放課後になって、刀祢は直哉と心寧と共に武道場へ向かう。更衣室で道着の上に防具を身に着け、今日は完全に剣道着の恰好だ。
「いつも思うけど、結構、動きにくいな」
「それは慣れだよ刀祢。俺はもう慣れた」
直哉が体を動かしながら、身体の動きをチェックする。刀祢も感じたことだが、剣道着をきると、窮屈(キュウクツ)な感覚に身体が覆われる。
武道場で五月丘高校剣道部の男子達は練習を始める。ゆっくりと竹刀を振って、竹刀のブレを確かめて修正していく。それを何度も繰り返して、竹刀をブレなく真直ぐに振り下ろす感覚を体に馴染ませる。
竹刀を振りながらすり足の脚捌きで体を前後させ、正中線のブレを確かめる正中線を動かさないようにして体重移動させる。
「五月丘高校の奴等、踊りを踊ってるぞ」
「剣道は踊りと違うぞ。何を勘違いしてるんだ」
それを見た、県立第七高校の剣道部の男子達は口々に笑っている。
準備運動が終わり、組手の練習をする。刀祢の相手は五十嵐で、直哉の相手は新浜だ。 五十嵐は練習通りに腕を小さくたたんで、素早く剣を繰り出す。刀祢は五十嵐の剣を受け流していく。
直哉は鋭い剣を新浜に向けて放つ。新浜は必死に防御して、直哉の剣を受け流す。受け流し方がかなり様になっている。
(五十嵐と新浜は剣の受け流しはできそうだな。これで勝負はわからない)
県立第七高校は県内3位の強豪だけあって、練習風景も苛烈だ。上段からの打ち込みの練習。体をぶつけ合う激しい組手。激しい訓練をしているのに部員達は平然な顔をしている。相当、スタミナと体力に自信があるようだ。
今日は県立第七高校の監督が主審を務め、コーチ2名が副審を務める。1試合の制限時間は4分。相手から有効打を1本先取したほうが勝利者となる変則ルールだ。
試合形式は対勝負。五月丘高校が勝利するためには3回勝つ必要がある。
五月丘高校の先鋒は南、次鋒は新浜、中堅は五十嵐、副将は直哉、大将は刀祢の順で決まった。
県立第七高校の大将は倉木が務める。
「刀祢、剣道のルールを覚えているだろうな」
「一応は覚えてるさ。小学生の時は剣道もしていだんだからな」
「五十嵐、刀祢にもう一度、細かい剣道のルールを説明してやってくれ」
直哉は時々、剣道部へ稽古をつけにきているので、剣道部の細かいルールまで知っているが、あまり顔をださない刀祢は細かいルールを忘れてかけている。
剣道では1本を取った後に、打ち切ったことを姿勢で見せる必要がある。1本を取った後も相手の攻撃が続くので、すぐに竹刀を構え直して防御の姿勢に入る必要がある。
判定がでるまで、次の1本を打てる体制を取る必要がある。そこまでしないと1本、有効打の判定にならない。
五十嵐に細かにルールを教えてもらうが、上手く頭に入ってこない。基本的なルールだけ覚えて、後は試合を観戦して選手達の動きを覚えることに決める。刀祢はいつもと同じ平常運転だ。
試合が開始され、県立第七高校は異例な出来事に出会うことになる。先鋒戦の南が延長戦の末まで粘ったことだった。南は負けてしまったが良く健闘した。
次鋒戦でも新浜が延長戦まで粘り、相手の有効打をことごとく防ぐ。新浜は竹刀を受け流すことが上手い。相手選手は苦労したが、最後に有効打を取られて負けた。
中堅の五十嵐は、激しい攻防を繰り返す。そして相手の面をとらえて勝利した。五月丘高校の初勝利である。
「やったぞ―――!」
五十嵐が興奮して男子部員達の前でガッツポーズを取る。
直哉は試合開始の瞬間に相手の面を取りにいく。相手も体ごとぶつかって鍔迫り合いになるが、離れた一瞬をついて相手の面を捉えて1本勝ち。これで勝負は2対2となり、大将戦に持ち込まれた。
「俺は仕事を果たしたぞ。後は刀祢が決めるだけだ」
「ああ、後のことは任せろ! 決めてくる!」
大将の倉木は試合開始と同時に身体ごと飛び込んできて刀祢の面を狙う。刀祢は軽く頭を振って面を逸らす。そして鍔迫り合いにならないように、一歩後退する。
