「だったら、約束どおりこれからも当番をちゃんとするし、委員会にも出るわ。それなら、振られる理由はないわよね」
樹里は当然という顔をする。
よっぽど振られることがイヤみたいだ。
「どうして僕にそんなにこだわるの? 樹里なら僕よりカッコいいイケメンといくらでも付き合えるだろう?」
樹里なら僕よりもっといい男と付き合えるはずだし、実際に付き合っていた。
それなのに樹里がどうして僕との付き合いにこだわるのか分からない。
「別にこだわってないわ。ただ、振られるのがイヤなだけよ。それに隆司は今までにない変わったタイプだから、面白いもん」
樹里が屈託なく笑う。
「でも、僕と付き合っててもつまらないでしょう」
自分が女性に好まれるタイプではないことは百も承知だ。
「今まで付き合った男子はだいたいすぐにキスしたがったり、家に連れ込んでSEXしようとしたりするのばかりだったけど、隆司はそんな素振りを見せないから新鮮なのよ。キスは一度したけどね」
あんまりいい人とは付き合ってなかったみたいだ。
僕だって、もちろんSEXに興味がないわけではない。
だが、お互いに心から好きだと思っている相手以外とそんなことをしようとは思わない。
喧嘩を止めるためとはいえ、樹里とキスしたのは軽はずみなことをしたと後悔している。
でも、喧嘩を止めるためだけにキスしたわけではない。
僕の中で広がってきた樹里への想いがあったことは否定しようがない。
「でも、やっぱり無理だよ。このまま付き合うのは許嫁を裏切っているようで悪い。本当にごめん。気がすむなら殴ってもいいよ」
樹里と付き合うことはやはり許嫁に悪い。少々痛い思いをしても仕方がない。
「その子が来るのは春なのよね」
樹里は確かめるように言った。
「そうだよ」
僕は頷いた。
「だったら、付き合うのは卒業まででいいよ。それにその方がその子のためにもなると思うわよ」
「どうして?」
なんで樹里と付き合うことが許嫁のためになるんだ?
「だって、隆司はあんまり女の子と付き合ったことないから、女の子のことよく分からないでしょう?」
「う、うん」
年齢と同じだけカノジョいない歴の僕が女の子の気持ちがわかるわけがない。
「そんな女の子の気持ちもわからない隆司と結婚したらその子がかわいそうだよ」
「そ、そうだね」
そう言われればその通りだが、すごい言われようだ。
「わたしと付き合えば少しは女心もわかるようになるでしょう。だったらその子にとってもいいことじゃない」
「う、う〜ん」
樹里の性格はあまりにも特殊すぎると思うんだけど。
「それに、わたしもそのつもりだったし」
何気無く樹里が言った。
「そのつもりだったってどういう意味?」
「あれっ? 言ってなかったけ」
「聞いてない」
首を横に振った。そんな話は一言も聞いていない。
「おかしいな。言ったつもりだったんだけど……」
納得のいかない顔をしている。
「聞いてない」
テープのように繰り返す。
「卒業したら、アメリカに行くの」
アメリカへ行くなんて初耳だ。
大体、進路のことを聞いても「ヒミツ」とか言って教えてくれなかったじゃないか。
「アメリカって……留学?」
樹里の家は金持ちのようだ。留学させるぐらいなんでもないだろう。
「えっ? 留学じゃないんだけど。えーっと……」
樹里は何かブツブツ口の中で言いながら、突然空を見上げた。
しばらくすると、樹里の目の端から涙がこぼれ落ちてくる。
あの樹里が涙を流すなんて。
何かよっぽど言いたくない事情があるんだろう。
余計なことを聞いてしまった。
「ごめん。言いたくないなら別に言わなくていいよ」
慌てて言った。
「そうだ。期末テストは終わったし、大学も通ったから、隆司は週末暇でしょう?」
「別に用事はないけど」
受験勉強もする必要がなくなったし、遊びに行く予定もない。せいぜい母さんに頼まれて買い物に一緒に行くぐらいだろう。
「土曜日に映画を見に行こうよ」
「映画?」
映画と樹里のアメリカ行きと何か関係があるのだろうか?
「そう。駅前に2時。待ってるからね。寒いから教室に戻るわ」
樹里は一方的に言うと、教室に戻って行った。
なぜアメリカに行くか何も答えてくれなかったので理由はわからないが、きっと映画を見ればわかるということなんだろう。
でも、これってデートじゃないのか?
