昼休憩が時間がやってきた。刀祢は授業中も机に伏せているが、薄くは意識がある。刀祢は熟睡する体制に入り、夢の中へと入っていく。
刀祢が熟睡していると肩をポンポンと叩かれた。顔を上げると、鼻がつきそうなほどの至近距離で心寧が刀祢の顔を見ていた。
思わず焦った刀祢は椅子をずらして、心寧から距離を取る。
「ビックリさせるなよ。昼休憩に何しに来たんだ?」
「ごめんなさい。刀祢に渡したいものがあって―――」
おかしい。いつもの心寧なら、昼休憩ぐらいは起きていなさいと言って、怒ってくるはずなのに、いつもと反応が違う。
「渡したいモノって何だ?」
「これ、ボストンバック!」
心寧は手に持っていた布鞄の中からボストンバックを取り出して、刀祢の机の上に置く。刀祢は不思議に思ったが、とりあえずボストンバックを手に取ってフタを開けると、きれいに並んだサンドイッチが入っている。
心寧は刀祢が昼食を食べない主義であることを知っている。渡す相手を誰かと間違えているのではないかと刀祢は考える。
「誰かと間違ってないか?」
「ううん。それは刀祢のために作ってきたの。たまには軽食を食べてもいいでしょう。お腹空いてない?」
お腹が空いていないかと聞かれれば、小腹は空いている。サンドイッチぐらいなら丁度良い感じだ。
「サンドイッチなら食べられるな」
「一緒に食べましょう!」
「ああ、いいぞ! 一緒に食べよう!」
いつも昼休憩の時は心寧は莉奈と一緒にお弁当を食べているはずだ。今まで心寧とは一緒に昼休憩を過ごしたことはない。
「こんなことすると、変な噂がたつぞ!」
「噂なんて放っておけば、忘れるわよ」
「今まで、変な噂を嫌っていたのは心寧だろう!」
「刀祢と噂になるのは、別に構わないわよ。すぐに消えるし」
何時もなら周りへの体裁を一番に気にする心寧の言葉とは思えない。一体どういう心境の変化があったのか?
「何かすごい悩み事でもかかえてんのか? 俺で良かったら相談にのるぞ」
「悩み事は解決したの」
「そうか! 良かったな!」
刀祢は心寧の言っている意味がわからなかった。悩みが解決したのなら、いつも通りに莉奈とお弁当を食べたらいいだろう。わざわざ刀祢を起こして一緒にサンドイッチを食べる必要はない。
「なぜサンドイッチを作ってくれたんだ?」
「気分が良くって、刀祢の分も作ったの、食べてね」
「ああ、ありがとう。ありがたくいただくよ」
悩み事が解決して、気分が良くなって刀祢の昼食を作ってくれたということらしい。しかし、なぜ、刀祢に昼食を作ってくれたのか。
「一生懸命に作ったんだから、早く一緒に食べようよ」
「―――おう、そうするか!」
刀祢はツナサンドを手に取って口の中へ入れる。味は美味しいが、玉ねぎが大きくて口の中でシャキシャキする。
「美味しい?」
「味は美味しいが、玉ねぎが少し大きいな。口の中でシャキシャキする」
「今度から玉ねぎは、もっと細かく切ってくることにするわ。今回はこれで我慢してね」
「これはこれ、美味ししいって言ってるじゃないか!」
「うん、嬉しい!」
それを聞いた心寧が俯いて、両手を前にして恥ずかしそうに顔を下に向けている。
いつもの心寧なら、せっかく作ってきたんだから、美味しいなら文句を言わずに食べなさいと言ってくるはずなのに、様子が違う。
「心寧、そこまで深く考えることじゃない。味はすごく美味しいんだし、そんなに気にすることはないぞ。次に細かくすればいだけだから。俺が言い過ぎた」
「大丈夫。刀祢が美味しいって言ってくれたから! 嬉しい!」
刀祢がそう言うと、心寧は美味しいと言ってくれたことが嬉しいらしく、刀祢を見て笑顔になる。今日の心寧はいつもと違う。心寧の扱いに注意が必要だ。
刀祢は卵サンド、ハムサンドとサンドイッチを食べていく。その度に、心寧にきちんと美味しいことを伝え、心寧が落ち込まないようにする。
