次の日、電車に乗って、愛理沙と2人で遠出をする。
涼の街の駅から2時間電車に揺られる旅。
その間、愛理沙は涼の隣に座って、何も話さない。
涼も愛理沙に過去のことを説明するつもりはないので、無言だ。
しかし、無言で座っている時間が良い。
2人で和やかな時間を共有しているように感じる。
言葉で会話をして、この2人の穏やかな雰囲気を壊したくない。
涼が向かう先の駅へと着いた。
涼と愛理沙は2人並んで駅のホームへと降りる。
涼達が住んでいる街よりも田舎だ。
改札口を出て、真直ぐに前を縦に通っている道を愛理沙と2人で歩く。
この道は1本道で、遠くまで住宅街の風景が見える。
20分ほど歩いていくと左側に大きな寺が見えてきた。
「ここだよ」
「ここに涼のご家族が眠っているのね」
2人はお辞儀をして寺の中へと入る。
そして寺の墓所へ向かって歩いていく。
途中に蛇口があり、バケツとひしゃくが置いてある。
蛇口をひねって水をだして、バケツに一杯水を貯める。
そしてバケツとひしゃくを持って、墓所の中を歩く。
愛理沙は街から買ってきた墓花を持って涼の後に続く。
1つの墓の前で涼が立ち止まる。
その墓には『先祖代々』と書かれていた。
「このお墓が涼の家のお墓なのね」
「ああそうだよ。毎年、ゴールデンウィークには通っているんだ……愛理沙も連れてきてしまってゴメンね」
「ううん…いいの……涼のお父様とお母様、後、ご家族の方にも挨拶をしておきたかったから」
涼は持ってきた紙袋から雑巾を取り出し、バケツの水に雑巾を入れて水を含ませて、雑巾を絞る。
そしてきれいに丁寧に墓を拭いていく。
「手伝おうか?」
「いや……これだけは俺がやるよ……愛理沙はお客様だからね」
涼は墓の隅々まで濡れ雑巾できれいにする。その間に愛理沙は花筒の中の水を捨てて、バケツのきれいな水を花筒に入れて、もってきた墓花をきれいに活ける。
そして、涼はバケツを左手に持って、右手のひしゃくで、バケツの水を墓の上から水を流していく。
墓は涼に磨かれて、陽光に照らされて輝いている。
持ってきた線香に火を点けて、線香立てに立てる。
そして2人は墓の前にしゃがんで手を合わせて目をつむる。
「私は雪野愛理沙と申します。涼の家でお世話になっている者です。今は涼の仮彼女をさせていただいています。どうかよろしくお願いいたします。涼と私を温かく見守ってください」
「隣に座っているのが仮彼女の雪野愛理沙さんだ。すごい美人だろう。父さんも母さんもビックリしただろう。俺の自慢の仮彼女なんだ。掃除はできるし、片付けも上手い。それに料理は何でも美味しい。凄く家庭的で俺には勿体ない仮彼女なんだ。それに父さん達もよく見てよ。すごい美少女だろう。俺の自慢なんだ」
「アウ……お墓の前で何を言ってるの?……私の自慢をしてどうするの……私…とっても恥ずかしい」
「俺が思っていることを父さんと母さんに言うことにしてるんだ。両親にも愛理沙の良さをわかってもらいたい」
「アウウウ……もう何も言えないよ……」
愛理沙は顔を真っ赤に染めて、目をつむって一心に墓に祈っている。
「これで用は済んだ。愛理沙一緒に来てくれてありがとう。家族も愛理沙と会えて嬉しかったと思う」
「いいの……私も涼のご家族のお墓に参りたかったから……」
バケツとひしゃくと雑巾を持って、バケツ置き場の場所まで歩いて戻る。
「涼じゃないか……やっぱり来てたのか」
大きな声が墓所に響き渡る。
涼が顔を上げると、そこには三崎誠(ミサキマコト)おじさんと楓乃の2人が立っていた。
楓乃は愛理沙がいることに気付いて、驚いた後、ご機嫌が斜めになっている。
「どうして涼の仮彼女の愛理沙が、涼の家のお墓に参ってるの。これだと本物の彼女みたいじゃない」
「楓乃、場所を弁えなさい」
誠おじさんは静だが、言い訳を受け付けない口調で楓乃に言う。
楓乃は不満そうな顔をしているが、それ以上のことを言ってこなかった。
「涼…楓乃から話は聞いていたが、すごくきれいでかわいい彼女じゃないか。私にも紹介してくれないか?」
愛理沙は丁寧に深々と頭を下げて、誠おじさんにお辞儀をする。
