♪side:雪乃原未咲

「完成しなかったはずのジグソーパズルが」


喫茶店を出て、今までの人生で一番本気のガッツポーズをした。周りが変な目で私の方を見たけど、そんなのはどうでもいい。翔太君の頭の中には翼ちゃんがずっといるんだろうけど、私は構わない。それを乗り越えて私を好きになってくれるって、信じてるから。
ほかの女のことが心に残ってる状態で誰かと付き合うなんて、普通だったら最低だとか言われるんだろうけど、翔太君はその辺ちゃんとわかってると思うから安心してる。正直ちょっと不安ではあるけど。
大人になってから、あの時に失くしたジグソーパズルのピースを見つけた気がした。心の中で黒く穴が空いていたパズルを一度は投げつけてバラバラにしたけど、捨てないでいてよかったと本気で思う。やっと、やっとはまったんだ。あの時恋をしてから、ずっと完成しなかったジグソーパズルがやっと完成した。そう思ったら、自然と涙が溢れてきた。
薄汚れたアスファルトを歩きながら、目頭をハンカチで拭う。メイクが落ちたり涙袋の近くが晴れてしまったりしてブサイクになってるとは思うけど、今はそんなことどうでもよかった。ブサイクなままで歩き続けた。
翔太君からメッセージが来ていた。帰ってからちゃんと返信しようと思い、既読だけ付けて携帯をカバンに戻した。なんて返そうかなぁ。なんて、高校生の彼女みたいなことを考えながら夕焼けに包まれる道を歩く。駅に着いて、隣の市までの切符を買う。電車を待っている間、反対のホームに来る電車のアナウンスが時折構内に響いていた。
帰りの電車に乗り、翔太君へのメッセージを返す。家に帰ってから返信しようとか決めといて、結局もう返信してしまった。しかもとても丁寧な文体で。面と向かってなら、適当になんでも言えるのに、メッセージになると言葉をしっかり選ぶようになる。普通に話せるようになるまで筆談だった翔太君は、ずっとメッセージを送る感覚で自分が発する文章を考えていたんだなぁ……なんて思うと、やっぱり彼はすごいと思う。言葉を綺麗に扱う彼の事がやっぱりどうしようもなく好きだった。そんな彼をこれからもずっと大切にしようと改めて心に決めた。距離も悲劇も全部乗り越えて、また新しい大きなジグソーパズルを、今度は二人で完成できるように。精一杯生きていこう。