妹の多恵と出会う。

 そして、武蔵は妹の多恵と恋をし、小次郎に妹の多恵を嫁に欲しいと相談する。

 そのことで怒った小次郎は武蔵と決闘を申し込む。そして2人は巌流島の戦いをし、兄の小次郎は負けて死んでしまう。

 その戦いを観戦していた、妹の多恵は、兄の仇として、武蔵に戦いを挑む。武蔵は仕方なく多恵との勝負を受ける。

 多恵との戦いに勝つが、恋仲だった多恵を自分の手で討ってしまうことになり、その場で泣き崩れる。そして一生を独身で暮らし、五輪の書を書き残すという物語だった。

 宮本武蔵を題材にした悲恋の物語である。

 剣道部の皆は、協力を要請すると快く引き受けてくれた。2年1組の劇の稽古は武道場ですることになった。


「さー、皆、元気に頑張るよー!」


 椅子持ち込んで、杏里がメガホンを持って劇の指導をする。

 刀祢は剣術のシーンは、普段のシーンでは照れが出てしまい、上手く演技ができない。


「何やってるのよ、刀祢。劇の最中に照れてどうするの。照れないで頑張ってー!」


 杏里はメガホンを振り回して、すっかり監督気分になって、いつもと性格が別人となっている。


「刀祢は黙って、威張ってるだけで、渋く見えるから、とにかく堂々としてよ。堂々と!」

「刀祢は木刀を触っているだけで落ち着くから、演技している時も木刀に触れていられるようにしてもらえるかな」


 心寧が刀祢のことを気にかけて、杏里に提案を出す。


「わかったわ。刀祢はどんな時でも、木刀に触れていていいから、演技を続けて」


 刀祢は言われる通りに木刀を触ると、心が落ち着くのがわかる。今までのように照れくさくない。今までよりもスムーズに演技ができるようになった。

 クラスの声優勢がいるので、声をださなくていい。それだけでも刀祢にとってありがたかった。それだけでも演技をしなくて済む。

 莉奈は村娘として登場し、迫真の演技を見せる。莉奈は声優もなしで1人で役をこなす。俳優になる素質があるのではないかと思う。

 佐々木小次郎は美男子としても有名で、イケメンの直哉が役作りをするとハマり役であることがわかった。とても似合っている。

 ポニーテールに道着姿の心寧も佐々木小次郎の妹役として演技をする。凛とした佇まいが、女剣士として、ハマり役だった。

 しかし、この配役で一番、注目を集めたのは刀祢だった。普段は学生服しか見たことのないクラスの皆は、刀祢の道着と木刀姿を見て息を飲む。

 演技こそ下手だが、その存在感と威圧感が半端ない。

 いつも険しい顔をして、不機嫌な表情をしている刀祢が本物の兵法者に見える。一番のハマり役は刀祢だった。

 直哉、心寧との、木刀での演技も実戦さながらの迫力があり、クラスの皆の心を熱くする。


「キィィイイエエ―――!」

「テェリャァアア―――!」


 剣道部員達も吉岡一門に扮して、刀祢と戦うシーンでは、刀祢が相手なので、剣道部員達も手加減抜きで襲いかかる。そのシーンの迫力は劇を盛り上げるには十分だった。

 杏里は考えてタイトルも「宮本武蔵と佐々木小次郎兄妹」と変更になった。

 担任の先生も、熱のこもった演技指導と、役者を務める刀祢達の迫力に拍手をし、ジュースなどの差し入れもしてくれた。

 最後の妹の仮(多恵)が宮本武蔵に負けて、宮本武蔵の腕の中に抱き上げられて死ぬシーンの時、刀祢と心寧が抱き合って見つめ合う。

 刀祢は恥ずかしくなり顔や目を逸らしてしまう。心寧も照れて目を逸らす。


「刀祢も心寧も本気で演技してよ。劇なのよ。劇。お芝居」


 杏里にそう言われても、照れるモノは照れるし、恥ずかしい。


「恋人同士なんだから、劇中でキスしてもいいから。もっと顔を寄せて」


