夜は僕と樹里の結婚祝いパーティーになった。
 母さんが赤飯を炊いてくれ、得意の鳥の唐揚げ、サラダを作ってくれ、母さんからのメールで僕と樹里のことを知った父さんがケーキを買ってきてくれた。
 父さんに樹里が実はアンナさんだったという話をして、樹里と結婚したいと言うと、すぐに許してくれた。
結婚したら樹里と一緒にアメリカに住むことになる話もした。
「これからは日本も国際化していくから英語は絶対に必要だ。いい機会だ。行って来なさい」
 父さんもなんの反対もしない。
ちょっと寂しい。

 4人で話し合って、来年の春にとりあえず語学留学という形でアメリカに行くことになり、樹里は一旦アメリカに帰り、僕と住むところや留学先を探してくれることになった。
「いやあ、樹里ちゃんが娘になってくれて嬉しいよ」
 樹里を気に入っている父さんは喜んだ。
「ありがとう。おじさん……じゃなかった。お義父さん。お義父さんとお義母さんこそおめでとう。赤ちゃんができたんだって」
「ありがとう。この歳になって恥ずかしいんだけど」
 父さんが照れている。

「大したものはないけれどいっぱい食べてね」
 母さんが樹里に言う。
「うん。いただきます。やっぱりお義母さんの料理は美味しい」
 樹里は美味しそうに食べる。
「今日は泊まっていくんでしょう?」
 母さんが聞いた。
「もちろん」
 樹里がニッコリする。

「じゃあ、隆司、久しぶりに一緒に寝るか」
「そうだね」
 父さんと一緒に寝るのは小学校の低学年以来だ。
「何言っているの、父さん。隆司と樹里ちゃんはもう結婚するんだから、一緒の部屋に寝てもらえばいいのよ。いいでしょう。樹里ちゃん?」
 母さんが樹里の顔を見る。
「わたしはいいわよ。隆司が変なことさえしなければ」
 樹里が意地の悪い笑みを浮かべた。
「し、しないよ。するわけないだろう」
 顔が真っ赤になった。

「樹里ちゃんって、見かけによらず純情なのよね。大晦日のときに遅かれ早かれ結婚するんだから、泊まっていけばって言ったのに遠慮するんだもん」
 母さんが笑う。
 あの英語はそういう意味だったのか。
「あのね、お義母さん……」
 樹里が母さんを睨んだ。
「まっ、とにかく今日は泊まってらっしゃい」
 母さんがニンマリ笑った。

 ご飯も食べ終わり、お風呂に入って、樹里が僕の部屋に寝るというので慌てて掃除をした。
 母さんが「樹里ちゃんはベッドの方がいいでしょう」と言って、僕の布団とマットレスを取って、新しいマットレスと布団を敷き、ベッドの下に僕用の布団を敷いてくれている。

 メイクをすっかり落とし、アンナさんの顔になった樹里が入ってきた。
「隆司さん、失礼します」
 囁くような声がする。
 メイクを落とした樹里はアンナさんに戻っていた。
「もう寝てください。疲れたでしょう。僕がいて寝られないんなら廊下で寝ますから」
 僕が一緒にいてはゆっくり寝られないだろう。

「大丈夫です。ただ、メイクをして樹里をずっとするのは疲れるので、メイクはしなくていいですか? これからは、昼は樹里で、夜はアンナでもいいですか?」
 やっぱり、別人をやり続けるっていうのは疲れるんだろうな。
「無理しなくていいです。僕はアンナさんも好きです。ずっとアンナさんのままでいてもらっていいですから」
 アンナさんのようなタイプがもともと好きなのは本当だ。
「ごめんなさい」
 アンナさんがなぜか謝る。
「謝ることないですよ。僕は何もしませんからゆっくり寝てください」
 その気もない女の子に変なことをする気は無い。

「隆司さん。そんなこと言わないでください。アンナはもう隆司さんの妻です。隆司さんのしたいようにしてください。それとも、やっぱり樹里にならないとイヤですか? 髪を染めて、メイクをしてきましょうか?」
 アンナさんの目に涙が浮かんだ。
「そんなことないです。僕はアンナさんのことも好きです。愛してます」
 アンナさんに言った。
「アンナと呼んでください。樹里にしたように私も抱きしめてください」
「アンナ、好きだよ」
 僕は言われたとおりにアンナを抱きしめ、唇にキスしてしまう。

「隆司さんの好きなようにしてください」
 唇を離すとアンナは目を潤ませ、囁くように言う。
 あまりの可愛さに僕はゆっくりアンナをベッドに寝かせた。
「初めてなんです。優しくしてください」
 アンナがすごく愛しい。
 僕は自分が男だということを自覚した。
 その夜、紀夫がくれたDVDを見て勉強したことを実践した。