「嫌じゃないけど……」

 そう言うと、侑希はとっても嬉しそうに笑った。
 ぎゅっと握られた手が温かい。触れ合った部分から熱が広がり、胸までじんわりと温かくなるような不思議な感覚。

「もうすぐ修学旅行だな」
「うん」

 高校二年生の秋には、修学旅行がある。三泊四日で京都と奈良に行くのだ。
自由班が一緒だといいな。そんな気持ちはすぐに侑希に伝わったようだ。

「一緒に行動できるといいな。班が違くても、一緒に抜けようぜ」

 侑希がこちらを見つめてニヤリと笑う。

「うん」

 いつもは真面目キャラの私だけれど、そんなことも侑希と一緒ならいいかな、と思ってしまう。

「雫、部活はいつまで?」

 侑希がこちらを見つめて聞いてくる。さくら坂高校では高校三年生は完全に受験勉強に集中するため、部活は二年生で引退するのだ。

「さくら祭までだよ。侑くんは?」
「俺は今度の県大会で引退。いいところまで行けますようにって、さくら様にお願いしようかな。中三のときは腕の怪我で最後の試合に出られなかったから、今回は頑張る」
「そっか。私、応援に行くね」
「うん」

 満面に笑みを浮かべる侑希を見て、なんだか可愛いなぁなんて思った。
 
「私はもっとしっかり努力しろって、さくらさまに活を入れられる気がするなあ。このままだと、希望の大学にいけない。頑張らないと」
「雫、秋から塾にも入るんだろ? きっと伸びるよ。それに俺もわからないところがあったら教えるよ。一緒に頑張ろう」
「うん」

 さくら様は、縁とはそれを摑むための努力をした人が繋ぐことができるのだと言った。だから、悔いのないように頑張りたい。

 この一年間の不思議な体験が走馬灯のように脳裏を過る。
 
 願わくは、再来年の春は地元の国立大学で桜を眺めたい。そのときは、隣にきみがいたらいいな、なんて。

 それを教えるのはちょっぴり恥ずかしいから、そのときまで秘密にしておくね。

「さーくーらーさーまー」

 赤い鳥居を抜けて、小さな祠に呼びかける。
 ふわりと空気が揺れて、笑顔を浮かべた綺麗な少女が現れた。