♪高橋翼:最後の手紙

「手紙の中の私は、笑えていますか」
遺書。
樋口君へ。同梱してあるICレコーダーには、今の私の気持ちが吹き込んであります。と言っても、どうせ樋口君がこれを見る頃には私は死んじゃってるんだからあんまり関係ないよね。
せっかく想いが通じあったのに、すぐに私が逝ってしまう事を君は許さないでしょう。それでも、許してほしい。どうか泣かないで。あとを追おうとかいう風なバカなことも、絶対に考えないで。そして、できたら忘れないでほしいな。まぁこれは単なる私のワガママ。
最期の時、君の目に映っていた私は、まだ君が愛することの出来る存在でしたか。答えが聞けなくて残念だけど、私は君のことをずっとずっと、いつまでも愛してる。大好きだよ。
こうやって君を愛したのも自分の為。
手術をしないことを選んだのも、自分の為。
死を受け入れたのは自分の決断。
死ぬことを君に伝えたのも、私の決断。
だから、絶対に自分を責めないで。きっと君は、何かにつけて私が死んだことに対して自分を責めてしまっている気がしたから。そうだよ、君は何も、悪くない。
織姫と彦星みたいにとても遠い距離を隔てて一年に一度も会えなくなっちゃったわけだけど、君は私の、私は君の心の中できっと強く生きているって信じてる。だから私は、運命なんてものは恨まないよ。それがたとえ、どんなにか残酷なものだったとしても。
人としての「当たり前」があることがどんなに幸せかを教えてくれた君は、とても大切な人。この世を離れた、今でも。ねぇ、樋口君。私を好きになってくれて本当に、本当にありがとう。
幻想でも妄想でも構わない。そんなもの「どうでもいい」と思うほどに愛した君を、天国に行っても忘れないよ。ありがとう。サヨナラ。
高橋翼
追伸。もし君に奇跡が起きて、世界中の音が聞こえるようになったらICレコーダーの存在を思い出してほしいな。手紙の中の私は、笑えてましたか。