家に帰り道着に着替えて、道場の中へ入る。道場の中は夜の部の門下生達が既に練習を始めていて活気づいている。
館長の父大輝と師範代の長男公輝の座っている元へ行って軽く会釈する。
「遅かったな。刀祢に門下生3人を預ける。自分の好きなように育ててみろ」
父の大輝はそれだけいうと、刀祢から視線を外して、道場全体を見ている。
「これは門下生達の訓練でもある、刀祢が人を教える訓練でもある。刀祢が門下生をどのように導くか見極めさせてもらう。お前の担当はあの3人だ」
長男の公輝が指差した方向を向くと、道着を着て床に座っている女子2人男子1名がいた。見るからにやる気がないのが伝わってくる。
(落第生を押し付けられたのか? やる気のない者達を使って俺を見極めようというのか)
刀祢はもう一度、会釈をして、刀祢が担当する3人も元へ歩いていく。刀祢が近づくと、3人は呆然と刀祢の顔を見ている。
「剣斗師範代代理が怪我をされて、門下生を教えられなくなった、その間、剣斗師範代代理の弟の俺、刀祢が君達を教えることになった。3人の名前ぐらいは自己紹介しれくれないか?」
茶髪のロングストレートの女性が立ち上がって礼をする。
「私は長瀬天音(ナガセアマネ)と言います。大学1年生です。この道場の門下生になってから半年になります。よろしくお願いいたします」
次に少し幼い感じの女子が立ち上がる。
「私は鈴木由香(スズキユカ)です。五月丘高校の1年生です。新垣心寧(アラガキココネ)先輩に憧れて門下生になりました。」
最後に刀祢と同じぐらいの長身でマッチョな男性が立ち上がる。
「俺は河野秀樹(コウノヒデキ)大学2年生だ。よろしく」
「では俺のことは刀祢と呼んでくれ。俺も下の名前を呼ばせてもらう。半年間、剣斗師範代代理からどんな練習法を教えてもらったんだ?」
「師範代代理からは半年間は見学して、門下生達の動きを見て慣れろと言われました。基礎を一応教わっただけです」
代表して天音が応える。ハキハキとした物言いでシッカリ者のようだ。
(剣斗の奴、素質がないと思って、中途半端な教え方をしていたな)
剣斗は自分が使えないと思った者には教えない、またはいい加減な教え方をする。
そのことを父の大輝も長男の公輝も何も言わないで黙認している。
小さい頃からそうだった。長男の公輝は父大輝に従順で、父の大輝の真似ばかりする。父の大輝は寡黙なので、長男の公輝も何も言わない。
そして、何にでも出張ってくる剣斗がその場を仕切る。そのことについても2人は何も言わずに黙認する。刀祢はそんな父と長男のことが嫌いだった。
次男剣斗とは性格が全く合わなかったが、父の大輝と長男の公輝とも反りが上手く合わず、刀祢から一方的に無視していた。
父の大輝から刀祢は優しい言葉をかけてもらったこともなく、剣技で認めてもらったこともなかったので、悔しい思いをしたこともある。
天音、由香、秀樹の3人はまだ稽古の下準備もできていない状態だ。たぶん何も教わっていないのだろう。
「今日は稽古に入る前の下準備を教える。剣を持って中段に構えて、木刀の先を揺らさず、1点に集中させること。10分1セットで3回繰り返そう」
「「「はい!」」」
それを聞いた3人はあまりにも簡単なことなので、笑顔で木刀を中段に構えて、刀祢の言ったように集中を始める。
しばらくすると3人に剣先が微妙に揺れる。そして木刀を握っている手や腕に余分な力が入っているようで、体から汗を噴き出させている。一瞬でも気を抜けば、1点を目標に木刀を制止させることができない。
3セットが終わった所で秀樹が自分の腕の筋肉をほぐしている。
「簡単だと思ったけど、案外と体力と精神力を使うな。ただ中段で立っているだけなのにこれだけ辛いとは思わなかった」
天音と由香も同じ感想のようで深く頷いている。
「集中力が散漫だと時間が長く感じる。そして木刀の重さも段々と重く感じてくる。まだ集中力が足りていない証拠だ」
