道場の近くの公園で刀祢は心寧が来るのを待っている。ほどなくすると、黒髪のロングストレートの女子が公園の中に入ってきた。一瞬で心寧だとわかるが、いつもと雰囲気が違う。

 心寧がゆっくりと外灯の下まで歩いてくる。心寧の姿が良く見えるようになった。

 白のニットワンピースを着て、フレアーなスカートを履いて、少し化粧もしている。いつもよりも大人びて、上品で清楚に見える。

 そのまま心寧は刀祢の近くまで歩いてくる。その可憐さと美しさに刀祢は言葉を失う。今まで学校で元気よく、刀祢と口喧嘩をしていた心寧の姿はどこにもない。ここにいるのは上品で清楚な美少女だ。


「誰だ? 本物の心寧か?」

「何言ってるの? 心寧よ」


 心寧は不思議そうな顔で刀祢の顔を、優しい眼差しで見つめてくる。

 心寧相手なのに刀祢は自分の体が自然と緊張していくのがわかる。

 黒いまつ毛が濡れている。漆黒の瞳がとてもきれいだ。唇がグロスで濡れて光っている。頬がほんのりとピンク色に染まっている。どこから見ても完璧な美少女だ。


「今日は、化粧をしてきたんだな」

「似合ってるかな?」

「ああ」


 刀祢はなるべく平静を装うが、声が妙に高くなってしまう自分を自覚する。心寧が刀祢の目の前で立ち止まって、刀祢を見上げる。瞳がウルウルと潤んでいて、瞳に吸い込まれそうだ。


「刀祢、突然だけど、私、刀祢のことが好き! 付き合ってほしいの!」

「え!」


 突然の心寧の告白に頭が真っ白になる。全てのことが頭から吹き飛んで消え去る。心寧が何を言っているのか理解できない。

 心寧は世話好きなので、刀祢のことを面倒みていると思っていた。中学生の頃は刀祢のことを心寧は嫌っていたはずだ。どこで変わった。心寧に何があったんだ?

 心寧に何か変化がなければ、刀祢のことを好きになることなんてあり得ないと、刀祢は思った。


「心寧、何かあったのか? 相談になら乗るぞ」

「もう1回言うね。私は刀祢のことを本気で大好き。だからお付き合いしてください」


 悩み事ではなかった。本気で心寧は刀祢と付き合いたいと言っている。少し時間が欲しい。理解がついていかない。心の準備が全くできていない。

 今まで心寧のことは大事な友達だと思ってきた。これは本当だ。でも恋愛対象として女性扱いしていなかった。


「ちょっと待ってくれないか。頭を整理する時間がほしい」

「いつまででも待つわ」


 こんな美少女を彼女にしていいのか?刀祢は心寧の顔を見つめ続ける。心寧が微笑んで1歩前に身体を寄せる。

 心寧の可憐で美しい顔が目の前に迫る。心臓がドキドキと鼓動が激しい。これ以上、緊張すると、身体が硬直してしまいそうだ。


「刀祢は私のこと嫌い?」


 刀祢にとって心寧は安定剤である。嫌いなはずがない。友達の中でも一番信頼できるのは心寧だ。家族よりも一番信頼も信用している。


「心寧のことは好きだ」


 心寧は嬉しそうに顔をピンク色に染めて恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。そんな可愛い表情と仕草をされると視線を合わせていることができない。刀祢は照れて心寧から視線を逸らした。


「刀祢に好きって言ってもらえて、すごく嬉しい。胸がドキドキする」


 既に刀祢の胸は高鳴り過ぎて爆発寸前だ。体中から汗が噴き出してくる。体が熱くて、喉が渇いて仕方がない。


「ちょっとジュースを買ってくるから、待ってろ」

「うん」


 刀祢は緊張感に耐えられずジュースを買いに自販機へ走る。ジュースを2本買って、すぐにジュースのプルトップを空けて一気に飲み干す。ジュースが体に染み渡って、少しは頭が回転するようになった。

 刀祢は歩いて戻ってくるとジュースを心寧に渡す。心寧は嬉しそうにジュースを飲んでいる。その姿もきれいだ。


「こんな俺のどこがいいんだ?」

「全部よ。 全部、大好き!」


 心寧は深く頷く。そして嬉しそうに微笑む。


「付き合おう。しかし、男女の付き合いなんて俺にはわからないからな」

「刀祢は私の傍にいてくれるだけで十分に幸せ」


 心寧は嬉しくて、刀祢の胸に飛びこんで、刀祢に抱き着くと、刀祢の胸の中で涙を浮かべている。刀祢は心寧の体を受け止めて、心寧が倒れないように背中に手を回した。