「そうは言っても、隆司も自業自得っていうところもあるわね。治療費も払ってくれるというし、仕方ないわね。この話はこれぐらいでいいでしょう。ご飯はまだ食べてないんでしょう? 石野さんたちも食べて帰って」
 母さんも父さんもはっきりしている。たとえ、自分の息子でも悪いことは悪いとはっきり言う。

「いえ。これ以上ご迷惑をおかけしては申し訳ありません。謝りに来ただけですから、すぐにお暇します。帰れば、樹里が作りますから大丈夫です」
 見かけはともかく、幸雄さんは意外とちゃんとしている。

「何言っているの。遠慮することはないわ。食べていきなさい。樹里さんとも話をしてみたいわ。ねえ、お父さん」
 母さんは父さんに同意を求める。
「そうだ。食べていきなさい」
 父さんも同調する。

「今から作ったら、遅くなるだろう。いつもお弁当作ってもらっているし、食べていってよ」
 僕は樹里に言った。
「でも……」
 樹里が渋る。

「お弁当を作ってもらっている? 隆司、どういうこと?」
 母さんが聞き咎めた。口がすべった。仕方なく樹里にお弁当を作ってもらっていることを話した。
「そんなことまでしてもらっているの? ごめんなさい。樹里さん。迷惑かけているみたいで」
「迷惑なんてことないですけど。わたしの分を作るついでですし」
 なんか樹里が緊張しているみたいだ。いつもと言葉遣いが違う。

「隆司がそんなに世話になっているんだったら、是非とも食べて帰ってもらわないとな」
 父さんも樹里たちに勧める。
「兄さん。ここまで言ってもらったら、食べて帰ろう」
 樹里が諦めたように言った。
「だがなぁ……」
 幸雄さんは困った顔になる。
「まあ、そう言わず、食べていって。大したものはないけど」
 母さんがなおも勧める。

「そうですか。では、ご馳走になります」
 幸雄さんが言った。
「どうぞ」
 母さんはご飯をよそう。

「この唐揚げ美味しいです」
 樹里が感激したように言う。樹里の唐揚げも美味しいが、母さんも負けていない。
「褒めてもらえて嬉しいわ。どんどん食べてね」
 母さんが微笑んだ。

「そうか。幸雄君はアメリカに住んでるんだ」
 父さんが幸男さんと話をしている。
「そうです。たまたま日本に仕事で来る用事があって樹里の家に寄ったら、息子さんがガウン1つでいるんで、ついカッとなって、すみませんでした」
「いや。わかる。わかる妹は可愛いよね」
「可愛いです。もう樹里の小さい時は可愛くて、可愛くて」
 妹LOVEの2人は妹の話で盛り上がっていた。

「何言ってるんだか」
 一人っ子の母さんは鼻白んだ。
「幸雄さんってアメリカで働いているの?」
 僕は樹里を見た。てっきり危ない仕事をしている人だと思っていた。
「そうよ。大学を卒業してアメリカで仕事をしているの」
「大学を卒業して?」
 たしか樹里と幸雄さんは3つ違いと聞いていたような気がするけど。年齢からいったら、大学生のはずだが。

「お兄ちゃんはアメリカで中学を卒業して、飛び級で大学に行ったの」
 飛び級なんてすごい。僕なんてやっと推薦で大学に合格したのに。
「へえ。すごいね。だから、樹里もさっきお兄さんと英語で喋ってたんだ」
 樹里はお兄さんと英語で話しをしていた。
「えっ……う、うん。お兄ちゃんに教えてもらって、少しだけ私も喋れるようになったの」
 樹里の歯切れが悪い。

「お兄さん、優秀なのね」
 母さんも感心したように言う。
「そうですか? わたしはこの唐揚げを作れる方が凄いと思いますけど」
 樹里が盛んに唐揚げを褒める。
「作り方を教えてあげましょうか? また今度いらっしゃい」
「本当? いいんですか?」
 どうやら樹里は唐揚げの作り方を知りたいみたいだ。樹里の唐揚げも十分美味しいけど。

「母さん。いいのか?」
 父さんが心配そうに言う。心配して当然だ。僕には許嫁がいる。このまま樹里と付き合うのは許嫁に悪い。だから付き合いをやめようと思ったんだ。
「卒業式までならいいんじゃない?」
 母さんがにっこり笑う。
「まあ、母さんがそう言うならいいが」
 父さんは納得のいかない顔をしている。

「またいつでもいらっしゃい」
 母さんは樹里に微笑んだ。
「ありがとうございます」
 樹里が礼を言う。
「私、樹里さんのことを気に入ったみたい」
「そうなの?」
 僕はビックリした。髪を染めて、ギャルメイクをしている樹里は母さんの嫌いなタイプだと思ってたけど。

「本当にすみませんでした。ご馳走にまでなって申し訳ありません。これは治療代です。足りなければ、樹里に言ってください。足りない分は樹里に送りますから」
 食事が終わると、幸雄さんはテーブルに1万円札を置いた。
「わかりました」
 母さんは頷いた。

 僕と父さんと母さんは玄関まで樹里たちを見送りに出た。
「本当にごめんね」
 樹里は僕に謝った。
「もう大丈夫だから。また明日」
「うん」
 樹里とお兄さんは帰っていた。