刀祢は次の訓練法を教える。木刀を中段に構えて、真直ぐ、ゆっくりと上段の構えに移動させる。そして木刀を振りぬくように、ゆっくりと下に降ろしてくる。全てが止まるようなゆっくりとした動きだ。
「竹刀を止まらない程度にゆっくりと振り下ろしてくるのがコツだ。決して急ごうとするなよ。ゆっくりとだ」
この時に木刀の剣先が揺れてはいけない。常に木刀を軌道をブレさせず、自分の筋力で木刀を止めることができることが重要だと刀祢は3人に説明する。天音、由香、秀樹の3人は深く頷くと練習を始めた。これも1セット3回だ。
「剣先を揺らすな。木刀の振りも真直ぐに振り下ろす。集中して」
3人はどうしても中段から上段へ木刀を上げる時に木刀の剣先が揺れる。そして木刀をゆっくりと振り下ろす時に軌道が歪み、真直ぐ振り下ろすことができない。
「できるだけ、木刀全体を感じて把握すること。そして体の力を調整しよう。木刀を振り下ろす時は、できるだけゆっくりと真直ぐに降ろすことに集中する」
3人は時間をかけて3セットを終了させる。その時には3人共汗を流し、床に座り込む。極度の精神集中で疲れてしまったらしい。
「今日教えたことは、稽古前の下準備だ。基本の2つだけを教えた。基本は大事だ。3人は少し出遅れている。しかし気にする必要はない。俺が出遅れた分を取り戻す方法を教える。優しく教えるつもりだが、よろしく」
秀樹が床に座りながら疲れた声を上げる。
「刀祢を信じるよ。それにしても、これが稽古の下準備とはキツクないか。もう少し、楽な方法はないのか?」
「一番、楽で近道な方法を教えている。3人の稽古については館長から許可を受けている。俺に従ってもらうしかない。諦めてくれ」
館長の名を言われて、秀樹は諦め、天音と由香は頷いている。
「先ほどの基本ができるようになれば、こういう応用もできる。少し見ていてくれ!」
刀祢は木刀を中断に構えて、ゆっくりと木刀を操り、華麗に舞いを踊るように剣を操り、華麗な脚捌きを見せる。
その刀祢の姿を見て、由香、秀樹は口を開けて、見惚れている。なぜか、天音だけは頬をピンク色に染めていた。
館長の父大輝と師範代の長男公輝の座っている元へ行って軽く会釈する。
「遅かったな。刀祢に門下生3人を預ける。自分の好きなように育ててみろ」
父の大輝はそれだけいうと、刀祢から視線を外して、道場全体を見ている。
「これは門下生達の訓練でもある、刀祢が人を教える訓練でもある。刀祢が門下生をどのように導くか見極めさせてもらう。お前の担当はあの3人だ」
長男の公輝が指差した方向を向くと、道着を着て床に座っている女子2人男子1名がいた。見るからにやる気がないのが伝わってくる。
(落第生を押し付けられたのか? やる気のない者達を使って俺を見極めようというのか)
刀祢はもう一度、会釈をして、刀祢が担当する3人も元へ歩いていく。刀祢が近づくと、3人は呆然と刀祢の顔を見ている。
「剣斗師範代代理が怪我をされて、門下生を教えられなくなった、その間、剣斗師範代代理の弟の俺、刀祢が君達を教えることになった。3人の名前ぐらいは自己紹介しれくれないか?」
茶髪のロングストレートの女性が立ち上がって礼をする。
「私は長瀬天音(ナガセアマネ)と言います。大学1年生です。この道場の門下生になってから半年になります。よろしくお願いいたします」
次に少し幼い感じの女子が立ち上がる。
「私は鈴木由香(スズキユカ)です。五月丘高校の1年生です。新垣心寧(アラガキココネ)先輩に憧れて門下生になりました。」
最後に刀祢と同じぐらいの長身でマッチョな男性が立ち上がる。
「俺は河野秀樹(コウノヒデキ)大学2年生だ。よろしく」
「では俺のことは刀祢と呼んでくれ。俺も下の名前を呼ばせてもらう。半年間、剣斗師範代代理からどんな練習法を教えてもらったんだ?」
「師範代代理からは半年間は見学して、門下生達の動きを見て慣れろと言われました。基礎を一応教わっただけです」
代表して天音が応える。ハキハキとした物言いでシッカリ者のようだ。
