「隆司、また来年な」
今年最後の終礼が終わると、紀夫が立ち上がった。
「ああ、来年」
「澤田君、いいお年を」
渡辺さんが紀夫の腕に腕を絡めて、紀夫と一緒に歩いていく。
渡辺さんがこんな積極的な人だとは思わなかった。もっとツンと澄ました人だと思ってたんだけど……。
紀夫と渡辺さんが教室を出て行くのと入れ違いに樹里が入ってきた。
渡辺さんが樹里とすれ違う時に何か言っているのが見える。
「あの2人付き合うことにしたんだ」
「そうみたいだね。渡辺さんはさっきなんて言ってたの?」
樹里を見ると、ドキドキする。
今までこんなことなかったのに。
「『ありがとう』って。どうしたの? 顔赤いわよ。熱でもあるの?」
「なんでもないよ。帰ろう」
腕を樹里の腕に絡める。
「今日はいやに積極的ね。腕を組んでくるなんて。今まではわたしから手を繋いでも嫌そうだったのに」
校門を出ると、樹里が揶揄うように言う。
嘘だ。今まで嫌がったことはない。
「紀夫と渡辺さんが樹里の言う通りになったからびっくりしたよ」
これ以上追求されないように話題を変えた。
「当然よ。隆司は観察力が足りないのよ」
「そうかな?」
ちゃんと観察しているつもりだけどな。
「ところで、樹里はお正月どうするの? 実家に帰るの?」
「帰らない。たぶん一人寂しく家で正月を迎えるわ。カレシからなんのお誘いもないから」
皮肉を言う。
「ゴホン。母さんが実家に帰らないならウチに来ないかって言ってるんだけど……」
僕はわざとらしい咳払いをする。
「へ〜え。おばさんがねえー……へえー。隆司は別に来て欲しくないんだ」
樹里が目を細める。
「も、もちろん、僕も樹里に来て欲しいよ」
「本当に?」
樹里の右の眉が上がる。
「本当だよ。樹里と一緒に初詣に行きたいし」
一緒に初詣に行けると思うとすごく楽しみだ。
「そんなに隆司が来て欲しいんなら行ってあげるわ」
樹里が目を輝かせる。
「じゃー、母さんにそう言っとくよ」
「いつ行ったらいいか聞いといて。特に予定がないからいつでもいいわ」
「わかった。また電話する」
樹里の振袖姿を想像しながらウキウキした気分で家に帰った。
家に帰ると、母さんに樹里が正月に来ることを伝えた。
「年越しそばも食べに来るように言っといて。張り切って作るから」
「わかった。それと明日から陽子叔母さんのお店の手伝いに行くから」
「陽子さんのところへ? どうして?」
嫌いな父さんの妹の名前が出たので母さんの顔が渋くなる。
「叔母さん、年末で家のこともしないといけないのに、お店も忙しいらしいから、朝から夕方まで手伝いをすることにしたんだ」
叔母さんの旦那さんはコンビニの店長をしていて、夜中はアルバイトを雇っているが、朝からバイトの人が来るまでは叔母さんと旦那さんで切り盛りをしている。
「どうして陽子さんの手伝いをしないといけないの。そんな暇があるなら、家の手伝いをしなさい」
母さんの機嫌は悪い。
「樹里にいろいろしてもらってるからプレゼントをしたいんだ。お小遣いを稼ごうと思って、叔母さんに頼んだんだ」
僕は毎月のお小遣いというのは貰っていない。必要なときにその都度母さんに言ってお金をもらっているので、余分なお金を持っていない。
樹里が毎日お弁当を作ってくれたので、毎日もらう昼飯代が貯まっていたが、この間まとめて母さんに返したから、樹里にプレゼントを買うお金が無い。
そこで、昨晩、叔母さんに電話して、アルバイトをしたいと言った。
子どものいない叔母さんは小さいときから僕を子どものように可愛いがってくれている。
叔母さんが旦那さんに頼んでくれて、雇ってくれることになった。
「仕方ないわね。いつまで行くの?」
母さんがため息をつく。
「30日まで」
大晦日には家の用事も済んでお店に出れるはずだから、30日まででいいと叔母さんに言われた。
「大晦日は家の手伝いをするのよ」
母さんは渋々という感じで認めてくれた。
