「なによ。あれ」
樹里が不満そうな顔をする。
「紀夫、カノジョに振られたんだ」
「それで機嫌が悪いわけ?」
「そう。クリスマス祭に行こうって誘われて断ったから、余計に機嫌が悪くなったみたい」
「クリスマス祭か。行ったことないし、行ってみようかな」
意外なことを言う。
「行ったことないって、去年は2年生だったから強制参加だっただろ」
「わたしが行ったら、クラスの雰囲気が悪くなるから行かなかったのよ」
クリスマス祭では各クラスで工夫を凝らして催し物をする。樹里はクラスでは浮いた存在だから参加しなかったんだろう。
「それよりどうだった?」
樹里が僕の頬をそっと撫でる。
「骨は折れてないから時間が経てば治るだろうって言われた」
「よかった」
ホッとした顔をする。
「お兄さんからもらったお金で病院代払ったから、お釣りを返すよ。お兄さんに返しておいて」
領収書とお釣りを樹里に差し出した。
「お兄ちゃんは昨日の飛行機でアメリカに帰ったから返せないわよ」
「そうなの? 今度、会う時に返しておいて」
「もらっとくわ」
樹里は受け取った。本当に返すか不安だが、そこは追及しないでおこう。
「仲のいいこと」
渡辺さんが嫌味な口調で僕たちの横を通った。
「渡辺さん」
樹里が呼び止めた。
なんで呼び止めるんだ。また喧嘩になるのに。
「なによ?!」
渡辺さんが険のある声を出す。
「名前なんだったけ?」
まるで友達のように聞く。
「なんであなたに教えないといけないの?」
「いいじゃない。教えてくれても。減るものじゃないし」
「真紀よ」
「真紀、クリスマス祭に一緒に行かない?」
仲悪いのになんで誘ってんの。
「樹里……」
口を挟もうとしたら鋭い一瞥を投げられた。こ、怖い。
「なんで呼び捨てなのよ。それにどうしてあんたたちとクリスマス祭に行かないといけないのよ」
渡辺さんは怒ったように言う。
「山崎君も来るから、真紀もどうかなと思って。山崎君、カノジョに振られたんだって」
樹里がニンマリと笑う。
何か嫌な笑いだ。
紀夫が来るからって渡辺さんには関係ないだろう。
あれ、渡辺さんが赤くなっている。
「か、考えとくわ」
渡辺さんは真っ赤な顔で俯いた。
「そう。一緒に行くんだったら、隆司に言って」
「わかったわ」
渡辺さんは下を向いたまま帰っていってしまった。渡辺さんはどうしたんだろう。
「わたしたちも帰ろう」
樹里が僕の手を取った。
「そうだね」
僕は立ち上がった。学校に来たと思ったらもう帰るという感じで、今日は学校へ何しに来たのかよくわからない。
「でも、本当に良かったわ。大したことなくて」
樹里が僕の頬を見てホッとした顔をする。
「そうそう。スリッポンとガウンどうしよう?」
「スリッポンはあげるわ。あれ、まだ履いたことないから。ガウンは処分したわ」
「買い取ろうと思ったのに」
「あれ女物よ」
「母さんに着てもらおうと思って」
「隆司が裸で着たのを?」
呆れたように言う。
「ちゃんとクリーニングに出してからだよ」
僕は真っ赤になった。
「隆司はマザコンだ」
樹里が揶揄うように笑った。
「違うよ」
必死に否定する。
「まあいいわ。マザコンのカレシでも。じゃあ、山崎君にクリスマス祭に行くって言っといて。そうね。待ち合わせ時間は10時にしましょう。その日はモーニングコールはいらないから、9時30分に迎えに来てよ。来なかったら怒るからね」
いつのまにか樹里のマンションの前に来ていた。
「うん。わかった」
「それと隆司は制服で来て。ブレザーだからちょうどいいわ」
手を振ってマンションの中に入っていく。
1、2年生はクリスマス祭に制服で参加するよう義務づけられているが、3年生は自由参加なので、私服で参加していい。
なぜ樹里は制服で来いと言ったのっだろう。
