湊の案内により、聖香のマンションへ向かう。
聖香の家は街中の高級マンションの12階にあった。
玄関で部屋のロックを解除してもらって、エレベータに乗って12階へ向かう。
聖香の家の前まで走っていく。そしてインターホンを指で鳴らす。
玄関が開いて、聖香が心配そうな顔をして『涼ちゃん、大丈夫?』と声をかけてくる。
「愛理沙に会いたいんだ。ゆっくりと話をしたい。お願いだ。部屋へ入れてほしい」
「―――愛理沙ちゃんは涼ちゃんと会いたくないって言ってるだけど、私は2人共、きちんと話し合ったほうがいいと思う。部屋の中へ入って」
「―――ありがとう」
涼が玄関を入って靴を脱いで、リビングへ向かうと愛理沙は聖香の私室へ逃げようとする。しかし、先に来ていた湊が両手を広げて、愛理沙の行く手を阻む。
「愛理沙も涼ときっちりと話したほうが良い。涼も必死で愛理沙を追いかけて来たんだ。その気持ちを理解して、話し合いだけでもしたほうがいい」
それを聞いた愛理沙は大きなクッションを胸に抱えたまま、リビングのソファに座った。
涼も愛理沙から少し距離をとってソファに座る。
聖香と湊はダイニングテーブルの椅子に座っている。2人だけで話をさせてくれるようだ。
「涼……ゴメンさない。涼があの事故の被害者なんて知らなかったの……」
「俺も愛理沙に打ち明けていなかったんだから……愛理沙が知らなくて当たり前だよ」
しばらくの間、沈黙が流れる。
「俺は、愛理沙が事故の関係者と知っていても……愛理沙のことを大好きになっていたと思う……今も愛理沙のことを大好きだ……愛理沙は何も悪くない……愛理沙も事故の被害者だ」
「それは違うわ。涼はバスに乗っていて事故に巻き込まれた側……私はお父さんの車に乗っていて、事故を起こしてしまった側……私が涼と同じ被害者ということはない」
愛理沙は泣きながらクッションに顔を埋める。
「それは事実かもしれない……しかし、愛理沙のお父さんは事故を起こす前に心筋梗塞で倒れていたんだ。あの事故を防ぐことはできなかった。それに俺も愛理沙も幼稚園児だった。そんな子供に何もできるはずがないじゃないか……だから俺達2人共、被害者でいいんだよ」
「そう言ってくれるのは涼だけ……私は小さい頃から人殺しの子、罪を背負った子、罰を受ける子と言われて育ってきたの。加害者の娘として育ってきたし、周りからそういう目で見られてきたの。涼が違うと言ってくれても……世間は私のことを許さないの……そのことを理解してよ!」
愛理沙はクッションに顔を埋めて、嗚咽している。
「愛理沙の周りの世間はそうだったかもしれない……今まで愛理沙の周りの大人達がそう言ったかもしれない……でも、俺はそうは思わない。もし、愛理沙が事故の加害者の子供であったとしても……俺は愛理沙のことを受け入れていた……そして愛理沙のことを許していたよ」
「涼は優しいのよ……だからわからない……私と暮すということがどんなことなのか……私と一緒にいるということがどんなことなのか……私は涼に不幸になってほしくないの……だから私のことは忘れて、帰って……」
「愛理沙が目の前からいなくなったほうが、俺にとっては最大の不幸だよ……今までの愛理沙との暮らしが無くなったら……本当に俺の心から光が失われる……そのことがわかないのか!」
愛理沙はクッションに顔を埋めたまま、涼の顔を見ようともしない。完全に自分の心の殻に閉じこもってしまっている。
「今まで優しくしてくれてありがとう……今まで楽しい時間をくれてありがとう……今まで幸せな時間を沢山くれてありがとう……でも、これで終わりなの……私は涼の近くにいてはいけない者だから」
「そんなことはないんだよ……俺にとって愛理沙は光なんだよ……なぜ、そのことを理解してくれないんだ!」
「涼……人生は長いわ……涼は甘いマスクもしているし、心がとても優しいから、すぐに私よりも良い女性が見つかるわよ……今は私だけを見ているから、そう思うだけ……涼も少しは頭を冷やして」