今年最後の終礼が終わると、紀夫が立ち上がった。
「ああ、来年」
「澤田君、いいお年を」
渡辺さんが紀夫の腕に腕を絡めて、紀夫と一緒に歩いていく。
渡辺さんがこんな積極的な人だとは思わなかった。もっとツンと澄ました人だと思ってたんだけど……。
紀夫と渡辺さんが教室を出て行くのと入れ違いに樹里が入ってきた。
渡辺さんが樹里とすれ違う時に何か言っているのが見える。
「あの2人付き合うことにしたんだ」
「そうみたいだね。渡辺さんはさっきなんて言ってたの?」
樹里を見ると、ドキドキする。
今までこんなことなかったのに。
「『ありがとう』って。どうしたの? 顔赤いわよ。熱でもあるの?」
「なんでもないよ。帰ろう」
腕を樹里の腕に絡める。
「今日はいやに積極的ね。腕を組んでくるなんて。今まではわたしから手を繋いでも嫌そうだったのに」
校門を出ると、樹里が揶揄うように言う。
嘘だ。今まで嫌がったことはない。
「紀夫と渡辺さんが樹里の言う通りになったからびっくりしたよ」
これ以上追求されないように話題を変えた。
「当然よ。隆司は観察力が足りないのよ」
「そうかな?」
ちゃんと観察しているつもりだけどな。
「ところで、樹里はお正月どうするの? 実家に帰るの?」
「帰らない。たぶん一人寂しく家で正月を迎えるわ。カレシからなんのお誘いもないから」
皮肉を言う。
「ゴホン。母さんが実家に帰らないならウチに来ないかって言ってるんだけど……」
僕はわざとらしい咳払いをする。
「へ〜え。おばさんがねえー……へえー。隆司は別に来て欲しくないんだ」
樹里が目を細める。
「も、もちろん、僕も樹里に来て欲しいよ」
「本当に?」
樹里の右の眉が上がる。
「本当だよ。樹里と一緒に初詣に行きたいし」
一緒に初詣に行けると思うとすごく楽しみだ。
「そんなに隆司が来て欲しいんなら行ってあげるわ」
樹里が目を輝かせる。
「じゃー、母さんにそう言っとくよ」
「いつ行ったらいいか聞いといて。特に予定がないからいつでもいいわ」
「わかった。また電話する」
樹里の振袖姿を想像しながらウキウキした気分で家に帰った。
家に帰ると、母さんに樹里が正月に来ることを伝えた。
「年越しそばも食べに来るように言っといて。張り切って作るから」
「わかった。それと明日から陽子叔母さんのお店の手伝いに行くから」
「陽子さんのところへ? どうして?」
嫌いな父さんの妹の名前が出たので母さんの顔が渋くなる。
「叔母さん、年末で家のこともしないといけないのに、お店も忙しいらしいから、朝から夕方まで手伝いをすることにしたんだ」
叔母さんの旦那さんはコンビニの店長をしていて、夜中はアルバイトを雇っているが、朝からバイトの人が来るまでは叔母さんと旦那さんで切り盛りをしている。
「どうして陽子さんの手伝いをしないといけないの。そんな暇があるなら、家の手伝いをしなさい」
母さんの機嫌は悪い。
「樹里にいろいろしてもらってるからプレゼントをしたいんだ。お小遣いを稼ごうと思って、叔母さんに頼んだんだ」
僕は毎月のお小遣いというのは貰っていない。必要なときにその都度母さんに言ってお金をもらっているので、余分なお金を持っていない。
樹里が毎日お弁当を作ってくれたので、毎日もらう昼飯代が貯まっていたが、この間まとめて母さんに返したから、樹里にプレゼントを買うお金が無い。
そこで、昨晩、叔母さんに電話して、アルバイトをしたいと言った。
子どものいない叔母さんは小さいときから僕を子どものように可愛いがってくれている。
叔母さんが旦那さんに頼んでくれて、雇ってくれることになった。
「仕方ないわね。いつまで行くの?」
母さんがため息をつく。
「30日まで」
大晦日には家の用事も済んでお店に出れるはずだから、30日まででいいと叔母さんに言われた。
「大晦日は家の手伝いをするのよ」
母さんは渋々という感じで認めてくれた。