数日後、拓海はケロリとした顔で事務所にやって来た。
休んでいたことを軽く謝罪して掃除に取りかかる拓海に西松はどう接するべきかわからなかった。聞きたいことはたくさんあって、拓海には説明責任があると思っていた。だけど拓海は何事もなかったかのように振る舞おうとしていた。
西松は無言で掃除をする拓海を観察した。拓海がなにかを隠そうとしているのならば、西松にはそれを暴くことができる。だからじっとその後ろ姿を見つめていると、拓海はふいに振り返ってしかたなそうに笑った。
(俺のことを探っても、なにも出てきませんよ)
拓海は心の中で西松に話しかける。やっぱりあえて説明する気も、言い訳をする気もないようだった。
西松は拓海から目を逸らして、机の上に置いてあった煙草に手を伸ばした。
なにも出てこないわけがないだろうと、西松もまた心の中で拓海に言った。
西松は拓海の思考を覗いて、拓海がこの数週間なにをしようとしていたのかを知った。
拓海はスタートを壊す計画を立て、鈴と同じ能力者を探し出そうとしていた。そのことを西松に知られないためにアルバイトを休んでいた。西松のことを恐れていたわけじゃなくて、単純に止められたくなかったようだ。そして西松が拓海の後をつけたあの日の夕方、都内のあちこちに雷が落ちた。
雷の影響でスタートは一時的に通信障害が起きて使用できなくなった。けれど直ぐに復旧して、今は問題なく使用できている。鈴も変わらず、スタートの声を聞いていた。そして拓海は現実を知った。
スタートを壊すことは、拓海が思っているよりもずっと難しかった。
拓海はスタートを壊すことを一旦諦めて、西松の元に戻ってきた。少し気まずそうな顔をして元の生活に戻ることを求める拓海を、西松はずいぶん甘いなと呆れる。同時に、戻って来てくれたことに安堵した。そしてやけに落ち着いている拓海に感心した。拓海なりに悩んで、一応は気持ちの整理ができたようだった。
子供は放っておいてもある程度成長するのを実感して、西松は自身の立場に再び疑問を抱く。思考を覗けているのになにもしてあげられなかった。また伝わる思考が嘘かもしれない可能性を考えると、もうわけがわからなくなる。じゃあいったいなにを信じればいいのかと悩んで、もう少し自分を信じられるようになれればなと思った。
人に道を示すには、自分自身がしっかりしていなければいけない。嘘つきを卒業しなければと思った。そしてこれまでついてきた多くの嘘を辿っているうちに、母親の顔がぼんやりと頭に浮かんだ。玲に母親の話をしている時は平気だったのに、今はなぜか胸が締めつけられた。会いたくないなんて、嘘だった。母親にどうしても伝えたいことがあった。
西松が今なにを考えているかなんて、拓海にわかるはずがない。母親のことを考えているなどと、想像もしていない。
黙っていたところで誰も察してくれない。自分のことは自分で口にしないと伝わらないと、西松はずいぶん前から知っていた。鈴にアドバイスをしておきながら、自分が実践していないとおかしい。
話しかけられるのを待っているような拓海に、西松は声をかける。
拓海はほとんど信じてくれないかもしれないけれど、きっと真剣に聞いてくれるだろう。そしてその口から、改めて聞きたい。ここ数日なにを考えていたのか。これからどうするつもりなのか。
特殊な能力があっても、なくても、わかり合うためには結局、とことん話すしかないのだ。
休んでいたことを軽く謝罪して掃除に取りかかる拓海に西松はどう接するべきかわからなかった。聞きたいことはたくさんあって、拓海には説明責任があると思っていた。だけど拓海は何事もなかったかのように振る舞おうとしていた。
西松は無言で掃除をする拓海を観察した。拓海がなにかを隠そうとしているのならば、西松にはそれを暴くことができる。だからじっとその後ろ姿を見つめていると、拓海はふいに振り返ってしかたなそうに笑った。
(俺のことを探っても、なにも出てきませんよ)
拓海は心の中で西松に話しかける。やっぱりあえて説明する気も、言い訳をする気もないようだった。
西松は拓海から目を逸らして、机の上に置いてあった煙草に手を伸ばした。
なにも出てこないわけがないだろうと、西松もまた心の中で拓海に言った。
西松は拓海の思考を覗いて、拓海がこの数週間なにをしようとしていたのかを知った。
拓海はスタートを壊す計画を立て、鈴と同じ能力者を探し出そうとしていた。そのことを西松に知られないためにアルバイトを休んでいた。西松のことを恐れていたわけじゃなくて、単純に止められたくなかったようだ。そして西松が拓海の後をつけたあの日の夕方、都内のあちこちに雷が落ちた。
雷の影響でスタートは一時的に通信障害が起きて使用できなくなった。けれど直ぐに復旧して、今は問題なく使用できている。鈴も変わらず、スタートの声を聞いていた。そして拓海は現実を知った。
スタートを壊すことは、拓海が思っているよりもずっと難しかった。
拓海はスタートを壊すことを一旦諦めて、西松の元に戻ってきた。少し気まずそうな顔をして元の生活に戻ることを求める拓海を、西松はずいぶん甘いなと呆れる。同時に、戻って来てくれたことに安堵した。そしてやけに落ち着いている拓海に感心した。拓海なりに悩んで、一応は気持ちの整理ができたようだった。
子供は放っておいてもある程度成長するのを実感して、西松は自身の立場に再び疑問を抱く。思考を覗けているのになにもしてあげられなかった。また伝わる思考が嘘かもしれない可能性を考えると、もうわけがわからなくなる。じゃあいったいなにを信じればいいのかと悩んで、もう少し自分を信じられるようになれればなと思った。
人に道を示すには、自分自身がしっかりしていなければいけない。嘘つきを卒業しなければと思った。そしてこれまでついてきた多くの嘘を辿っているうちに、母親の顔がぼんやりと頭に浮かんだ。玲に母親の話をしている時は平気だったのに、今はなぜか胸が締めつけられた。会いたくないなんて、嘘だった。母親にどうしても伝えたいことがあった。
西松が今なにを考えているかなんて、拓海にわかるはずがない。母親のことを考えているなどと、想像もしていない。
黙っていたところで誰も察してくれない。自分のことは自分で口にしないと伝わらないと、西松はずいぶん前から知っていた。鈴にアドバイスをしておきながら、自分が実践していないとおかしい。
話しかけられるのを待っているような拓海に、西松は声をかける。
拓海はほとんど信じてくれないかもしれないけれど、きっと真剣に聞いてくれるだろう。そしてその口から、改めて聞きたい。ここ数日なにを考えていたのか。これからどうするつもりなのか。
特殊な能力があっても、なくても、わかり合うためには結局、とことん話すしかないのだ。