「涼の仮彼女をしています。雪野愛理沙といいます。楓乃さんとも同じクラスメイトの友達です。よろしくお願いいたします」
愛理沙の苗字を雪野と聞いて、誠おじさんが一瞬だけ驚いた顔をする。
「雪野……もしかすると雪野拓三(ユキノタクゾウ)さんの娘さんかい?」
「はい……雪野拓三は私の父の名前です。どうして楓乃のお父様が私の父を知ってるですか?」
「実は拓三さんが他界される前まで、知人だったんだ。雪野という苗字は珍しいからね。こんな所で拓三さんの娘さんと会うとは思わなかったよ。拓三さんも他界していなければ、きれいな愛理沙ちゃんに会えたのにね」
誠おじさんが……愛理沙の父親の知人だって? 今までそんなことを聞いたこともなかった。小さな頃に誠おじさんの家に引き取られて、高校に入るまでお世話になっていたが、一度も雪野の名前を聞いたことがない。
「俺達は車できたんだ。帰りは車で送ってあげよう。できれば愛理沙ちゃんに久しぶりに会ったし、今までどうやって暮らしていたのか、少し聞きたいから、家に寄って帰ってほしい。涼も最近は近況報告が全くないと思ったら、彼女を作って幸せだったということか。その話も聞かせてもらいたいな」
「愛理沙は涼の仮彼女なの。本当の彼女じゃないの。お父さんも間違えないでね」
「涼のことになると楓乃はうるさいな。まだ涼のことが好きなのか?」
「―――お父さん、変なことは言わないで」
楓乃は顔を真っ赤にして、誠おじさんに怒っている。
「俺達の墓参りがすむまで寺の玄関で待っていてくれ」
誠おじさんは、楓乃を連れて、涼の家の墓へと歩いていった。
涼と愛理沙は寺玄関まで戻って、誠おじさんと楓乃の2人を待つ。
誠おじさんが戻って来て、寺の駐車場から車を出してくる。誠おじさんが運転席に乗って、楓乃が助手席に乗る。
涼と愛理沙は車の後部座席に乗る。
車の中は楓乃の不機嫌な雰囲気が充満していて、とても和気あいあいと会話がでる雰囲気ではなかった。愛理沙がさりげなく涼の手の上に自分の手を乗せる。
涼は楓乃と誠おじさんから見えないように隠れて、愛理沙の手をしっかりと握った。
涼の街の駅から2時間電車に揺られる旅。
その間、愛理沙は涼の隣に座って、何も話さない。
涼も愛理沙に過去のことを説明するつもりはないので、無言だ。
しかし、無言で座っている時間が良い。
2人で和やかな時間を共有しているように感じる。
言葉で会話をして、この2人の穏やかな雰囲気を壊したくない。
涼が向かう先の駅へと着いた。
涼と愛理沙は2人並んで駅のホームへと降りる。
涼達が住んでいる街よりも田舎だ。
改札口を出て、真直ぐに前を縦に通っている道を愛理沙と2人で歩く。
この道は1本道で、遠くまで住宅街の風景が見える。
20分ほど歩いていくと左側に大きな寺が見えてきた。
「ここだよ」
「ここに涼のご家族が眠っているのね」
2人はお辞儀をして寺の中へと入る。
そして寺の墓所へ向かって歩いていく。
途中に蛇口があり、バケツとひしゃくが置いてある。
蛇口をひねって水をだして、バケツに一杯水を貯める。
そしてバケツとひしゃくを持って、墓所の中を歩く。
愛理沙は街から買ってきた墓花を持って涼の後に続く。
1つの墓の前で涼が立ち止まる。
その墓には『先祖代々』と書かれていた。
「このお墓が涼の家のお墓なのね」
「ああそうだよ。毎年、ゴールデンウィークには通っているんだ……愛理沙も連れてきてしまってゴメンね」
「ううん…いいの……涼のお父様とお母様、後、ご家族の方にも挨拶をしておきたかったから」
涼は持ってきた紙袋から雑巾を取り出し、バケツの水に雑巾を入れて水を含ませて、雑巾を絞る。
そしてきれいに丁寧に墓を拭いていく。
「手伝おうか?」
「いや……これだけは俺がやるよ……愛理沙はお客様だからね」
涼は墓の隅々まで濡れ雑巾できれいにする。その間に愛理沙は花筒の中の水を捨てて、バケツのきれいな水を花筒に入れて、もってきた墓花をきれいに活ける。
そして、涼はバケツを左手に持って、右手のひしゃくで、バケツの水を墓の上から水を流していく。
墓は涼に磨かれて、陽光に照らされて輝いている。