涼の頭は確かに血が昇っているのかもしれない。さっきから動悸も激しい。それは愛理沙を失いたくなくて焦っているからだ。
「とにかく、上手く言葉が浮かんでこないけど……愛理沙、俺の元へ帰ってきてくれ……頼む」
涼はソファからずり落ちて、床にペタンと座って、両手をついて、愛理沙に頼み込む。しかし愛理沙はクッションに顔を埋めたまま、涼の姿を見ていない。
「―――ありがとう……涼……こんな私を愛してくれて……本当にありがとうございました」
愛理沙はクッションをソファへ置くと、床に正座をして、涼に向かってペタンと体を2つに折って、丁寧にお辞儀をする。もう……涼は言葉を話すこともできなかった。
「涼……今日の所は愛理沙も決意が固い。俺達は一旦、聖香の家から出ようぜ。涼も愛理沙も頭を冷やす時間が必要だ。少し時間を置けば、もう少し前向きな話もできるだろう。これ以上は聖香の家にも迷惑がかかる」
「私の家なら、両親が海外赴任中だから、私1人暮らしだから、愛理沙ちゃん1人ぐらい増えても大丈夫だし。少しの間、愛理沙ちゃんへの説得も任せてほしいな……女同士でないと話せないこともあるし……」
湊はリビングのソファの近くまで歩いてくると、力を失った涼を肩に担いで、玄関まで歩いていく。
「涼が毎日、会いに来るのがダメなら、俺が毎日、聖香の家へ愛理沙の様子を見にくるから。その時は、きちんと愛理沙が対応してくれよ」
「――――」
湊は涼を連れて、玄関から出る。
「私も2人のために役に立ちたい。2人を別れさせたくない。だから私も頑張るね」
聖香が玄関先で涼に聞こえるように小さく呟いて、玄関を閉めた。
エレベーターを降りて、湊と2人でマンションの玄関を出る。
「俺はもう家に帰る。何かあったら連絡してこいよ。変なことを考えるなよ……涼。じゃあな」
涼はロードレーサーを押して、高台の自分のアパートまで歩いて戻って行く。
その姿は背中が丸くなっていて、全く元気がなく、ヨロヨロと自転車を押して、トボトボと夜の街中を歩いていく。
聖香の家は街中の高級マンションの12階にあった。
玄関で部屋のロックを解除してもらって、エレベータに乗って12階へ向かう。
聖香の家の前まで走っていく。そしてインターホンを指で鳴らす。
玄関が開いて、聖香が心配そうな顔をして『涼ちゃん、大丈夫?』と声をかけてくる。
「愛理沙に会いたいんだ。ゆっくりと話をしたい。お願いだ。部屋へ入れてほしい」
「―――愛理沙ちゃんは涼ちゃんと会いたくないって言ってるだけど、私は2人共、きちんと話し合ったほうがいいと思う。部屋の中へ入って」
「―――ありがとう」
涼が玄関を入って靴を脱いで、リビングへ向かうと愛理沙は聖香の私室へ逃げようとする。しかし、先に来ていた湊が両手を広げて、愛理沙の行く手を阻む。
「愛理沙も涼ときっちりと話したほうが良い。涼も必死で愛理沙を追いかけて来たんだ。その気持ちを理解して、話し合いだけでもしたほうがいい」
それを聞いた愛理沙は大きなクッションを胸に抱えたまま、リビングのソファに座った。
涼も愛理沙から少し距離をとってソファに座る。
聖香と湊はダイニングテーブルの椅子に座っている。2人だけで話をさせてくれるようだ。
「涼……ゴメンさない。涼があの事故の被害者なんて知らなかったの……」
「俺も愛理沙に打ち明けていなかったんだから……愛理沙が知らなくて当たり前だよ」
しばらくの間、沈黙が流れる。
「俺は、愛理沙が事故の関係者と知っていても……愛理沙のことを大好きになっていたと思う……今も愛理沙のことを大好きだ……愛理沙は何も悪くない……愛理沙も事故の被害者だ」
「それは違うわ。涼はバスに乗っていて事故に巻き込まれた側……私はお父さんの車に乗っていて、事故を起こしてしまった側……私が涼と同じ被害者ということはない」
愛理沙は泣きながらクッションに顔を埋める。
