「あの、鈴さんが学校に来なかったことと関係があるのかわかりませんが、数か月前に、後輩が新宿で鈴さんを見かけたと言っていました」
「そういえば、時々どこかに出かけていたな。学校に行かなくても、コンビニとかにはしょっちゅう行っていた。その時も普通に買い物に行ったんじゃないかな。それにしても、不登校の生徒がふらふらしているとやっぱり気になるか」
「その後輩は、鈴さんの存在を知っているものの不登校になっていることは知りませんでした。だから不登校のはずの鈴さんを見かけて気になったというわけじゃないんです。その時、鈴さんは、茶髪の若い男と歩いていたそうです」
「茶髪の若い男?」
「若い男といっても、たぶん高校生じゃなくて、高そうなスーツを着ていたと後輩は言っていました。まるでホストみたいな男で、だから後輩はわざわざ私に報告してくれたんです。鈴さんはなにか危ないことに巻き込まれているんじゃないかと心配していました。私はきっと見間違えだったんだよと後輩に忘れるように言いました。変な噂が流れたら、鈴さんは余計に学校に行きづらくなるんじゃないかと思ったんです。私は鈴さんにはお兄さんがいると以前聞いていたから、スーツの男は実のお兄さんだと思うようにしていました」
「その男は、俺じゃない」
「そうみたいですね。だとしたら、男は何者なんでしょうか。もしも後輩の見間違いではなかったとしたら、鈴さんは学校以外でもなにか問題を抱えていたのかもしれません」
「なにかって、なんなんだよ。学校で起こっていたこともよくわからないのに、増々謎が増えるのかよ」
拓海は鈴がこうなった原因の根本は同級生によるいじめだと確信していた。それなのに学校関係者とは考え難い若い男の存在を教えられて眩暈がした。
「あの、私にできることがあるのならば、なんでもします。もしも鈴さんがこうなってしまった原因を調べようと思っているのならば、私に協力させてください」
知恵は、真っ直ぐと拓海を見つめて言う。
拓海はどうして鈴のことを知ってやれなかったのかと自己嫌悪に陥りながら、知恵から今やるべきことを教えられた。
鈴はどうしてこうなってしまったのかを調べる必要がある。
これまでもたくさん考えて、なんとなく原因を導き出して、だからどうするというわけでもなかった。そして今、色々と思い違いをしていたことに気づいた。
今までのままではいけない。自ら動かなければ真実はわからない。
拓海は謎を明かす決意をして、知恵とスタートのIDを交換した。
IDを交換した後、知恵は帰宅した。知恵が去ったことで、病室は急に静かになった。
拓海は沈黙を破らない鈴の頭を撫でた。そしてもしもその頭の中を覗けたらと思って、鈴の携帯電話の中身が気になった。