「ところで、樹里ちゃんは高校卒業すしたらどうするのかな? 隆司に聞いたんだが、アメリカに行くそうだね。留学でもするのかな?」
今まではぐらかされて聞けなかったことを父さんが聞いてくれる。
樹里はしばらく黙っていたが、重い口を開いた。
「実は、婚約者がいるの」
「ええッー」
僕は思わず叫んだ。
「でも、その婚約者はパパが勝手に決めた人で、会ったこともなかったんだけど、少し前に会ってその人はどうもわたしのことを気に入ったみたいなの」
少し前っていつ会ったんだ?
「じゃあ、その人はアメリカにいて、樹里ちゃんはその人と結婚するためにアメリカに行くのか」
父さんがそう聞くと、樹里は首をひねった。
「さあー。よくわからないんだけど、パパがいま仕事の関係でアメリカにいて、アメリカに来いって言われているの」
僕は樹里に婚約者がいると聞いてショックだった。
婚約者がいるのに僕と付き合っていたのか?
ひどいじゃないか。
「樹里ちゃんにも婚約者がいるのか」
父さんの言葉に僕は自分の立場を思い出した。
僕も許嫁がいるのに、樹里と付き合っていた。
人のことは言えない。
「だから、隆司と付き合えるのは卒業までなの」
樹里が微笑んだ。
どうせ樹里にとっては、僕は暇つぶしの相手なんだろうな。
僕の中では樹里の存在が大きくなってきてるのに。
母さんが下を向いて肩を震わせているのが見えた。
泣いているのだろうか。そんなに樹里と別れるのが悲しいのかな。
「クックックックッ」
笑いを押し殺したような声が聞こえてくる。
「なにを笑っているんだ、母さん」
父さんがびっくりしたように隣の母さんを見る。
「なんでもないの。樹里ちゃん、隆司と一緒に父智丘《ふちおか》神社に初詣に行ってきたら」
僕と樹里が食べ終わったのを見て、母さんが笑いを噛み殺しながら、樹里に言う。
「おばさん、笑いすぎよ」
樹里が不機嫌な声を出す。
「ごめんなさい。あんまり可笑しかったから。ほら、隆司、早く行って来たら」
何がそんなに可笑しいんだろう?
家を出ると、歩いて5分ぐらいにある父智丘神社に向った。
「ごめんね。母さん、失礼だよね。あんなに笑って。何がおかしかったんだろう?」
母さんの代わりに樹里に謝った。
「ううん。いいの。気にしてないわ」
気にしていないと口では言いながら、樹里は浮かない表情だ。
いつもはけっこう早く歩く樹里だが、今日は着物のせいかかなりおしとやかに歩いてる。
父智丘神社はこの辺りの氏神様なので、鳥居を通って、中に入るとかなりの人が行き交っていた。
「あら、澤田君と樹里じゃない」
聞いたことのある声が樹里を呼んだ。
「あら、真紀。おめでとう」
「おめでとう。紀夫も一緒だったんだけど、途中ではぐれちゃったのよ。見なかった?」
渡辺さんがキョロキョロと辺りを見回す。
「今来たところだからね。見なかったな」
僕は首を振った。
「そうか。どうしよう?」
渡辺さんが困った顔になる。
「鳥居のところで待っていれば? 鳥居を通らないと帰れないんだから絶対通るわよ。もし、山崎君を見たら真紀が待っていると伝えておくわ」
神社の中に入るのも外に出るのも必ず鳥居を通る。
「わかった。鳥居のところにいるわ」
ピンク地に牡丹の花が描かれた可愛い感じの振袖を着て、髪をアップにしている渡辺さんが鳥居の方へ歩いていく。
「行こう」
樹里がそっと手を引っ張る。
全国の有名神社ほどではないが、それなりに人出があるので、拝殿まで列ができている。
僕と樹里は列の一番後ろに並んだ。
「樹里の婚約者ってどんな人?」
樹里が言っていた婚約者のことがずっと気になっていた。
「気になる?」
意地の悪い笑みを浮かべている。
「会って話をしたの?」
「話したわよ。全然イケメンじゃないし、カッコ良くもないけど、優しい人よ。好きだとかは言ってくれないけど、わたしのことをすごく思ってくれてるんだなあっていうのは態度でわかるの」
最近、会ったと言ってたけど、僕と付き合う前のことだろうか?
いつ会ったんだろうか?
「樹里はその人のこと好きなの?」
だんだんイライラしてくる。
「そうねえ。その人が愛していると言ってギュッと抱きしめてくれて、結婚してくれって言われたら、堕ちちゃうかも」
胸が締め付けられそうになった。
だが、樹里に何も言うことはできない。
僕にも許嫁がいる。
樹里と僕はW不倫ということか?
あと3ヶ月もすれば卒業だ。卒業すれば樹里はアメリカに行き、僕は許嫁と婚約か結婚かすることになる。
どう足掻いてもそういう運命だ。
それなら今この時を楽しもう。
嫉妬とかするよりも今、樹里といれることを喜ぼうと思った。
そんなことを考えているうちに僕と樹里が拝殿の前に立つ順番になった。
僕は自分と家族の健康と幸せを祈り、そして、樹里が幸せになることを祈った。
隣の樹里は何を祈っているのだろうか?
