♪side:樋口翔太

「ラブレター、みたいなもの」

この子は僕と同じ考えでいる。そう思うのは一種の傲慢なのかもしれないけど。いや、でも、同じって言っていいのかわかんないけど同じ気がした。だから少し驚いた。普段の未咲さんなら「恋愛は当たって砕けろ」とか勢いのいいことを言いそうな感じの性格をしてると思っていたのに。
というか、僕が誰かから告白される日が来るとは思っていなかった。明日は雪か槍でも降るんじゃないだろうか。天気予報は一応見ておこうかな。なんて下らないことは置いといて、実際どうしたものかと思ってる。弱いまま、逃げてる僕に未咲さんは逃げずに向き合ってくれた。しかも想いを伝える、なんてことまでしてくれた。僕は逃げながら逃げながら、うまく躱してしまっていたのに。
さぁどうしようかと考えているとチャイムが鳴り始めた。これが鳴り終わったら帰宅の時間で卒業生とその保護者は好きな時間に帰宅することになっている。そのあとは友達同士で遊ぶなり食事に行くなり自由だった。決めた。すぐに帰ろう。こんな螺旋階段を登るみたいに同じことグルグル考えてても無駄だと思ったから。その考え通りに僕は、カバンと卒業証書の入った筒を持って玄関へ向かった。足取りはとても重かったけど、悟られないように歩いた。卒業アルバムのフリーページには何も書いてなくて、真っ白だった。いつか、この真っ白のページを見て笑える日が来るのかもしれない、とか思いながら階段を降りた。