♪高橋翼

「いつか来ると思っていた日」

結局あれから二日経ったけど私の身体に特にこれといった変化は無く、本当に死ぬような重い病気なのかすら疑いたくなるほどだった。でもまぁ、死ぬことは分かってはいたから、とりあえず遺書を完成させようと思う。樋口君と話して、そのまま書きかけだった紙を枕の下から取り出して、続きのペンを走らせた。
書きたいことはたくさんあった。約十八年の思い出を全部書いていたら、辞書みたいな厚さになってしまう気がした。想像してみたら可笑しくて笑えてきた。
ある程度絞って書けばそんなに枚数は多くならないと思って、特に私が何かを伝えたいと思っている人に向けて手紙書く感じで遺書を書くことにした。そんな書き方にしようと決めたら、今まで書いていたものが突然不完全なものに見えてしまって、それを丸めて捨てた。
お母さん宛とお父さん宛のを書き終わって、樋口君宛のものを書きはじめた。ペンが止まらなかった。決めていた一人につき一枚があっという間に埋まった。そして私は、それをまとめて枕の下に戻した。


―――その日の夜中。尋常じゃない胸の痛みで目が覚めた。私に繋がってる電極のコードの先の機械が、耳障りな警戒音を出している。吹き出す脂汗。悶えるほどの痛み。熱い身体。目の前の景色がぼやけ、意識が薄れていった。遠くで私の名前を叫ぶ長峰先生の声が聞こえていた気がした。