♪side:樋口翔太 エピローグ

「物語の終わりっていうのは、もっとずっと劇的だと思ってた」

どうだったかな。
これが、みんなに伝えたかった僕の物語だ。音を失っていた僕とあの子との小さな、でも美しかったはずの恋の物語と、未咲と僕のこれからの話だ。
これからの話はまた今度、いつか話そうと思う。
結局僕は、今もあの時と変わらず「後悔」っていう言葉は土砂降りの雨と同じくらい大嫌いなはずなのに、たまに後悔してしまうことがある。たらればを言っても仕方がないってことは自分が一番よく分かっているのに。分かっているから、余計に後悔をしている自分にうんざりしてしまう。
だから、せめて少しだけでも、ポジティブに考えることにしようと思った。
彼女がいなくなった。じゃなくて。いなくなってしまったけど、そのうえで、距離と悲劇を乗り越えて、今がある。
そうだよ。
星が笑うこと。君が瞬くこと。流れていくあの星に未咲との将来を誓うこと。この広い星のどこか遠くで戦争が起こること。ずっと毎日好きな人に好きと伝えること。怪我をして血が流れること。病気になること。誰かに心から「ありがとう」と言うこと。昨日の喫茶店の出来事を思い出して笑うこと。全部をまとめて生きるということ。僕の隣にいない翼の分まで、未咲の事を好きになって、いずれは愛して、生きていく。それもやっぱり、生きるということ。
僕の話を聞いてくれた君には、ずっと今を大切に生きてほしい。この物語と出会って、少しでも今を大切に生きようと思ってくれたら嬉しいよ。
さぁ、長くなってしまっても仕方ないし、そろそろこの物語も終わりにしないとね。聞いてくれて、ありがとう。またいつか、僕の話を聞いてくれると嬉しいな。
不思議だね。物語の終わりっていうのは、もっとずっと劇的なものだと思ってたよ。