こんなに神経を使いながら食べたサンドイッチは初めてだ。サンドイッチを全て食べ終わって、ホッと安堵する。心寧は布袋から水筒を出してコップに麦茶を注いで刀祢に渡す。
いつもの心寧なら机にコップを置くはずだ。手渡しなんてしてこない。心寧は刀祢のことを面倒に思っていたはずなのに、今日のサービスは過剰だ。
そう思いながら心寧の手からコップを取って麦茶を一気に飲み干す。
「ごちそうさま!心寧、美味かったぞ。また作ってきてくれ!」
「お粗末様でした。また作ってくるね」
刀祢に対して心寧がお粗末様などと言うとは思わなかった。心寧は刀祢の声を聞いたはずなのに、そのままスルーした。いつもなら口喧嘩が始まるはずなのに。
サンドイッチも食べ終わったはずなのに、心寧は椅子から動こうとしない。刀祢が困って周りを見回すと、莉奈と目が合った。莉奈は悪戯っ子のような輝く目で刀祢と心寧を見て手を振って微笑んでいる。
「これは莉奈の悪戯か?」
「何のこと言ってるの? 意味わからないよ」
「今回のサンドイッチは莉奈に手伝ってもらってないからね」
「ああ、心寧の手作りということだな。ありがとう」
心寧は嘘を言わない。人を騙すこともしない。では莉奈の悪戯ではない。では、どうして心寧は刀祢の傍から離れない。
心寧が優しい澄んだ声で刀祢に聞いてくる。その声を聞いて、刀祢は即決する。今日の心寧はいつもと違う。
「今日は道場に行くの? それとも剣道部に寄っていく?」
「今日は道場に真直ぐ行くわ」
「私も剣道部が終わったら道場に行くわね。門下生と一緒に教えてよ」
心寧は今まで剣術では刀祢より強いと思っていたはずだ。まさか心寧から剣術を教わりたいという言葉が出て来るとは思わなかった。
「心寧に教えることなんてねーよ。心寧のほうが俺より強いだろ」
「そんなことない。刀祢のほうが強いってわかったから。お願いね」
そう言って、心寧が手を合わせて頼む。心寧は道場に行っても今と同じ調子なのだろうか。早く元の心寧に戻ってくれと刀祢は思う。
「仕方ないな。組手以外なら一緒にやろう」
「刀祢、ありがとう!」
それを聞いた心寧は花が咲いたように微笑んだ。
刀祢が熟睡していると肩をポンポンと叩かれた。顔を上げると、鼻がつきそうなほどの至近距離で心寧が刀祢の顔を見ていた。
思わず焦った刀祢は椅子をずらして、心寧から距離を取る。
「ビックリさせるなよ。昼休憩に何しに来たんだ?」
「ごめんなさい。刀祢に渡したいものがあって―――」
おかしい。いつもの心寧なら、昼休憩ぐらいは起きていなさいと言って、怒ってくるはずなのに、いつもと反応が違う。
「渡したいモノって何だ?」
「これ、ボストンバック!」
心寧は手に持っていた布鞄の中からボストンバックを取り出して、刀祢の机の上に置く。刀祢は不思議に思ったが、とりあえずボストンバックを手に取ってフタを開けると、きれいに並んだサンドイッチが入っている。
心寧は刀祢が昼食を食べない主義であることを知っている。渡す相手を誰かと間違えているのではないかと刀祢は考える。
「誰かと間違ってないか?」
「ううん。それは刀祢のために作ってきたの。たまには軽食を食べてもいいでしょう。お腹空いてない?」
お腹が空いていないかと聞かれれば、小腹は空いている。サンドイッチぐらいなら丁度良い感じだ。
「サンドイッチなら食べられるな」
「一緒に食べましょう!」
「ああ、いいぞ! 一緒に食べよう!」
いつも昼休憩の時は心寧は莉奈と一緒にお弁当を食べているはずだ。今まで心寧とは一緒に昼休憩を過ごしたことはない。
「こんなことすると、変な噂がたつぞ!」
「噂なんて放っておけば、忘れるわよ」
「今まで、変な噂を嫌っていたのは心寧だろう!」
「刀祢と噂になるのは、別に構わないわよ。すぐに消えるし」
何時もなら周りへの体裁を一番に気にする心寧の言葉とは思えない。一体どういう心境の変化があったのか?