付き合うのをやめようと言いに来て、なんで僕はデートの約束をしているんだろう。
いや。これはデートじゃない。アメリカに行く理由を聞いた以上、僕にはその答えを聞く義務があるんだ。
僕は自分にそう言い聞かせた。
樹里は当然という顔をする。
よっぽど振られることがイヤみたいだ。
「どうして僕にそんなにこだわるの? 樹里なら僕よりカッコいいイケメンといくらでも付き合えるだろう?」
樹里なら僕よりもっといい男と付き合えるはずだし、実際に付き合っていた。
それなのに樹里がどうして僕との付き合いにこだわるのか分からない。
「別にこだわってないわ。ただ、振られるのがイヤなだけよ。それに隆司は今までにない変わったタイプだから、面白いもん」
樹里が屈託なく笑う。
「でも、僕と付き合っててもつまらないでしょう」
自分が女性に好まれるタイプではないことは百も承知だ。
「今まで付き合った男子はだいたいすぐにキスしたがったり、家に連れ込んでSEXしようとしたりするのばかりだったけど、隆司はそんな素振りを見せないから新鮮なのよ。キスは一度したけどね」
あんまりいい人とは付き合ってなかったみたいだ。
僕だって、もちろんSEXに興味がないわけではない。
だが、お互いに心から好きだと思っている相手以外とそんなことをしようとは思わない。
喧嘩を止めるためとはいえ、樹里とキスしたのは軽はずみなことをしたと後悔している。
でも、喧嘩を止めるためだけにキスしたわけではない。
僕の中で広がってきた樹里への想いがあったことは否定しようがない。
「でも、やっぱり無理だよ。このまま付き合うのは許嫁を裏切っているようで悪い。本当にごめん。気がすむなら殴ってもいいよ」
樹里と付き合うことはやはり許嫁に悪い。少々痛い思いをしても仕方がない。
「その子が来るのは春なのよね」
樹里は確かめるように言った。
「そうだよ」
僕は頷いた。
「だったら、付き合うのは卒業まででいいよ。それにその方がその子のためにもなると思うわよ」
「どうして?」
なんで樹里と付き合うことが許嫁のためになるんだ?
「だって、隆司はあんまり女の子と付き合ったことないから、女の子のことよく分からないでしょう?」
「う、うん」
年齢と同じだけカノジョいない歴の僕が女の子の気持ちがわかるわけがない。
「そんな女の子の気持ちもわからない隆司と結婚したらその子がかわいそうだよ」
「そ、そうだね」
そう言われればその通りだが、すごい言われようだ。
「わたしと付き合えば少しは女心もわかるようになるでしょう。だったらその子にとってもいいことじゃない」
「う、う〜ん」
樹里の性格はあまりにも特殊すぎると思うんだけど。
「それに、わたしもそのつもりだったし」
何気無く樹里が言った。
「そのつもりだったってどういう意味?」
「あれっ? 言ってなかったけ」
「聞いてない」
首を横に振った。そんな話は一言も聞いていない。
「おかしいな。言ったつもりだったんだけど……」
納得のいかない顔をしている。
「聞いてない」
テープのように繰り返す。
「卒業したら、アメリカに行くの」
アメリカへ行くなんて初耳だ。
大体、進路のことを聞いても「ヒミツ」とか言って教えてくれなかったじゃないか。
「アメリカって……留学?」
樹里の家は金持ちのようだ。留学させるぐらいなんでもないだろう。
「えっ? 留学じゃないんだけど。えーっと……」
樹里は何かブツブツ口の中で言いながら、突然空を見上げた。
しばらくすると、樹里の目の端から涙がこぼれ落ちてくる。
あの樹里が涙を流すなんて。
何かよっぽど言いたくない事情があるんだろう。
余計なことを聞いてしまった。
「ごめん。言いたくないなら別に言わなくていいよ」
慌てて言った。
「そうだ。期末テストは終わったし、大学も通ったから、隆司は週末暇でしょう?」
「別に用事はないけど」
受験勉強もする必要がなくなったし、遊びに行く予定もない。せいぜい母さんに頼まれて買い物に一緒に行くぐらいだろう。
「土曜日に映画を見に行こうよ」
「映画?」
映画と樹里のアメリカ行きと何か関係があるのだろうか?
「そう。駅前に2時。待ってるからね。寒いから教室に戻るわ」
樹里は一方的に言うと、教室に戻って行った。
なぜアメリカに行くか何も答えてくれなかったので理由はわからないが、きっと映画を見ればわかるということなんだろう。
でも、これってデートじゃないのか?
付き合うのをやめようと言いに来て、なんで僕はデートの約束をしているんだろう。
いや。これはデートじゃない。アメリカに行く理由を聞いた以上、僕にはその答えを聞く義務があるんだ。
僕は自分にそう言い聞かせた。