 杏里が無茶な指示を飛ばす。

 どうしても照れてしまって、そのシーンだけは上手くいかない。

 クラスの皆の前で、心寧を何度も抱きしめて顔を近づける練習をする。クラスの皆が、そんな刀祢の姿を見て、段々と焦れてくる。


「キース! キース! キース!」


 最後にはクラスの皆からキスコールが巻き起こる。


「皆の前でキスなんてできるか!」


 刀祢は顔を真っ赤にして言い返す。心寧も顔を真っ赤にして恥ずかしがった。クラスの皆はそんな仲の良い2人を見て幸せそうに微笑んだ。
 五月丘高校の学園祭が始まった。五月丘高校の学園祭は一般の地元住民にも公開されている。そのため、朝から多くの住民達が五月丘高校へ来場している。

 出店を催したクラスは忙しそうにフランクフルトや焼きそばを売っている。凝った出店ではクレープ屋を催しているクラスもあった。

 文化祭を催している学校の生徒達も、それを見に来た街の住民の人々も皆が笑顔で学園祭を楽しんでいる。

 2年1組の劇は午前の部となっている。直ぐに体育館へ向かって、衣装に着替える。

 刀祢の恰好は女子達が作ってくれた野武士の格好だ。渋い刀祢が着ると、いかにも野武士のようで、厳めしく強そうだ。


「刀祢、舞台衣装、とても似合っていて恰好いいよ」

「直哉も心寧も、似合っているぞ。さすがイケメンと美少女だな」


 直哉と心寧が来ている服には羽織が着いていて華やかで、イケメンの直哉と、美少女の心寧にとても似合っている。


 2年1組の劇が始まった。

 劇が始まった。タイトルの「宮本武蔵と佐々木小次郎兄妹」が読み上げられる。

 刀祢が扮するが武蔵が武者修行の旅を続けていると、五十嵐が扮する、有馬喜兵衛(アリマキヘイエ)が刀祢の前に現れて、勝負を挑んでくる。

 五十嵐は竹刀で刀祢は木刀を構える、五十嵐の激しい打ち込みを木刀でいなし、受け流す。そして、五十嵐の体の前で木刀を袈裟切りに振り下ろすと、五十嵐は自ら倒れて勝負に決着が着く。

 次々に刀祢が演じる武蔵へ剣道部員達が演じる兵法者達が挑戦し、刀祢に斬られて行く。

 中盤の山場は京都の吉岡一門と武蔵の戦いで、その時は剣道部全員が吉岡一門を演じて、刀祢が演じる武蔵へ襲いかかる。

 その乱撃を受け流して、時には躱して、刀祢がヒラリヒラリと剣道部員達を1人づつ討ち取っていく。その迫力に観客席から拍手が起きる。

 そして場面は変わって、直哉が演じる、佐々木小次郎と心寧演じる妹の多恵が登場すると、イケメンと美少女の登場に体育館の観客は湧く。

 武蔵(刀祢)が佐々木小次郎(直哉)に会いに来て、妹の多恵(心寧)と恋仲になり、2人で小倉の街を散歩するシーン。


「桜の木も美しいが、多恵さんのほうがもっと美しい」

「そんなこと言われると恥ずかしい。でも、ありがとう武蔵」


 武蔵と多恵の声優を演じている声優の生徒達が甘い雰囲気を作り出す。

 刀祢と心寧が手を繋いで互いに本気で照れて恥ずかしがっている姿を見た観客達は羨ましそうに声を出す。

 武蔵(刀祢)が多恵(心寧)との恋仲を許してもらおうと直哉が演じる小次郎(直哉)に頭を下げるが、武蔵などに妹はやれんと、一喝し、武蔵に果たし状を叩きつける。

 そして場所が移り、風景は巌流島となる。小次郎(直哉)と武蔵(刀祢)が木刀を持って、真剣な打ち合いが始まる。


「今日は勝つからな」

「今は劇の最中だ。試合じゃない」


 そんなことを劇をしながら刀祢と直哉は小声で言い合う。

 その迫真の演技と、木刀と木刀が打ち合う音が迫力を増す。そして、刀祢が逆袈裟に斬り上げた所で、木刀を寸止めする。小次郎(直哉)はそのまま斬られた演技を続け、舞台の上で討たれて倒れる。