「何かすごい悩み事でもかかえてんのか? 俺で良かったら相談にのるぞ」
「悩み事は解決したの」
「そうか! 良かったな!」
刀祢は心寧の言っている意味がわからなかった。悩みが解決したのなら、いつも通りに莉奈とお弁当を食べたらいいだろう。わざわざ刀祢を起こして一緒にサンドイッチを食べる必要はない。
「なぜサンドイッチを作ってくれたんだ?」
「気分が良くって、刀祢の分も作ったの、食べてね」
「ああ、ありがとう。ありがたくいただくよ」
悩み事が解決して、気分が良くなって刀祢の昼食を作ってくれたということらしい。しかし、なぜ、刀祢に昼食を作ってくれたのか。
「一生懸命に作ったんだから、早く一緒に食べようよ」
「―――おう、そうするか!」
刀祢はツナサンドを手に取って口の中へ入れる。味は美味しいが、玉ねぎが大きくて口の中でシャキシャキする。
「美味しい?」
「味は美味しいが、玉ねぎが少し大きいな。口の中でシャキシャキする」
「今度から玉ねぎは、もっと細かく切ってくることにするわ。今回はこれで我慢してね」
「これはこれ、美味ししいって言ってるじゃないか!」
「うん、嬉しい!」
それを聞いた心寧が俯いて、両手を前にして恥ずかしそうに顔を下に向けている。
いつもの心寧なら、せっかく作ってきたんだから、美味しいなら文句を言わずに食べなさいと言ってくるはずなのに、様子が違う。
「心寧、そこまで深く考えることじゃない。味はすごく美味しいんだし、そんなに気にすることはないぞ。次に細かくすればいだけだから。俺が言い過ぎた」
「大丈夫。刀祢が美味しいって言ってくれたから! 嬉しい!」
刀祢がそう言うと、心寧は美味しいと言ってくれたことが嬉しいらしく、刀祢を見て笑顔になる。今日の心寧はいつもと違う。心寧の扱いに注意が必要だ。
刀祢は卵サンド、ハムサンドとサンドイッチを食べていく。その度に、心寧にきちんと美味しいことを伝え、心寧が落ち込まないようにする。
こんなに神経を使いながら食べたサンドイッチは初めてだ。サンドイッチを全て食べ終わって、ホッと安堵する。心寧は布袋から水筒を出してコップに麦茶を注いで刀祢に渡す。
いつもの心寧なら机にコップを置くはずだ。手渡しなんてしてこない。心寧は刀祢のことを面倒に思っていたはずなのに、今日のサービスは過剰だ。
そう思いながら心寧の手からコップを取って麦茶を一気に飲み干す。
「ごちそうさま!心寧、美味かったぞ。また作ってきてくれ!」
「お粗末様でした。また作ってくるね」
刀祢に対して心寧がお粗末様などと言うとは思わなかった。心寧は刀祢の声を聞いたはずなのに、そのままスルーした。いつもなら口喧嘩が始まるはずなのに。
サンドイッチも食べ終わったはずなのに、心寧は椅子から動こうとしない。刀祢が困って周りを見回すと、莉奈と目が合った。莉奈は悪戯っ子のような輝く目で刀祢と心寧を見て手を振って微笑んでいる。
「これは莉奈の悪戯か?」
「何のこと言ってるの? 意味わからないよ」
「今回のサンドイッチは莉奈に手伝ってもらってないからね」
「ああ、心寧の手作りということだな。ありがとう」
心寧は嘘を言わない。人を騙すこともしない。では莉奈の悪戯ではない。では、どうして心寧は刀祢の傍から離れない。
心寧が優しい澄んだ声で刀祢に聞いてくる。その声を聞いて、刀祢は即決する。今日の心寧はいつもと違う。
「今日は道場に行くの? それとも剣道部に寄っていく?」
「今日は道場に真直ぐ行くわ」
「私も剣道部が終わったら道場に行くわね。門下生と一緒に教えてよ」
心寧は今まで剣術では刀祢より強いと思っていたはずだ。まさか心寧から剣術を教わりたいという言葉が出て来るとは思わなかった。
「心寧に教えることなんてねーよ。心寧のほうが俺より強いだろ」
「そんなことない。刀祢のほうが強いってわかったから。お願いね」
そう言って、心寧が手を合わせて頼む。心寧は道場に行っても今と同じ調子なのだろうか。早く元の心寧に戻ってくれと刀祢は思う。
「仕方ないな。組手以外なら一緒にやろう」
「刀祢、ありがとう!」
それを聞いた心寧は花が咲いたように微笑んだ。