「たまに呼び出されて社長の秘書代理として
ついて行くことは、あったのだが
今回大きな取引先があってね。
それを俺がやる事になったんだ」

「ど、どうして課長が社長代理を!?」

そういうのは、普通。
秘書課を通してやるものだ。
なのに…どうして関係のない課長が代わりに?

「まどか。俺は、千里眼を持っている。
それは、営業や取引先との重要なパイプになるからね。
社長は、俺の力を知っているからなおさらだ」

「そうですか…」

確かに課長の千里眼があれば、
取引が上手くいくだろう。
先の事や考えてる事が分かるから計画も立てやすい。
本来なら、喜ばしい事なのかも知れない。

知れないけど…なら、しばらく
一緒に仕事が出来なくなってしまう。
課長の顔が見えない。

ズキッと胸が傷んだ。
私は、しゅんと落ち込んでしまった。
チラッと見るが課長は、何も無かったように
他の人と話をしていた。
課長は、部署が離れても平気なのかしら?

そんな風に思っていた。
しかし、しばらくして本当に社長秘書代理として
行ってしまった。ガランとなった課長のデスク。
ジッとその席を切なそうに眺めていた。

「あら、課長が居なくて寂しい?」

紀美子さんがそう言ってきた。えっ!?
図星を言われてドキッとした。
恥ずかしくなり慌てると

「フフッ…恥ずかしがらなくていいわよ。
寂しいのは、皆同じだから
でも、秘書代理なんて凄いわねぇ~」

「そうなんです。秘書代理なんて
簡単になれるものではありませんし」

尊敬の眼差しで私も同意する。
それこそ、会社に信頼されている証なのだから
我慢しなくちゃあ……。すると紀美子さんが

「あ…でも課長の場合は、あまり出世とか
興味ないらしいわよ?ここだけの話。
課長就任するのだって断っていたぐらいだし」と
私に話してきた。