僕にはわからない。
樹里が不満そうな顔をする。
「紀夫、カノジョに振られたんだ」
「それで機嫌が悪いわけ?」
「そう。クリスマス祭に行こうって誘われて断ったから、余計に機嫌が悪くなったみたい」
「クリスマス祭か。行ったことないし、行ってみようかな」
意外なことを言う。
「行ったことないって、去年は2年生だったから強制参加だっただろ」
「わたしが行ったら、クラスの雰囲気が悪くなるから行かなかったのよ」
クリスマス祭では各クラスで工夫を凝らして催し物をする。樹里はクラスでは浮いた存在だから参加しなかったんだろう。
「それよりどうだった?」
樹里が僕の頬をそっと撫でる。
「骨は折れてないから時間が経てば治るだろうって言われた」
「よかった」
ホッとした顔をする。
「お兄さんからもらったお金で病院代払ったから、お釣りを返すよ。お兄さんに返しておいて」
領収書とお釣りを樹里に差し出した。
「お兄ちゃんは昨日の飛行機でアメリカに帰ったから返せないわよ」
「そうなの? 今度、会う時に返しておいて」
「もらっとくわ」
樹里は受け取った。本当に返すか不安だが、そこは追及しないでおこう。
「仲のいいこと」
渡辺さんが嫌味な口調で僕たちの横を通った。
「渡辺さん」
樹里が呼び止めた。
なんで呼び止めるんだ。また喧嘩になるのに。
「なによ?!」
渡辺さんが険のある声を出す。
「名前なんだったけ?」
まるで友達のように聞く。
「なんであなたに教えないといけないの?」
「いいじゃない。教えてくれても。減るものじゃないし」
「真紀よ」
「真紀、クリスマス祭に一緒に行かない?」
仲悪いのになんで誘ってんの。
「樹里……」
口を挟もうとしたら鋭い一瞥を投げられた。こ、怖い。
「なんで呼び捨てなのよ。それにどうしてあんたたちとクリスマス祭に行かないといけないのよ」
渡辺さんは怒ったように言う。
「山崎君も来るから、真紀もどうかなと思って。山崎君、カノジョに振られたんだって」
樹里がニンマリと笑う。
何か嫌な笑いだ。
紀夫が来るからって渡辺さんには関係ないだろう。
あれ、渡辺さんが赤くなっている。
「か、考えとくわ」
渡辺さんは真っ赤な顔で俯いた。
「そう。一緒に行くんだったら、隆司に言って」
「わかったわ」
渡辺さんは下を向いたまま帰っていってしまった。渡辺さんはどうしたんだろう。
「わたしたちも帰ろう」
樹里が僕の手を取った。
「そうだね」
僕は立ち上がった。学校に来たと思ったらもう帰るという感じで、今日は学校へ何しに来たのかよくわからない。
「でも、本当に良かったわ。大したことなくて」
樹里が僕の頬を見てホッとした顔をする。
「そうそう。スリッポンとガウンどうしよう?」
「スリッポンはあげるわ。あれ、まだ履いたことないから。ガウンは処分したわ」
「買い取ろうと思ったのに」
「あれ女物よ」
「母さんに着てもらおうと思って」
「隆司が裸で着たのを?」
呆れたように言う。
「ちゃんとクリーニングに出してからだよ」
僕は真っ赤になった。
「隆司はマザコンだ」
樹里が揶揄うように笑った。
「違うよ」
必死に否定する。
「まあいいわ。マザコンのカレシでも。じゃあ、山崎君にクリスマス祭に行くって言っといて。そうね。待ち合わせ時間は10時にしましょう。その日はモーニングコールはいらないから、9時30分に迎えに来てよ。来なかったら怒るからね」
いつのまにか樹里のマンションの前に来ていた。
「うん。わかった」
「それと隆司は制服で来て。ブレザーだからちょうどいいわ」
手を振ってマンションの中に入っていく。
1、2年生はクリスマス祭に制服で参加するよう義務づけられているが、3年生は自由参加なので、私服で参加していい。
なぜ樹里は制服で来いと言ったのっだろう。
僕にはわからない。