愛理沙は慌てて、涼の手から逃れて、少し距離を取ってベッドに座る。
「涼……大丈夫だから……ビックリした」
「ゴメン、気が付いたら、愛理沙のことを抱きしめていた」
「涼は私の気持ちを気にしてくれたのね……もう大丈夫だから……涼は優しいね」
「そんなことないよ」
愛理沙は立ち上がってダイニングに置いてある冷蔵庫の中を見る。
冷蔵庫の中には食べ物も飲み物も何も入っていない空の状態だった。
「今までどうやって食事をしてきたの? まったく冷蔵庫に食品が入ってないよ」
「――――コンビニ弁当―――」
「それだと栄養が偏るわよ。今日は私が料理を作ってあげるから、一緒に夕食を食べましょう」
そう言って、愛理沙はダイニングテーブルにかけていたMA-1を着る。涼も慌てて上着を着て、家に鍵をかけて愛理沙の後を追う。
隣へ到着すると、愛理沙が顔を赤くして、照れて俯いている。
「涼……さっきの私の過去の話は忘れてね。私、同情されるの嫌だから」
「うん……愛理沙がそういうなら忘れる。俺が覚えていると愛理沙も辛くなるから……」
「さっき、愛理沙を抱いたのはゴメン」
「そのことも忘れよう。もう気にしてないし」
2人で高台にあるスーパーに向かったゆっくりと歩く。既に空は夕焼けになっていて、陽光が辺りを真っ赤に染めている。2人は隣に並んでゆっくりと歩調を合わせてスーパーへ向かう。
その間、2人は恥ずかしさと照れもあって、お互いに顔を合わせることもできなかった。
スーパーに入って涼がカゴをカーゴの上に置いて押す。愛理沙はカーゴの前を持って進路を決める。
手慣れた手つきで、愛理沙が食材をカーゴの中へ入れていく。
「今日はハンバーグとカレーライスでいい? 今の時期なら、カレーだったら日持ちするから」
「ありがとう。そこまで考えてくれたんだ……愛理沙も優しいね」
「別に私は、いつも家でしていることを、涼の部屋でするだけよ。優しくなんてない」
「そう……ありがとう」
涼は愛理沙に見つからないようにコーヒーの缶とミルクティのペットボトルをカゴの中へ入れる。
愛理沙も今まで何も飲んでいないから、喉が渇いているだろう。
涼の家までの帰り道に一緒に愛理沙と飲もうと思う。
愛理沙は涼の部屋に足りない、食器洗剤や、各種洗浄洗剤もカゴの中へ入れる。一緒に愛理沙がスーパーに来てくれて助かった。涼だけではそこまで気が回らなかった。
「涼、家で足りないものはスーパーに来れば、だいたいの物が揃うから、スーパーを活用するのよ。夕飯もスーパーのお弁当のほうが安いし、サラダは毎日食べてね」
「そうするよ。ありがとう」
レジで精算をして、荷物を大きなビニール袋2つに入れる。
そしてスーパーから出て、涼の家へと向かう。既に太陽は半分以上沈み、時間は夕暮れになっていた。
今日は公園で愛理沙と一緒にいる時間はなさそうだ……そのことが残念だ。
「1つ袋を持つ」
「いいよ。重いし……これぐらいは俺にさせてくれよ」
「うん」
涼はレジ袋からコーヒーの缶とミルクティのペットボトルを取り出して、愛理沙へミルクティのペットボトルを渡す。
そして、自分はコーヒの缶のプルトップを開けて、一口、コーヒーを飲む。愛理沙は嬉しそうに涼を見て、ミルクティのペットボトルのフタを開けて、コクコクと美味しそうに飲んでいる。
「ありがとう、喉が渇いていたの」
「愛理沙には掃除をしてもらったからね。少しだけど感謝の気持ち」
「――――ありがとう」
2人で夕暮れの道を涼の家まで歩く。気温が下がってきて、風が体に気持ち良い。愛理沙はMA-1を着ているので寒くなさそうだ。
涼の部屋へ戻ってきてから、愛理沙はMA-1を脱いで椅子にかけて、エプロンを付けて料理の支度を始める。涼は料理をしたことが一度もない。だから何を手伝って良いのかもわからない。
手際よく料理をこなしていく愛理沙をずっと見ていると、振り返った愛理沙が困った顔をする。
「そんなに料理をしている姿をじっと見られていたら恥ずかしいわ。ベッドで座って待ってて」
「ゴメン……つい、料理を作る速さに見惚れていた。愛理沙って料理が上手いんだな」
「私なんて普通よ。毎日しているから手慣れているだけよ」
そうか……愛理沙は毎日、料理をしているのか。
でも……親戚の家に引き取られているのに、毎日、料理を作っているのはおかしくないか?