今まではぐらかされて聞けなかったことを父さんが聞いてくれる。
樹里はしばらく黙っていたが、重い口を開いた。
「実は、婚約者がいるの」
「ええッー」
僕は思わず叫んだ。
「でも、その婚約者はパパが勝手に決めた人で、会ったこともなかったんだけど、少し前に会ってその人はどうもわたしのことを気に入ったみたいなの」
少し前っていつ会ったんだ?
「じゃあ、その人はアメリカにいて、樹里ちゃんはその人と結婚するためにアメリカに行くのか」
父さんがそう聞くと、樹里は首をひねった。
「さあー。よくわからないんだけど、パパがいま仕事の関係でアメリカにいて、アメリカに来いって言われているの」
僕は樹里に婚約者がいると聞いてショックだった。
婚約者がいるのに僕と付き合っていたのか?
ひどいじゃないか。
「樹里ちゃんにも婚約者がいるのか」
父さんの言葉に僕は自分の立場を思い出した。
僕も許嫁がいるのに、樹里と付き合っていた。
人のことは言えない。
「だから、隆司と付き合えるのは卒業までなの」
樹里が微笑んだ。
どうせ樹里にとっては、僕は暇つぶしの相手なんだろうな。
僕の中では樹里の存在が大きくなってきてるのに。
母さんが下を向いて肩を震わせているのが見えた。
泣いているのだろうか。そんなに樹里と別れるのが悲しいのかな。
「クックックックッ」
笑いを押し殺したような声が聞こえてくる。
「なにを笑っているんだ、母さん」
父さんがびっくりしたように隣の母さんを見る。
「なんでもないの。樹里ちゃん、隆司と一緒に父智丘《ふちおか》神社に初詣に行ってきたら」
僕と樹里が食べ終わったのを見て、母さんが笑いを噛み殺しながら、樹里に言う。
「おばさん、笑いすぎよ」
樹里が不機嫌な声を出す。
「ごめんなさい。あんまり可笑しかったから。ほら、隆司、早く行って来たら」
何がそんなに可笑しいんだろう?
家を出ると、歩いて5分ぐらいにある父智丘神社に向った。
「ごめんね。母さん、失礼だよね。あんなに笑って。何がおかしかったんだろう?」
母さんの代わりに樹里に謝った。
「ううん。いいの。気にしてないわ」
気にしていないと口では言いながら、樹里は浮かない表情だ。
いつもはけっこう早く歩く樹里だが、今日は着物のせいかかなりおしとやかに歩いてる。
父智丘神社はこの辺りの氏神様なので、鳥居を通って、中に入るとかなりの人が行き交っていた。
「あら、澤田君と樹里じゃない」
聞いたことのある声が樹里を呼んだ。
「あら、真紀。おめでとう」
「おめでとう。紀夫も一緒だったんだけど、途中ではぐれちゃったのよ。見なかった?」
渡辺さんがキョロキョロと辺りを見回す。
「今来たところだからね。見なかったな」
僕は首を振った。
「そうか。どうしよう?」
渡辺さんが困った顔になる。
「鳥居のところで待っていれば? 鳥居を通らないと帰れないんだから絶対通るわよ。もし、山崎君を見たら真紀が待っていると伝えておくわ」
神社の中に入るのも外に出るのも必ず鳥居を通る。
「わかった。鳥居のところにいるわ」
ピンク地に牡丹の花が描かれた可愛い感じの振袖を着て、髪をアップにしている渡辺さんが鳥居の方へ歩いていく。
「行こう」
樹里がそっと手を引っ張る。
全国の有名神社ほどではないが、それなりに人出があるので、拝殿まで列ができている。
僕と樹里は列の一番後ろに並んだ。
「樹里の婚約者ってどんな人?」
樹里が言っていた婚約者のことがずっと気になっていた。
「気になる?」
意地の悪い笑みを浮かべている。
「会って話をしたの?」
「話したわよ。全然イケメンじゃないし、カッコ良くもないけど、優しい人よ。好きだとかは言ってくれないけど、わたしのことをすごく思ってくれてるんだなあっていうのは態度でわかるの」
最近、会ったと言ってたけど、僕と付き合う前のことだろうか?
いつ会ったんだろうか?
「樹里はその人のこと好きなの?」
だんだんイライラしてくる。
「そうねえ。その人が愛していると言ってギュッと抱きしめてくれて、結婚してくれって言われたら、堕ちちゃうかも」
胸が締め付けられそうになった。
だが、樹里に何も言うことはできない。
僕にも許嫁がいる。
樹里と僕はW不倫ということか?
あと3ヶ月もすれば卒業だ。卒業すれば樹里はアメリカに行き、僕は許嫁と婚約か結婚かすることになる。
どう足掻いてもそういう運命だ。
それなら今この時を楽しもう。
嫉妬とかするよりも今、樹里といれることを喜ぼうと思った。
そんなことを考えているうちに僕と樹里が拝殿の前に立つ順番になった。
僕は自分と家族の健康と幸せを祈り、そして、樹里が幸せになることを祈った。
隣の樹里は何を祈っているのだろうか?