愛理沙と話をした次の日の放課後、授業が終わって勉強道具を鞄に入れていると、隣の席から聖香が体を寄せてきた。


「―――あのさ……今日の放課後なんだけど……涼ちゃん……時間空いてないかな?」

「別に急いで家に帰る用事というのはないが……」

「だったら、放課後に私と……」


 聖香が顔を真っ赤にして、そのまま俯いてしまう。とても恥ずかしそうだ。


「ちょっと待ってよ。聖香だけ涼とどこへ行くつもりなの? それはダメだよ!」


 いきなり近くから声が聞こえてきたので、振り返ると涼の机の近くに、楓乃が腰に手を当てて胸を張って立っていた。


「今日こそは涼には、私の家に来てもらうから、私の両親が涼の後見人をしてるんだから。涼は私の両親に自分の生活を報告する義務があるの」

「そう言って、楓乃ちゃん、涼ちゃんを独り占めするつもりでしょう」

「そ……そんなことしないわよ」


 次は楓乃が顔を赤らめて顔を背ける。


「涼はいつも女子に囲まれて良いな」


 少し遠くから湊が涼の元へ歩いてくる。顔にはニヤニヤ笑いが張り付いている。


「いつも女子にモテてるのは湊のほうじゃないか」


 湊は誰にでも公平に優しい、そして理知的で紳士なため、女子からの人気が高い。

 茶髪のショートヘアーが似合っている。

 奥二重のまぶたに、理知的な瞳が印象的だ。きれいな眉、整った眉、整った唇の色白イケメンで、身長172cm、成績優秀でスポーツ万能のモテ男だ。


「あ……湊ちゃん、私はね……その……涼ちゃんと放課後に遊びに行きたかっただけなの。湊ちゃんからも誘ってくれないかな? 涼ちゃんも私と2人だけだと、たぶん逃げちゃうと思うから……お願い!」

「あ、聖香……ずるい! 涼が放課後に遊びにいくなら、私も一緒にいくから。私を忘れないで」

「放課後に遊びにいく相談か? それなら俺も仲間に入れてくれよ」


 涼よりも大柄な筋肉マッチョがにこにこと笑って涼の席に近付いてくる。

 この陽気な筋肉マッチョは入江陽太(イリエヨウタ)。日々、ジムで筋肉を鍛えることが趣味な脳筋男。

 入江と涼は高校2年生の時からの付き合いだが、性格に裏表がなく、常に陽気で付き合いやすい男子だ。

 身長は長身で大きく180cmある。
茶髪のふわゆるショート、くっきり二重で陽気で活発な大きな瞳が特徴的だ。高い鼻筋に健康的な唇。常に元気もりもりの筋肉マッチョは褐色に日焼けしている。

 陽太の家がスポーツジムを経営しており、陽太は常日頃からスポーツジムのお客様のサポートをしている。そのことから、陽太自身も常日頃から筋肉を鍛えておく必要があるという。


「そうだな、男子3人に女子が2人集まったか。それじゃあカラオケでも行こうか。女子がもう1名増えると丁度3名づつになるんだけどな。誰か誘わないか?」


 陽気な陽太がそんなことを提案する。

 教室の中を見回すと、窓際で机の上を片付けている愛理沙を見つけた。涼はほんの一瞬だけ愛理沙を見て視線を止める。


「やっぱり、涼ちゃんは少しだけ愛理沙ちゃんに興味があるんだね。私、愛理沙ちゃんの友達だから、今から愛理沙ちゃんを誘ってくる……でも愛理沙ちゃん、大人数が苦手だから、断られたらゴメンね」

「あ―――聖香、無理に誘わなくてもいいから。苦手なものに誘うのは良くないよ」

「私も愛理沙ちゃんには沢山の皆と友達になってもらいたいの……ちょっと行ってくる」


 聖香は席から立ち上がると、小走りに愛理沙の元へ行くと、身振り手振りで愛理沙に今の状況を伝えているようだ。一瞬だけ愛理沙が振り向いて涼と目が合ったような気がした。

 聖香が嬉しそうな笑顔で席に戻ってくる。


「愛理沙ちゃん、歌は歌わないけど、それでも良かったら、皆と一緒に行くって。愛理沙ちゃんが皆と一緒に行動するなんて珍しいんだよ。愛理沙ちゃんも人が苦手だから」

「スゲー! 青雲高校NO1美少女とカラオケか。俺の美声を聞かせてやるぜ」

 愛理沙が来ることで、陽太のやる気はグングンと上昇中だ。


「―――良かった……俺も歌が苦手だから。1人だけ見ているのは辛かったから、嬉しいよ」

「え……涼ちゃんって、カラオケ、歌えないの?」

「そうなのよ。涼っていつもカラオケに一緒に行くけど、カラオケを歌ったことないの」

「自分の歌声に自信がないだけだよ」

「涼は全てのことに自信がないからな。自分が甘いマスクをしている自覚もない」


 湊が妙なことを言ってくるが、スルーして無視する。

 しかし湊が言っていることは事実である。
 涼は身長178cmで、黒髪のウルフカットが良く似合っている。
切れ長の涼し気が二重に諦観した瞳が印象的だ。細い鼻筋に薄い唇で、色白で肢体が長い。少し中性的な甘いマスクをしているが、涼はそのことを全く意識したことがない。

 愛理沙が自分の席を立ちあがって鞄を持って、涼の席にへと歩いてきた。


「今日は声をかけてくれてありがとう。雪野愛理沙(ユキノアリサ)と言います。よろしくお願いします」

「は……初めまして、青野涼(アオノリョウ)と言います。よろしくお願いします」


 涼と愛理沙はまだ学校では知り合いになっていない設定になっている。きちんと挨拶をしないと、皆に怪しまれてしまう。涼が緊張した顔をしていると、一瞬だけ愛理沙が微笑んだ。


「自己紹介は後でしようぜ。カラオケに行ってから自己紹介すればいいさ。まずは学校から早く出ようぜ」


 陽太が涼の肩を持ってニッコリと笑う。


「それじゃあ、皆も集まったことだし、行きましょうか!」


 楓乃の声を聞いて、涼も席を立って、皆と一緒に教室を後にし、カラオケボックスへ向かった。