愛理沙に質問してみたいが、部外者の涼が質問しても、心の距離が近すぎる。たぶん愛理沙は答えないだろう。
「わかった。ベッドでおとなしく待ってるよ。料理、期待してるね」
「任せて。毎日、料理をしているから、料理には少し自信があるの」
「うん」
涼は素直に従って、ベッドに身体を横たえる。考えるのは愛理沙のこと。
掃除も片付けも得意。毎日、料理もしている。普通に聞けば、すごい家庭的な女子と考えることもできる。
しかし、愛理沙は親戚の家に引き取られている……毎日の料理も、片付けや掃除も必要だろうか。
何か涼の心の中で、愛理沙の言葉に違和感を感じる。
しかし、愛理沙に聞いても正直には答えてくれないだろう。
愛理沙が自分から答えを言ってくれるまで待つしかない。
愛理沙の言葉に疑問があるからと言って、心に不用意に近付くのは、愛理沙の嫌うことだ。それは止めておいたほうがいい。
涼はこれからも愛理沙を注意深く見守っていこうと思った。
「涼、できたわよ」
「おお―――できた! 楽しみだな……ありがとう」
椅子に座ると、ダイニングテーブルの上にはハンバーグ、野菜サラダ、カレーライス、ミネラルウォーターが置かれていた。いろどりもきれいで美味しそうだ。
向かいの席にはエプロンを取った愛理沙が座って、涼を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「食べてみて。感想をききたいの」
「うん」
ハンバーグに箸を入れて割ると肉汁が皿に広がる。一口食べると、肉汁がジュワっと口の中で広がる。
そして野菜サラダを食べる。ドレッシングが美味しく、口の中で野菜がシャキシャキいう。
カレーを一口食べると、涼の好きな中辛な味付けになっている。とても美味しい。
「ハンバーグも野菜サラダも美味しい。カレーは最高だね。俺好みの味付けだよ」
「よかった。たくさん食べてね。おかわりはあるから」
「うん」
愛理沙が嬉しそうに微笑んで、自分も料理を食べていく。
静かな食事……でもとても暖かくて、穏やかな食事の時間が流れていく。
料理を食べて、目の前の愛理沙の顔を見ると、常に愛理沙は涼を見て嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「楽しい食事だ……少しの間、こんな食事を食べていなかったよ」
「私も今日の食事はすごく楽しい。また夕食を作ってあげるね」
「――――ありがとう」
2人は笑顔で時々見つめあって、微笑んでは、食事を楽しむ。
穏やかで楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
「あ……私、もう帰らないと……ちょっと時間を過ぎちゃった」
「そうなんだ……わかった。帰り道は俺が送って帰るよ」
「家の近くまで送って。途中で少しだけ公園で休んでもいい?」
「愛理沙の好きにすればいいよ。後片付けへ俺がきちんとしておくから安心して」
「本当?」
「本当。任せて」
2人で食事を食べ終えて、愛理沙はMA-1を着て、エプロンを紙袋の中へ片付けて、紙袋を持つ。
部屋に鍵をかけて、愛理沙を歩いて送っていく。
途中で愛理沙の持っていた紙袋を涼が持つ……洗剤などが入っているから、少し重い。
「本当はね。もう少しだけ涼の部屋に居たかった」
「うん。愛理沙だったらいつでも遊びに来てもいいよ」
愛理沙は顔を赤くして、俯きながら小さな声で呟く。
「夜……連絡してもいい?」
「いいよ……待ってる」
もう日が暮れて、空一面が星に覆われている。そして月が美しく輝き、地上を照らしている。
涼と愛理沙の2人は、いつもよりも体を近くに寄り添って、いつもの公園へ向かって歩いていく。
「涼……大丈夫だから……ビックリした」
「ゴメン、気が付いたら、愛理沙のことを抱きしめていた」
「涼は私の気持ちを気にしてくれたのね……もう大丈夫だから……涼は優しいね」
「そんなことないよ」
