翌日、バイト先に事情を話して休ませてもらい、黒髪のままだが以前のように髪の毛を編んで胸の前に垂らし、ギャルメイクをした樹里と一緒に母さんに車を乗せてもらって、市役所に婚姻届を出しに行った。
 母さんはそのあと、産婦人科に行くと言うので、僕と樹里は家まで送ってもらう。

 家に入ると、樹里は僕を軽蔑したような目で見る。
「隆司のスケベ」
「いきなりなんだよ」
 昨夜のことを言っているのか?
「真面目な顔してあんないやらしいものを見てたんだ。変態」
「……」
 一瞬、樹里が何を言っているか分からなかった。
 ひょっとして……。

「机の引き出しの中を勝手に見たの?」
 紀夫からもらったDVDは机の引き出しに入れている。
「違うわよ。早く目が覚めて、暇だったから、何か読む本がないかなあと思って、本棚を見ていたら、本と本の間になんか挟まってるのが見えたのよ。なんだろうと思って取り出してみたら、いやらしい写真がいっぱい貼ったパケッジか挟まってたわよ」
 しまった!!
樹里が突然泊まっていくって言うから机の上に置いていたのを慌てて本棚に隠したのを忘れていた。
「そ、そんなものあったかな?」
 ここはしらを切り通そう。
「そう。これだけど知らないの?」
 樹里が持っていたカバンから女の人が裸でエプロンを着けている姿が大写しになったDVDのケースを出した。
「これ、本当に知らないの?」
 意地の悪い微笑みを浮かべて僕の目の前で振る。
「……」
 わざわざ持ってきたのか。

「こんなの見て興奮してアンナを抱いたの? 変態。私のことを好きだって言ったくせに。アンナなんかを抱いて!! このドスケベ」
 樹里の目が怒っていた。
 ひょっとして樹里はアンナに嫉妬しているのかな?
アンナと樹里は同じじゃないの?
「樹里、アンナに嫉妬しているの?」
 樹里が大きく目を見開いた。
「嫉妬なんかするわけないでしょ!! わたしのことを『好きだ。愛している』とか言ってよくアンナとあんなことができるわねって言ってるのよ。この浮気者」
 樹里が目を逸らした。
 明らかに嫉妬している。
 ずいぶん前にテレビで俳優が自分の演じている役に嫉妬することもあると言っていたのを思い出した。

「樹里のことを愛している。僕が樹里のことをどんなに愛しているか樹里も知っているだろう」
 樹里の手を引っ張った。
“You’re pervert , horny. You’re cheater ”
 樹里が英語で叫び出す。
 意味は全然分からないけど相当頭にきていることはわかる。
 樹里は手を振り放そうとするが、僕は負けずに引っ張って、階段を上がっていく。
「僕が樹里のことをどんなに愛しているか教えてあげるよ」
 僕の部屋に樹里を引っ張り込んだ。

「やめて。アンナとあんなことしといて」
 樹里はなおも抵抗する。
 でも、本気でないことはわかった。本気なら体格が勝る樹里に勝てるわけがない。
「いい加減に……」
 樹里の唇を唇で塞いで、ベッドに押し倒す。
「……う、うっ……」
 樹里が唇を離そうともがくが、僕は離さない。
 樹里はしばらくすると大人しくなった。
「樹里、愛してる」
 僕は唇を離した。
「バカ、変態……わたしにこんなことして浮気したら殺すからね……優しくしなさいよ」
 樹里は真っ赤に火照った顔を横に向ける。
 僕は樹里とアンナという二人の妻を持てて夢みたいだ。
 樹里、アンナ愛している!!
 僕は最高に幸せだ!!