「それは事実かもしれない……しかし、愛理沙のお父さんは事故を起こす前に心筋梗塞で倒れていたんだ。あの事故を防ぐことはできなかった。それに俺も愛理沙も幼稚園児だった。そんな子供に何もできるはずがないじゃないか……だから俺達2人共、被害者でいいんだよ」
「そう言ってくれるのは涼だけ……私は小さい頃から人殺しの子、罪を背負った子、罰を受ける子と言われて育ってきたの。加害者の娘として育ってきたし、周りからそういう目で見られてきたの。涼が違うと言ってくれても……世間は私のことを許さないの……そのことを理解してよ!」
愛理沙はクッションに顔を埋めて、嗚咽している。
「愛理沙の周りの世間はそうだったかもしれない……今まで愛理沙の周りの大人達がそう言ったかもしれない……でも、俺はそうは思わない。もし、愛理沙が事故の加害者の子供であったとしても……俺は愛理沙のことを受け入れていた……そして愛理沙のことを許していたよ」
「涼は優しいのよ……だからわからない……私と暮すということがどんなことなのか……私と一緒にいるということがどんなことなのか……私は涼に不幸になってほしくないの……だから私のことは忘れて、帰って……」
「愛理沙が目の前からいなくなったほうが、俺にとっては最大の不幸だよ……今までの愛理沙との暮らしが無くなったら……本当に俺の心から光が失われる……そのことがわかないのか!」
愛理沙はクッションに顔を埋めたまま、涼の顔を見ようともしない。完全に自分の心の殻に閉じこもってしまっている。
「今まで優しくしてくれてありがとう……今まで楽しい時間をくれてありがとう……今まで幸せな時間を沢山くれてありがとう……でも、これで終わりなの……私は涼の近くにいてはいけない者だから」
「そんなことはないんだよ……俺にとって愛理沙は光なんだよ……なぜ、そのことを理解してくれないんだ!」
「涼……人生は長いわ……涼は甘いマスクもしているし、心がとても優しいから、すぐに私よりも良い女性が見つかるわよ……今は私だけを見ているから、そう思うだけ……涼も少しは頭を冷やして」
涼の頭は確かに血が昇っているのかもしれない。さっきから動悸も激しい。それは愛理沙を失いたくなくて焦っているからだ。
「とにかく、上手く言葉が浮かんでこないけど……愛理沙、俺の元へ帰ってきてくれ……頼む」
涼はソファからずり落ちて、床にペタンと座って、両手をついて、愛理沙に頼み込む。しかし愛理沙はクッションに顔を埋めたまま、涼の姿を見ていない。
「―――ありがとう……涼……こんな私を愛してくれて……本当にありがとうございました」
愛理沙はクッションをソファへ置くと、床に正座をして、涼に向かってペタンと体を2つに折って、丁寧にお辞儀をする。もう……涼は言葉を話すこともできなかった。
「涼……今日の所は愛理沙も決意が固い。俺達は一旦、聖香の家から出ようぜ。涼も愛理沙も頭を冷やす時間が必要だ。少し時間を置けば、もう少し前向きな話もできるだろう。これ以上は聖香の家にも迷惑がかかる」
「私の家なら、両親が海外赴任中だから、私1人暮らしだから、愛理沙ちゃん1人ぐらい増えても大丈夫だし。少しの間、愛理沙ちゃんへの説得も任せてほしいな……女同士でないと話せないこともあるし……」
湊はリビングのソファの近くまで歩いてくると、力を失った涼を肩に担いで、玄関まで歩いていく。
「涼が毎日、会いに来るのがダメなら、俺が毎日、聖香の家へ愛理沙の様子を見にくるから。その時は、きちんと愛理沙が対応してくれよ」
「――――」
湊は涼を連れて、玄関から出る。
「私も2人のために役に立ちたい。2人を別れさせたくない。だから私も頑張るね」
聖香が玄関先で涼に聞こえるように小さく呟いて、玄関を閉めた。
エレベーターを降りて、湊と2人でマンションの玄関を出る。
「俺はもう家に帰る。何かあったら連絡してこいよ。変なことを考えるなよ……涼。じゃあな」
涼はロードレーサーを押して、高台の自分のアパートまで歩いて戻って行く。
その姿は背中が丸くなっていて、全く元気がなく、ヨロヨロと自転車を押して、トボトボと夜の街中を歩いていく。