愛理沙は立ち上がってダイニングに置いてある冷蔵庫の中を見る。
冷蔵庫の中には食べ物も飲み物も何も入っていない空の状態だった。
「今までどうやって食事をしてきたの? まったく冷蔵庫に食品が入ってないよ」
「――――コンビニ弁当―――」
「それだと栄養が偏るわよ。今日は私が料理を作ってあげるから、一緒に夕食を食べましょう」
そう言って、愛理沙はダイニングテーブルにかけていたMA-1を着る。涼も慌てて上着を着て、家に鍵をかけて愛理沙の後を追う。
隣へ到着すると、愛理沙が顔を赤くして、照れて俯いている。
「涼……さっきの私の過去の話は忘れてね。私、同情されるの嫌だから」
「うん……愛理沙がそういうなら忘れる。俺が覚えていると愛理沙も辛くなるから……」
「さっき、愛理沙を抱いたのはゴメン」
「そのことも忘れよう。もう気にしてないし」
2人で高台にあるスーパーに向かったゆっくりと歩く。既に空は夕焼けになっていて、陽光が辺りを真っ赤に染めている。2人は隣に並んでゆっくりと歩調を合わせてスーパーへ向かう。
その間、2人は恥ずかしさと照れもあって、お互いに顔を合わせることもできなかった。
スーパーに入って涼がカゴをカーゴの上に置いて押す。愛理沙はカーゴの前を持って進路を決める。
手慣れた手つきで、愛理沙が食材をカーゴの中へ入れていく。
「今日はハンバーグとカレーライスでいい? 今の時期なら、カレーだったら日持ちするから」
「ありがとう。そこまで考えてくれたんだ……愛理沙も優しいね」
「別に私は、いつも家でしていることを、涼の部屋でするだけよ。優しくなんてない」
「そう……ありがとう」
涼は愛理沙に見つからないようにコーヒーの缶とミルクティのペットボトルをカゴの中へ入れる。
愛理沙も今まで何も飲んでいないから、喉が渇いているだろう。
涼の家までの帰り道に一緒に愛理沙と飲もうと思う。
愛理沙は涼の部屋に足りない、食器洗剤や、各種洗浄洗剤もカゴの中へ入れる。一緒に愛理沙がスーパーに来てくれて助かった。涼だけではそこまで気が回らなかった。
「涼、家で足りないものはスーパーに来れば、だいたいの物が揃うから、スーパーを活用するのよ。夕飯もスーパーのお弁当のほうが安いし、サラダは毎日食べてね」
「そうするよ。ありがとう」
レジで精算をして、荷物を大きなビニール袋2つに入れる。
そしてスーパーから出て、涼の家へと向かう。既に太陽は半分以上沈み、時間は夕暮れになっていた。
今日は公園で愛理沙と一緒にいる時間はなさそうだ……そのことが残念だ。
「1つ袋を持つ」
「いいよ。重いし……これぐらいは俺にさせてくれよ」
「うん」
涼はレジ袋からコーヒーの缶とミルクティのペットボトルを取り出して、愛理沙へミルクティのペットボトルを渡す。
そして、自分はコーヒの缶のプルトップを開けて、一口、コーヒーを飲む。愛理沙は嬉しそうに涼を見て、ミルクティのペットボトルのフタを開けて、コクコクと美味しそうに飲んでいる。
「ありがとう、喉が渇いていたの」
「愛理沙には掃除をしてもらったからね。少しだけど感謝の気持ち」
「――――ありがとう」
2人で夕暮れの道を涼の家まで歩く。気温が下がってきて、風が体に気持ち良い。愛理沙はMA-1を着ているので寒くなさそうだ。
涼の部屋へ戻ってきてから、愛理沙はMA-1を脱いで椅子にかけて、エプロンを付けて料理の支度を始める。涼は料理をしたことが一度もない。だから何を手伝って良いのかもわからない。
手際よく料理をこなしていく愛理沙をずっと見ていると、振り返った愛理沙が困った顔をする。
「そんなに料理をしている姿をじっと見られていたら恥ずかしいわ。ベッドで座って待ってて」
「ゴメン……つい、料理を作る速さに見惚れていた。愛理沙って料理が上手いんだな」
「私なんて普通よ。毎日しているから手慣れているだけよ」
そうか……愛理沙は毎日、料理をしているのか。
でも……親戚の家に引き取られているのに、毎日、料理を作っているのはおかしくないか?