その離れ際を倉木が狙う。また体ごとぶつかるように面を狙ってくる。これが倉木の戦法らしい。
刀祢は倉木と体を離してから、素早い脚捌きで円を描くように右に動き、中段の竹刀の先で倉木の竹刀を軽く叩いて挑発する。倉木はやはり体当たりの面攻撃を繰り出してくる。
刀祢は華麗な脚捌きで体当たりを躱し、がら空きになっている胴へ横薙ぎの一閃を入れる。主審が有効打の赤旗を上げる。追撃されないようにすぐに構え直して右へと円を描く。主審が試合終了の旗を揚げる。
五月丘高校は刀祢、直哉、五十嵐が勝ち、練習試合は五月丘高校の勝利となった。練習試合とはいえ、五月丘高校剣道部男子部の初の勝利だ。初の快挙だ。
「「「「ヤッター! 県立第七高校に勝ったぞ!」」」」
五十嵐達男子部員達は抱き合って喜んでいる。刀祢と直哉は笑顔で拳と拳を合せる。
一方、負けた県立第七高校の雰囲気は暗い。県内3位の高校が弱小高校に負けたのだ、ショックも多きい。後から監督やコーチ陣から絞られることだろう。
刀祢は県立第七高校の監督に挨拶をし、倉木に話しかける。
「お前は負けた。約束は守ってもらう。2度と心寧の周りに現れるな!」
「ああ、わかった。約束は守る!」
倉木は悔しそうに、刀祢を睨んでいたが、刀祢から離れていった。
練習試合が終わり、県立第七高校の生徒が帰って行った、武道場の中で、男子部の初勝利を聞いた女子部員は、男子部に拍手して勝利を喜んでくれた。
刀祢と直哉の近くへ心寧が近寄ってくる。そして2人に深々と頭を下げる。
「2人のおかげで男子部が勝利することができた。本当にありがとう!」
「ああ、俺達も楽しかった!」
直哉はそう言って、爽やかに笑って、髪を掻く。
「もう倉木は心寧には近づかない。俺と約束したからな!」
刀祢がボソリと呟く。
「また刀祢に助けられたね。ありがとう」
心寧は照れて顔を赤くして微笑んでいる。
「心寧は大事な友達だからな!」
刀祢はそれだけ言うと、照れて顔を横を向いた。
心寧はそっと手を伸ばして、刀祢の手を優しく握った。
「いつも思うけど、結構、動きにくいな」
「それは慣れだよ刀祢。俺はもう慣れた」
直哉が体を動かしながら、身体の動きをチェックする。刀祢も感じたことだが、剣道着をきると、窮屈(キュウクツ)な感覚に身体が覆われる。
武道場で五月丘高校剣道部の男子達は練習を始める。ゆっくりと竹刀を振って、竹刀のブレを確かめて修正していく。それを何度も繰り返して、竹刀をブレなく真直ぐに振り下ろす感覚を体に馴染ませる。
竹刀を振りながらすり足の脚捌きで体を前後させ、正中線のブレを確かめる正中線を動かさないようにして体重移動させる。
「五月丘高校の奴等、踊りを踊ってるぞ」
「剣道は踊りと違うぞ。何を勘違いしてるんだ」
それを見た、県立第七高校の剣道部の男子達は口々に笑っている。
準備運動が終わり、組手の練習をする。刀祢の相手は五十嵐で、直哉の相手は新浜だ。 五十嵐は練習通りに腕を小さくたたんで、素早く剣を繰り出す。刀祢は五十嵐の剣を受け流していく。
直哉は鋭い剣を新浜に向けて放つ。新浜は必死に防御して、直哉の剣を受け流す。受け流し方がかなり様になっている。
(五十嵐と新浜は剣の受け流しはできそうだな。これで勝負はわからない)
県立第七高校は県内3位の強豪だけあって、練習風景も苛烈だ。上段からの打ち込みの練習。体をぶつけ合う激しい組手。激しい訓練をしているのに部員達は平然な顔をしている。相当、スタミナと体力に自信があるようだ。
今日は県立第七高校の監督が主審を務め、コーチ2名が副審を務める。1試合の制限時間は4分。相手から有効打を1本先取したほうが勝利者となる変則ルールだ。
試合形式は対勝負。五月丘高校が勝利するためには3回勝つ必要がある。
五月丘高校の先鋒は南、次鋒は新浜、中堅は五十嵐、副将は直哉、大将は刀祢の順で決まった。
県立第七高校の大将は倉木が務める。
「刀祢、剣道のルールを覚えているだろうな」