持ってきた線香に火を点けて、線香立てに立てる。
そして2人は墓の前にしゃがんで手を合わせて目をつむる。
「私は雪野愛理沙と申します。涼の家でお世話になっている者です。今は涼の仮彼女をさせていただいています。どうかよろしくお願いいたします。涼と私を温かく見守ってください」
「隣に座っているのが仮彼女の雪野愛理沙さんだ。すごい美人だろう。父さんも母さんもビックリしただろう。俺の自慢の仮彼女なんだ。掃除はできるし、片付けも上手い。それに料理は何でも美味しい。凄く家庭的で俺には勿体ない仮彼女なんだ。それに父さん達もよく見てよ。すごい美少女だろう。俺の自慢なんだ」
「アウ……お墓の前で何を言ってるの?……私の自慢をしてどうするの……私…とっても恥ずかしい」
「俺が思っていることを父さんと母さんに言うことにしてるんだ。両親にも愛理沙の良さをわかってもらいたい」
「アウウウ……もう何も言えないよ……」
愛理沙は顔を真っ赤に染めて、目をつむって一心に墓に祈っている。
「これで用は済んだ。愛理沙一緒に来てくれてありがとう。家族も愛理沙と会えて嬉しかったと思う」
「いいの……私も涼のご家族のお墓に参りたかったから……」
バケツとひしゃくと雑巾を持って、バケツ置き場の場所まで歩いて戻る。
「涼じゃないか……やっぱり来てたのか」
大きな声が墓所に響き渡る。
涼が顔を上げると、そこには三崎誠(ミサキマコト)おじさんと楓乃の2人が立っていた。
楓乃は愛理沙がいることに気付いて、驚いた後、ご機嫌が斜めになっている。
「どうして涼の仮彼女の愛理沙が、涼の家のお墓に参ってるの。これだと本物の彼女みたいじゃない」
「楓乃、場所を弁えなさい」
誠おじさんは静だが、言い訳を受け付けない口調で楓乃に言う。
楓乃は不満そうな顔をしているが、それ以上のことを言ってこなかった。
「涼…楓乃から話は聞いていたが、すごくきれいでかわいい彼女じゃないか。私にも紹介してくれないか?」
愛理沙は丁寧に深々と頭を下げて、誠おじさんにお辞儀をする。
「涼の仮彼女をしています。雪野愛理沙といいます。楓乃さんとも同じクラスメイトの友達です。よろしくお願いいたします」
愛理沙の苗字を雪野と聞いて、誠おじさんが一瞬だけ驚いた顔をする。
「雪野……もしかすると雪野拓三(ユキノタクゾウ)さんの娘さんかい?」
「はい……雪野拓三は私の父の名前です。どうして楓乃のお父様が私の父を知ってるですか?」
「実は拓三さんが他界される前まで、知人だったんだ。雪野という苗字は珍しいからね。こんな所で拓三さんの娘さんと会うとは思わなかったよ。拓三さんも他界していなければ、きれいな愛理沙ちゃんに会えたのにね」
誠おじさんが……愛理沙の父親の知人だって? 今までそんなことを聞いたこともなかった。小さな頃に誠おじさんの家に引き取られて、高校に入るまでお世話になっていたが、一度も雪野の名前を聞いたことがない。
「俺達は車できたんだ。帰りは車で送ってあげよう。できれば愛理沙ちゃんに久しぶりに会ったし、今までどうやって暮らしていたのか、少し聞きたいから、家に寄って帰ってほしい。涼も最近は近況報告が全くないと思ったら、彼女を作って幸せだったということか。その話も聞かせてもらいたいな」
「愛理沙は涼の仮彼女なの。本当の彼女じゃないの。お父さんも間違えないでね」
「涼のことになると楓乃はうるさいな。まだ涼のことが好きなのか?」
「―――お父さん、変なことは言わないで」
楓乃は顔を真っ赤にして、誠おじさんに怒っている。
「俺達の墓参りがすむまで寺の玄関で待っていてくれ」
誠おじさんは、楓乃を連れて、涼の家の墓へと歩いていった。
涼と愛理沙は寺玄関まで戻って、誠おじさんと楓乃の2人を待つ。
誠おじさんが戻って来て、寺の駐車場から車を出してくる。誠おじさんが運転席に乗って、楓乃が助手席に乗る。
涼と愛理沙は車の後部座席に乗る。
車の中は楓乃の不機嫌な雰囲気が充満していて、とても和気あいあいと会話がでる雰囲気ではなかった。愛理沙がさりげなく涼の手の上に自分の手を乗せる。
涼は楓乃と誠おじさんから見えないように隠れて、愛理沙の手をしっかりと握った。