愛理沙に質問してみたいが、部外者の涼が質問しても、心の距離が近すぎる。たぶん愛理沙は答えないだろう。
「わかった。ベッドでおとなしく待ってるよ。料理、期待してるね」
「任せて。毎日、料理をしているから、料理には少し自信があるの」
「うん」
涼は素直に従って、ベッドに身体を横たえる。考えるのは愛理沙のこと。
掃除も片付けも得意。毎日、料理もしている。普通に聞けば、すごい家庭的な女子と考えることもできる。
しかし、愛理沙は親戚の家に引き取られている……毎日の料理も、片付けや掃除も必要だろうか。
何か涼の心の中で、愛理沙の言葉に違和感を感じる。
しかし、愛理沙に聞いても正直には答えてくれないだろう。
愛理沙が自分から答えを言ってくれるまで待つしかない。
愛理沙の言葉に疑問があるからと言って、心に不用意に近付くのは、愛理沙の嫌うことだ。それは止めておいたほうがいい。
涼はこれからも愛理沙を注意深く見守っていこうと思った。
「涼、できたわよ」
「おお―――できた! 楽しみだな……ありがとう」
椅子に座ると、ダイニングテーブルの上にはハンバーグ、野菜サラダ、カレーライス、ミネラルウォーターが置かれていた。いろどりもきれいで美味しそうだ。
向かいの席にはエプロンを取った愛理沙が座って、涼を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「食べてみて。感想をききたいの」
「うん」
ハンバーグに箸を入れて割ると肉汁が皿に広がる。一口食べると、肉汁がジュワっと口の中で広がる。
そして野菜サラダを食べる。ドレッシングが美味しく、口の中で野菜がシャキシャキいう。
カレーを一口食べると、涼の好きな中辛な味付けになっている。とても美味しい。
「ハンバーグも野菜サラダも美味しい。カレーは最高だね。俺好みの味付けだよ」
「よかった。たくさん食べてね。おかわりはあるから」
「うん」
愛理沙が嬉しそうに微笑んで、自分も料理を食べていく。
静かな食事……でもとても暖かくて、穏やかな食事の時間が流れていく。
料理を食べて、目の前の愛理沙の顔を見ると、常に愛理沙は涼を見て嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「楽しい食事だ……少しの間、こんな食事を食べていなかったよ」
「私も今日の食事はすごく楽しい。また夕食を作ってあげるね」
「――――ありがとう」
2人は笑顔で時々見つめあって、微笑んでは、食事を楽しむ。
穏やかで楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
「あ……私、もう帰らないと……ちょっと時間を過ぎちゃった」
「そうなんだ……わかった。帰り道は俺が送って帰るよ」
「家の近くまで送って。途中で少しだけ公園で休んでもいい?」
「愛理沙の好きにすればいいよ。後片付けへ俺がきちんとしておくから安心して」
「本当?」
「本当。任せて」
2人で食事を食べ終えて、愛理沙はMA-1を着て、エプロンを紙袋の中へ片付けて、紙袋を持つ。
部屋に鍵をかけて、愛理沙を歩いて送っていく。
途中で愛理沙の持っていた紙袋を涼が持つ……洗剤などが入っているから、少し重い。
「本当はね。もう少しだけ涼の部屋に居たかった」
「うん。愛理沙だったらいつでも遊びに来てもいいよ」
愛理沙は顔を赤くして、俯きながら小さな声で呟く。
「夜……連絡してもいい?」
「いいよ……待ってる」
もう日が暮れて、空一面が星に覆われている。そして月が美しく輝き、地上を照らしている。
涼と愛理沙の2人は、いつもよりも体を近くに寄り添って、いつもの公園へ向かって歩いていく。