「一応は覚えてるさ。小学生の時は剣道もしていだんだからな」
「五十嵐、刀祢にもう一度、細かい剣道のルールを説明してやってくれ」
直哉は時々、剣道部へ稽古をつけにきているので、剣道部の細かいルールまで知っているが、あまり顔をださない刀祢は細かいルールを忘れてかけている。
剣道では1本を取った後に、打ち切ったことを姿勢で見せる必要がある。1本を取った後も相手の攻撃が続くので、すぐに竹刀を構え直して防御の姿勢に入る必要がある。
判定がでるまで、次の1本を打てる体制を取る必要がある。そこまでしないと1本、有効打の判定にならない。
五十嵐に細かにルールを教えてもらうが、上手く頭に入ってこない。基本的なルールだけ覚えて、後は試合を観戦して選手達の動きを覚えることに決める。刀祢はいつもと同じ平常運転だ。
試合が開始され、県立第七高校は異例な出来事に出会うことになる。先鋒戦の南が延長戦の末まで粘ったことだった。南は負けてしまったが良く健闘した。
次鋒戦でも新浜が延長戦まで粘り、相手の有効打をことごとく防ぐ。新浜は竹刀を受け流すことが上手い。相手選手は苦労したが、最後に有効打を取られて負けた。
中堅の五十嵐は、激しい攻防を繰り返す。そして相手の面をとらえて勝利した。五月丘高校の初勝利である。
「やったぞ―――!」
五十嵐が興奮して男子部員達の前でガッツポーズを取る。
直哉は試合開始の瞬間に相手の面を取りにいく。相手も体ごとぶつかって鍔迫り合いになるが、離れた一瞬をついて相手の面を捉えて1本勝ち。これで勝負は2対2となり、大将戦に持ち込まれた。
「俺は仕事を果たしたぞ。後は刀祢が決めるだけだ」
「ああ、後のことは任せろ! 決めてくる!」
大将の倉木は試合開始と同時に身体ごと飛び込んできて刀祢の面を狙う。刀祢は軽く頭を振って面を逸らす。そして鍔迫り合いにならないように、一歩後退する。
その離れ際を倉木が狙う。また体ごとぶつかるように面を狙ってくる。これが倉木の戦法らしい。
刀祢は倉木と体を離してから、素早い脚捌きで円を描くように右に動き、中段の竹刀の先で倉木の竹刀を軽く叩いて挑発する。倉木はやはり体当たりの面攻撃を繰り出してくる。
刀祢は華麗な脚捌きで体当たりを躱し、がら空きになっている胴へ横薙ぎの一閃を入れる。主審が有効打の赤旗を上げる。追撃されないようにすぐに構え直して右へと円を描く。主審が試合終了の旗を揚げる。
五月丘高校は刀祢、直哉、五十嵐が勝ち、練習試合は五月丘高校の勝利となった。練習試合とはいえ、五月丘高校剣道部男子部の初の勝利だ。初の快挙だ。
「「「「ヤッター! 県立第七高校に勝ったぞ!」」」」
五十嵐達男子部員達は抱き合って喜んでいる。刀祢と直哉は笑顔で拳と拳を合せる。
一方、負けた県立第七高校の雰囲気は暗い。県内3位の高校が弱小高校に負けたのだ、ショックも多きい。後から監督やコーチ陣から絞られることだろう。
刀祢は県立第七高校の監督に挨拶をし、倉木に話しかける。
「お前は負けた。約束は守ってもらう。2度と心寧の周りに現れるな!」
「ああ、わかった。約束は守る!」
倉木は悔しそうに、刀祢を睨んでいたが、刀祢から離れていった。
練習試合が終わり、県立第七高校の生徒が帰って行った、武道場の中で、男子部の初勝利を聞いた女子部員は、男子部に拍手して勝利を喜んでくれた。
刀祢と直哉の近くへ心寧が近寄ってくる。そして2人に深々と頭を下げる。
「2人のおかげで男子部が勝利することができた。本当にありがとう!」
「ああ、俺達も楽しかった!」
直哉はそう言って、爽やかに笑って、髪を掻く。
「もう倉木は心寧には近づかない。俺と約束したからな!」
刀祢がボソリと呟く。
「また刀祢に助けられたね。ありがとう」
心寧は照れて顔を赤くして微笑んでいる。
「心寧は大事な友達だからな!」
刀祢はそれだけ言うと、照れて顔を横を向いた。
心寧はそっと手を伸ばして、刀祢の手を優しく握った。