 その後に兄の仇討ちとしようと多恵(心寧)と武蔵(刀祢)が、木刀での一騎打ちを演じる。心寧の剣捌きは鋭く、鋭い剣戟が刀祢を襲う。

 心寧も直哉と同じく、本気で真剣に打ち込んでくる。刀祢は、心寧の胴を一閃して、心寧演じる多恵を打ち倒す。

 その後で、武蔵(刀祢)が多恵(心寧)を抱き上げて抱きしめる。


「劇の中でも刀祢に抱かれてるのって、嬉しいし、恥ずかしい」

「俺も心寧を抱きあげられて嬉しいが、舞台のうえだと照れる」

 刀祢が心寧を抱いたまま、幕が下ろされる。


「やっと劇が終わるな」

「楽しかったね刀祢」


 解説を務める放送部の女子が、武蔵が一生涯を独身で通し、五輪の書を残したと解説して劇が終わった。

 観客達はその場で盛大に拍手をし、2年1組の劇は大盛況のうちに終わった。

 午後からは2年1組の生徒は自由時間となった。

 昼になったので小腹が空いて、刀祢と心寧は焼きそばの出店に行って、焼きそばを2つ頼んで、中庭のベンチで焼きそばを食べる。

 心寧の唇に青のりがついていたので、刀祢が無意識に指を伸ばして心寧を唇と拭くと、心寧は恥ずかしそうに俯いた。


「ありがとう」

「ああ」


 刀祢はアッという間に焼きそばを食べてしまった。すると心寧が自分が食べていた焼きそばを分けてくれる。

 今までの刀祢であれば、中庭で食べるなど恥ずかしくて考えられなかったが、最近では刀祢も心寧を2人で外で食べても平静でいられるようになった。


「心寧、どこへ行こうか?」

「私は刀祢と静かにゆっくりできる所がいいな!」


 学校の中を色々と歩いて、色々な店に入る。そして刀祢と心寧は3年生の催しているカップル喫茶へ立ち寄った。

 カップル喫茶では五十嵐にも出会った。五十嵐は同じ剣道部の女子と一緒にいる所を刀祢達に見つかった。五十嵐は慌てて、顔を真っ赤にする。剣道部女子も照れて俯いている。


「このことは剣道部の全員に内緒にしてくれ」

「わかった。誰にも話さないから、2人で楽しめよ」


 五十嵐が刀祢の言葉を聞いて、ホッと胸を撫でおろしている。

 そして、刀祢と心寧が目を見張ったのは、窓際に座っている莉奈と直哉だった。2人は仲良さそうに、手を繋いで微笑み合って、ジュースを飲んでいる。

 刀祢と心寧は、戸惑いながら2人に近寄る。


「直哉と莉奈じゃないか。2人で手を繋いで、そういう関係だったのか?」

「あら、とうとう見つかちゃったわね。私達、1学期の時から付き合っていたの」


 莉奈は恥ずかしそうに、ニッコリと笑う。


「刀祢と心寧が付き合ってから、言うと思ってたんだが、タイミングを見逃してしまってさ。今まで黙っていて悪かった」


 直哉は髪を軽く掻きながら、少し照れて、微笑んでいる。

 刀祢と心寧は驚いて顔を見合わせる。


「刀祢、2人のこと気づいてた?」

「いや、全然、気づかなかった。心寧は?」

「私、何も聞いてなかったよ」


 直哉と莉奈は幸せそうに2人で微笑んでいる。

 刀祢と心寧も隣の席に座り、直哉と莉奈と楽しく4人で過ごした。

 そして、文化祭が終わり、演劇部門で2年1組は優勝を果たした。