刀祢にサンドイッチを渡してから5日が経った。

1人で家に居ると、同じことばかり考えてしまう。刀祢のことばかりを考えてしまう。そして思い悩んでしまう。だから今日は莉奈の家に泊まりに来た。


「最近の心寧は忙しそうね」


 莉奈はお風呂に入って、サッパリした後に、ジュースとポテチを用意してくれた。莉奈の部屋でパジャマに着替えて、2人でポテチを食べて、ジュースを飲む。


「今回は何の相談かな?」


 昼休憩にサンドイッチを作っていった日、刀祢の寝顔を見て、心寧は自分の心が安らぐのを感じる。とても落ち着く。

 細い眉、常に吊り上がった目元、切れ長の奥二重、シャープな鼻筋、薄い唇小顔、色白で、端正な顔立ち。刀祢がこんな格好いい容姿をしていると思わなかった。すごく恰好いいし、可愛い寝顔。思わず吸い込まれるように顔を近づけてしまう。


 刀祢が起きてきて、いつもの不機嫌な顔に戻った。もう少し寝顔を見ていたかった。刀祢に好きと伝えたかった。でも言葉に出して言う勇気がない。だからサンドイッチを心を込めて作った。少しでも自分の心を伝えたかった。

 刀祢はサンドイッチを美味しそうに食べてくれた。心寧は刀祢が早弁を食べている姿が好きだった。はじめは早弁なんてルールに反すると思って注意したけど、早弁のおかずやご飯を口いっぱいに頬張る刀祢を見ていると可愛いと思った。


「刀祢くんは本当は格好良くて、可愛い顔をしてるもんね。表情で損をしているけど」


 刀祢を好きと自分が理解してから世界が変わった。刀祢のことが全て恰好よく見えるし、可愛くみえるし、輝いて見える。自分は一体、今まで刀祢の何を見ていたんだろうと思う。

 道場で門下生達に稽古をつけている時の刀祢の横顔が素敵すぎる。刀祢は横顔のほうが格好いい。凛々しさが際立つ。自分の稽古をしながら、目で刀祢の姿を追ってしまう。刀祢の道着姿で木刀を振っている姿は、すごく凛々しい。


「はい、はい、そこまで刀祢くんに夢中になってるのね。もう心寧の心は刀祢くんでいっぱいね」


 こんなに恰好いい刀祢が、いままでモテなかったことが不思議。今までの心寧と同じで、皆も刀祢のことを、きちんと見ていないから、刀祢の魅力がわからないんだと心寧は思う。


「刀祢くんは魅力的な男の子よ。私は1学期の時から、そう思っていたわ。心寧が刀祢くんに惹かれる気持ちはすごくわかるよ。刀祢くんは心寧のことが大好きだから、自分に自信を持ちなさい!」


 莉奈はそう言って、心寧を優しい瞳を向けて、静かに微笑んだ。

 莉奈は刀祢は心寧のことが大好きだと言ってくれたが、心寧は自分に自信がない。今までの自分の行動を顧(カエリ)みると、刀祢にはずいぶんと迷惑をかけたと思う。刀祢に嫌われていたらと思うと足が竦む。

 刀祢は本当に自分のことを受け入れてくれるだろうか。心寧はそれが知りたかった。


「それを知るには心寧から告白するしかないわね。そうしないと刀祢くんは自分の気持ちを教えてくれないわ」


 告白するなんて恥ずかしいことは、今までしたことがない。告白されたことはいっぱいあったけど、自分が告白することになるなんて想像もしていなかった。でも刀祢とこのままの状態でいたなら、一生友達関係で終わってしまう。

 刀祢に自分以外の彼女ができたらどうしよう。そんなのは耐えられない。でも告白して刀祢に断られることが怖い。いつまでも大事な友達と言われることが怖い。


「大好きな人に告白するってことは怖いことよ。でも逃げるなんてことをしてはできないよ」


 直接、私の気持ちを刀祢に伝えないといけないことはわかっている。しかし、決心がつかない。


「心寧はきれいで可愛くて、放っておけない所があって、とてもチャーミングよ。私が男子で彼氏だったら、心寧を1人にすることなんてできない。可愛すぎるから」


 そう言って莉奈は私の体に抱き着いて、ギュッと抱きしめてくれる。


(莉奈は私のことをきれいと言うけれど、莉奈のほうが大人で魅力的だと私は思う)


 莉奈が私の髪を綺麗に梳いて、ドライヤーでブローしてくれる。そして洋服ダンスから新しい洋服を出してきた。可愛い靴まで揃っている。


「心寧が告白に行くときは私の家から行くと思ってた。だから、心寧の勝負服を選んでおいたの。この服を着て、今から刀祢くんに会いに行きなさい」


 いきなり莉奈に告げられて、心寧は戸惑うが、今を逃せば告白できないような気がして、大きく頷いて、自分のスマホを取り出して、刀祢に震える手で連絡する。

 刀祢の電話番号は中学の時から知っていたけど、今まで連絡をしたことはなかった。


《心寧か? どうした? 連絡してくるなんて初めてだな》

《刀祢とゆっくり話がしたいの》

《明日だとマズイのか?》

《うん。今日、会ってほしい》

《どこに行けばいいんだ?》

《私が道場の近くの公園まで行く。だから公園で待ってて!》

《よくわからないが、公園で待ってればいいんだな。わかった》


 スマホを切ると、莉奈が私の背中を優しくさすってくれる。すごく緊張した。少しずつ緊張がほぐれて落ち着いてくる。


 出かける用意ができた心寧を見て、莉奈が優しく微笑む。心寧は莉奈の家を出て、刀祢が待っている公園へ向かった。