(剣斗の奴、素質がないと思って、中途半端な教え方をしていたな)
剣斗は自分が使えないと思った者には教えない、またはいい加減な教え方をする。
そのことを父の大輝も長男の公輝も何も言わないで黙認している。
小さい頃からそうだった。長男の公輝は父大輝に従順で、父の大輝の真似ばかりする。父の大輝は寡黙なので、長男の公輝も何も言わない。
そして、何にでも出張ってくる剣斗がその場を仕切る。そのことについても2人は何も言わずに黙認する。刀祢はそんな父と長男のことが嫌いだった。
次男剣斗とは性格が全く合わなかったが、父の大輝と長男の公輝とも反りが上手く合わず、刀祢から一方的に無視していた。
父の大輝から刀祢は優しい言葉をかけてもらったこともなく、剣技で認めてもらったこともなかったので、悔しい思いをしたこともある。
天音、由香、秀樹の3人はまだ稽古の下準備もできていない状態だ。たぶん何も教わっていないのだろう。
「今日は稽古に入る前の下準備を教える。剣を持って中段に構えて、木刀の先を揺らさず、1点に集中させること。10分1セットで3回繰り返そう」
「「「はい!」」」
それを聞いた3人はあまりにも簡単なことなので、笑顔で木刀を中段に構えて、刀祢の言ったように集中を始める。
しばらくすると3人に剣先が微妙に揺れる。そして木刀を握っている手や腕に余分な力が入っているようで、体から汗を噴き出させている。一瞬でも気を抜けば、1点を目標に木刀を制止させることができない。
3セットが終わった所で秀樹が自分の腕の筋肉をほぐしている。
「簡単だと思ったけど、案外と体力と精神力を使うな。ただ中段で立っているだけなのにこれだけ辛いとは思わなかった」
天音と由香も同じ感想のようで深く頷いている。
「集中力が散漫だと時間が長く感じる。そして木刀の重さも段々と重く感じてくる。まだ集中力が足りていない証拠だ」
刀祢は次の訓練法を教える。木刀を中段に構えて、真直ぐ、ゆっくりと上段の構えに移動させる。そして木刀を振りぬくように、ゆっくりと下に降ろしてくる。全てが止まるようなゆっくりとした動きだ。
「竹刀を止まらない程度にゆっくりと振り下ろしてくるのがコツだ。決して急ごうとするなよ。ゆっくりとだ」
この時に木刀の剣先が揺れてはいけない。常に木刀を軌道をブレさせず、自分の筋力で木刀を止めることができることが重要だと刀祢は3人に説明する。天音、由香、秀樹の3人は深く頷くと練習を始めた。これも1セット3回だ。
「剣先を揺らすな。木刀の振りも真直ぐに振り下ろす。集中して」
3人はどうしても中段から上段へ木刀を上げる時に木刀の剣先が揺れる。そして木刀をゆっくりと振り下ろす時に軌道が歪み、真直ぐ振り下ろすことができない。
「できるだけ、木刀全体を感じて把握すること。そして体の力を調整しよう。木刀を振り下ろす時は、できるだけゆっくりと真直ぐに降ろすことに集中する」
3人は時間をかけて3セットを終了させる。その時には3人共汗を流し、床に座り込む。極度の精神集中で疲れてしまったらしい。
「今日教えたことは、稽古前の下準備だ。基本の2つだけを教えた。基本は大事だ。3人は少し出遅れている。しかし気にする必要はない。俺が出遅れた分を取り戻す方法を教える。優しく教えるつもりだが、よろしく」
秀樹が床に座りながら疲れた声を上げる。
「刀祢を信じるよ。それにしても、これが稽古の下準備とはキツクないか。もう少し、楽な方法はないのか?」
「一番、楽で近道な方法を教えている。3人の稽古については館長から許可を受けている。俺に従ってもらうしかない。諦めてくれ」
館長の名を言われて、秀樹は諦め、天音と由香は頷いている。
「先ほどの基本ができるようになれば、こういう応用もできる。少し見ていてくれ!」
刀祢は木刀を中断に構えて、ゆっくりと木刀を操り、華麗に舞いを踊るように剣を操り、華麗な脚捌きを見せる。
その刀祢の姿を見て、由香、秀樹は口を開けて、見惚れている。なぜか、天音だけは頬をピンク色に染めていた。